がん相談窓口が病院ホームページから探しにくい問題

がん診療連携拠点病院にはすべて、がん相談支援センターが設置されています。無料で、がん患者本人だけでなく家族も利用でき、治療の選択肢や療養生活の相談ができます。第4期がん対策推進基本計画 では、「必要な患者が適切なタイミングで相談支援を受けられること」が重視されており、がん相談支援センターの認知度向上や利用しやすい体制整備が重要施策として位置づけられています。拠点病院等に対しては、患者や家族へ適切なタイミングで周知することが求められています。ところが、「がんと言われた直後に病院のホームページを調べたが、相談窓口がどこにあるかわからなかった」という話を聞くことがあります。
存在は知っていても、見つけられない。この問題を少し掘り下げてみます。
病院のホームページはなぜ迷子になるのか
病院のホームページは、組織の構造をそのままメニューに落とし込んでいるものが多いです。「診療部門」をクリックすると「診療科一覧」が並び、その中から「腫瘍内科」を選ぶと、スタッフ一覧や実績がある。病院の組織図にもよりますが、「診療支援部門」の中に「地域医療連携室」があり、そのさらにサブメニューとして「がん相談支援センター」へのリンクがあるような病院もあります。たどり着けなくはないのですが、がんと診断されて間もない患者が「診療支援部門の下を探す」という発想にたどり着けるかというと、かなりあやしいと思います。
組織の論理と患者の論理がずれているためにこのような問題が起こります。病院は「部門」「委員会」「センター」といった単位で動いていて、ホームページもその構造を反映しています。一方で患者が探しているのは「自分の困りごとの解決先」です。がん相談支援センターのメニュー上の位置は病院ごとにばらばらで、ある病院では「地域医療連携部門」の下にあり、別の病院では「患者支援」のカテゴリに入っています。ぼくがいくつかの拠点病院のサイトを見てまわったところ、同じ機能なのにサイト上の居場所がまったく違っていました。これでは患者が「だいたいこのあたりにあるはず」と見当をつけることすらできません。
「トップタスク」という考え方
Webサイトのナビゲーション設計には「top task(トップタスク)」という概念があります*1。利用者がそのサイトで行おうとしている行動を全部リストアップして投票してもらうと、上位のごく少数のタスクに票が集中します。A List Apartの解説によれば、上位5つのタスクだけで全投票の25%を占めることもあるそうです*2。病院のホームページに当てはめると、患者が検索して情報を得たいtop taskは「診療時間を調べる」「予約を取る」「担当医を探す」「アクセスを確認する」といったところでしょう。
一方で、病院が積極的に載せたがるのは「院長挨拶」「病院の理念」「沿革」「年報」「プレスリリース」のようなコンテンツです。McGovernはこの種の項目を「tiny tasks」と呼んでいます。tiny tasksがトップページの画面を占有すると、肝心のtop tasksが埋もれる。がん相談支援センターはこの枠組みの中で微妙な位置にいます。全患者にとってのtop taskかといえば違いますが、がん患者にとっては「がんと言われたらまず相談できる場所」であり、まさにtop taskです。利用者全体で集計するとtiny task寄りに見えてしまうけれど、特定の患者群には切実に必要とされる。この設計上のジレンマがある限り、がん相談支援センターはメニューの奥に追いやられやすい構造を抱え続けます。
認知度の問題か、アクセシビリティの問題か
がん相談支援センターの認知度が低いという問題はよく指摘されます。国の第4次がん対策推進基本計画が目指す方向性は「全患者が存在を知っており、必要になったときに確実にアクセスできること」です。ただ、認知度の問題とアクセシビリティの問題は区別する必要があります。がん相談支援センターやがん相談窓口の認知度の低さは別の記事でまた後日述べたいと思いますが、認知しておりその名前を知っていてもホームページ上で見つけられないなら、それは認知ではなく設計の問題です。
厚労省の「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」では、拠点病院はホームページでがん相談支援センターの情報を提供することが求められています*3。がん情報サービスへのリンク設置も要件です。しかし「ホームページのどこにどう配置するか」までは指定されていません。結果として、多くの病院でがん相談支援センターはトップから3クリックも4クリックも先にあり、がん情報サービスへのリンクはフッターの隅にひっそり置かれています。
がんと診断された直後は、治療のことで頭がいっぱいです。そういう状態でホームページを開いて、5分探して見つからなければ、多くの人はそこで諦めます。「相談できる場所があるのに使われない」という状況の一因が、サイト設計にあるとしたら、それは解決できる問題です。トップページに「がんの相談窓口」のリンクを1つ置くだけで、状況はかなり変わるのではないかと思います。
情報を見つけやすくするために
Web設計の世界では、利用者が目的のページにたどり着くまでの選択肢が明確で構造が整理されていることが重要とされています*4。「部署一覧→診療支援部門→地域医療連携室→がん相談支援センター」は4クリックもある上に、正式名称のどこかに「がん相談」という言葉が入っていない階層を経由しなければたどり着けない構造になっているのは大きな問題です。
メニューのラベルも影響します。「地域医療連携室」と書かれていても、患者にはそこで何ができるのかわかりません。「患者の言葉」でラベルをつけ直すだけで、これだけの差が出ます。「がんの相談窓口」と書いてあれば、それを探している患者は一目で見つけられます。
もう一つ、スマートフォンでの閲覧を前提にする必要があります。病院のホームページへのアクセスの60%以上はスマートフォンからです*5。がん患者の多くは高齢者であることも考えると、タップ領域の広さやフォントサイズへの配慮は基本です。PC向けに作られたメガメニューがスマートフォンでハンバーガーメニューに全部押し込まれている状態は、もっとも情報が見つけにくい構造の一つです。
組織の都合と患者の都合のあいだ
病院ホームページの改修は情報システム部門やWeb制作会社の仕事ですが、何を目立たせるかを決めるのは現場です。「院長挨拶をトップに」「新しいCTの紹介を載せたい」という要望は組織の内側からいくらでも出てきます。患者が本当に探しているものを調べる方法自体はあって、トップタスク分析やカードソーティングのような手法が知られています。しかし多くの病院では、そこに割く余裕がないのが実情です。
自分の職場のホームページからがん相談支援センターのページを探してみて、たどり着くまでのルートがわかりやすいかどうかを調べてみました。毎日そこで働いていて構造を知っているぼくでも、これは人によっては迷うだろうなと感じました。はじめて訪れた患者がたどり着けるかは正直怪しいと思います。「がん相談支援センターが使われていない」と嘆く前に、自分の病院のホームページを一度、初めて訪れた患者のつもりで開いてみることをお勧めしたいです。
この記事に対するコメント
このページには、まだコメントはありません。
*1 Gerry McGovern, Top Tasks: A How-to Guide https://gerrymcgovern.com/books/top-tasks-a-how-to-guide/
*2 A List Apart: What Really Matters: Focusing on Top Tasks https://alistapart.com/article/what-really-matters-focusing-on-top-tasks/
*3 厚労省: がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin.html
*4 Eastern Standard: The Best Navigation Solutions for Hospital & Health System Websites https://www.easternstandard.com/blog/the-best-navigation-solutions-for-hospital-health-system-websites/
*5 Medical Grits: 病院のホームページはどんなものが見やすい? https://medical-grits.jp/news/column/4861/
更新日:2026-06-15 閲覧数:32 views.