がん専門医のSNS情報発信(Meet the Legend編)

2026年6月の日本乳癌学会学術総会(JBCS2026)の2日目、国立京都国際会館の少し離れた部屋で「Meet the Legend」と題されたセッションがありました。登壇者はPaolo Tarantino先生。Dana-Farber Cancer Instituteの乳腺腫瘍内科医で、特に抗体薬物複合体(ADC)領域などの乳癌薬物療法の第一線にいる研究者だけでなく、世界トップクラスの医クラオンコロジストツイッタラーとしてTwitterで知られている、いわば腫瘍学医クラのLegend。*1 テーマは「がん専門医がソーシャルメディアでどう発信するか」。わざわざこの部屋まで話を聞きに来る人たちですから、部屋にいたのはたぶんほぼ全員ツイッタラーです。
#JBCS2026@PTarantinoMD
— tatsunori_shimoi 下井辰徳 (@shimoi_oncology) June 27, 2026
パオロタランティーノ先生のレクチャーが開始! pic.twitter.com/zvhPNrPCcd
Meet the Legendの講演で語られたこと
Paolo Tarantino先生は猛烈なスピードと圧倒的な情報量で乳癌領域のエビデンスを正確かつ迅速に発信し続けることで信頼を積み上げてきた人です。あれだけ大量の発信をしているのにSNS運用チームを持っているわけではなく、一人でやっているということでした。また臨床研究のほうでも第一線で活躍されており、同じ学会でADCなどの乳癌薬物療法について講演された上野直人先生(@teamoncology)も「He is an incredible clinical investigator」と評しておられましたが、臨床研究の力とSNSでの影響力が両方面でトップクラスであるところが特徴です。*2
Good to see Dr @PTarantinoMD at Kyoto Japan. Both os us talked about ADC at JBCS Annual meeting. He is an incredible clinical investigator. #JBCS2026 pic.twitter.com/lvlVCuQEXc
— Naoto T Ueno, MD, PhD (@teamoncology) June 27, 2026
ツイート内容はあなた自身のブランディングそのもの
論文をTwitterで共有すると被引用数にも影響があるということを紹介されたあと、ESMO Openのような学術誌も影響力を高める手段としてソーシャルメディアを活用しているという話をされていました。*3 論文が出た当日に世界中の同じ領域の医師に届く。速さだけでなく、従来のチャネルでは届かなかった読者に届くという点が大きいのだと思います。これについては学会タグの記事についてもご覧ください。

「ツイート内容はあなた自身のブランディングそのものだ」という言葉を軸に、実務的な話も続きました。
「あなたの施設を代表してポストしていると思いなさい」
「危ないと思ったツイートはするな」
「自分の専門領域以外にも注意を払い、興味を広く持つこと」
「SNSから広がる人脈があなたの仕事に好影響をもたらすのだから、周りの人とコラボする機会を大切にせよ」
など、まさにTwitterの世界で長年にわたって精力的に活躍を続けて今の立場を作ってきた人の血が通ったお話です。
信頼できる原典リンクを必ず貼ること、DMを開放しておくこと、投稿前に一度立ち止まること、TwitterとInstagramとLinkedinなどSNSプラットフォーム毎に投稿する内容も発信戦略も変えること。どれもシンプルなルールですが、世界トップレベルのKOLが「実際にやっていること」として語ると重みが違います。
情報収集についても具体的でした。信頼できる少数のアカウントだけをフォローし、内容を精査すること。あまりにも多くのアカウントをフォローしすぎると情報処理量の負担が大きくなるしノイズが増える。また一次情報を大切にし、製薬企業のニュースレターも活用し、週に一度はGoogleで乳癌領域のアップデートを検索して取りこぼしがないか確認する。*4 タイムラインを眺め続けることが情報収集だと思いがちですが、フォロー先の質とSNS以外の情報源の組み合わせのほうが効率的だということです。一方で、発信されている内容は発表された論文や企業プレスリリースなどからのOSINTがメインで、特定のコネ・人脈など非公開の内部情報筋を多用しているわけではなさそうでした。
情報発信をすることの責任
質疑応答で「毎日どのくらいの時間をSNSに費やしているのか」という質問が出ました。会場にいた全員が聞きたかったことだと思います。答えは「スキマ時間をうまく使えば、そんなに時間はかからない」。24時間タイムラインに張り付いているような印象がある人でも、実はそうではないそうです。
🇯🇵 Truly appreciated the opportunity to connect with Japanese oncologists and discuss the expanding impact of social media in oncology. If used well, social media are a goldmine of ideas, information, connections. And also a bit of fun! #JBCS26 https://t.co/btMibqoZ4i
— Paolo Tarantino (@PTarantinoMD) June 27, 2026
会場はSNSでの発信に前向きな空気が満ちていましたが、同時に繰り返し強調されていたのは責任の話です。「Twitterでの発信には責任が伴う」ということはまさにTarantino先生は繰り返し触れておられました。
がん専門医の発言は同業者だけでなく患者さんやそのご家族にも届きます。「危ないと感じたツイートはしない」。これは内容の信憑性に疑問符がつくツイートはもちろんですが、そうでなくても誰かを傷つける可能性がある内容などにも注意が必要です。今のTwitterは本当に些細なことから炎上につながる火薬庫のような状態でもあります。長年の質の高い情報発信で信頼を築いてきた人の言葉だからこそ、このシンプルなルールに説得力がありました。
Xではなく「Twitter」である
もうひとつ印象的だったのは、Tarantino先生が講演を通じて一貫して「Twitter」と呼んでいたことです。プラットフォームの改名以降、学会スライドでは「X(旧Twitter)」が一般的ですが、先生はそういった注釈をつけませんでした。あえて政治的メッセージとしてそう呼んでいたのか、使い慣れていたから自然にそう呼ぶだけなのかは分かりません。ただ、会場の全員がその呼び方で何の違和感もなく通じていたのは確かです。
Tarantino先生の講演を聞いてツイッタラーが核にすべきだと感じたのは、小手先のSNS活用術やバズるテクニックよりも「誰に、何のために発信するのか」という問いでした。それが定まっていれば、プラットフォームが変わっても名前が変わっても、やることは変わらないのだと思います。
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*1 Paolo Tarantino @PTarantinoMD https://twitter.com/PTarantinoMD
*2 @teamoncology https://x.com/teamoncology/status/2070697318492356940
*3 @shimoi_oncology https://x.com/shimoi_oncology/status/2070668610876649582
*4 @shimoi_oncology https://x.com/shimoi_oncology/status/2070669808556011778
更新日:2026-06-27 閲覧数:149 views.