Best of ASCO in Japan 2026と感想


日本臨床腫瘍学会のBest of ASCO in Japan 2026に参加してきました。ASCO年次総会で発表された数々のインパクトの大きい治療について、その領域を代表する国内のプロフェッショナルが解説してくれるという、例年通りの贅沢なセミナーです。今年も刺激を受けた一方で、聞きながら他領域のことを追いかけ続けることが年々厳しくなっているとも感じ、腫瘍内科医という存在そのものの立ち位置がこの数年でまた変わりつつあるのではないかということも感じました。
各領域の第一人者が解説してくれる贅沢さ
Best of ASCO in Japanの魅力は、単に演題を紹介するだけでなく、その分野の第一人者がデータの位置づけや臨床への落とし込み方まで踏み込んで話してくれる点にあります。ASCO本会の演題数は年々増えており、全てを自力で追いかけるのは正直厳しくなってきました。だからこそ、限られた時間の中で要点を押さえて解説してもらえるこの場は貴重です。
ただ、今年は例年以上に治療の進歩のスピードそのものを意識させられました。新しい薬剤や治療戦略が次々と登場し、昨年までの標準治療が塗り替えられる場面も少なくありません。会場の熱量自体は例年と変わらず高く、質疑応答も含めて活気のあるセッションが多かったと思います。しかし情報量が膨大で、ひとつの演題を消化しきる前に次の話題に移っていく感覚があり、正直なところ、ついていくだけで精一杯という瞬間もありました。
臓器横断的な腫瘍内科はもう時代にマッチしないか
10年ほど前、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬が普及し始めた時期を思い出します。がん種を問わずMSI-Highの固形がんに効くペムブロリズマブがFDAから承認されたのは2017年のことで、これはFDAにとって初めてのtissue-agnostic承認でした*1。臓器を横断して効く薬剤が次々と登場し、臓器別ではなくバイオマーカー別に腫瘍内科を捉える発想が一時的に広まった時期でもありました。この頃は腫瘍内科医が臓器領域を超えてがん薬物療法を牽引してゆくのだという業界の熱気みたいなものがありました。実際に臓器が違っていても使う薬剤は共通しているものが多く、マネジメントにはがん薬物療法の専門家としての知識や経験が活かせたのです。
ところが最近のBest of ASCOを聞いていると、話はどんどん細分化しています。同じ肺癌の中でも変異の種類ごとに治療戦略が枝分かれし、同じ免疫チェックポイント阻害薬でもがん種ごとに併用薬やバイオマーカーの使い方が異なります。婦人科癌やHR陽性HER2陰性乳癌など薬剤だけでなく治療の進め方自体が独特の進化を遂げている分野もあります。臓器横断的に語れる部分はむしろ狭くなってきていて、再び臓器別の専門分化が進む時代に向かっているように感じます。
https://twitter.com/m0370/status/2076096028051492998普段診療していない人から見て治療アルゴリズムのわかりにくさが強い領域は、「婦人科」「胃癌」そして「HR陽性HER2陰性乳癌」かなぁ。特にADCが入ってくると肺癌みたいにバイオマーカーと治療薬がクリアカットに繋がらなくなるのが理解しにくさにつながってると思う😅 #BOAJ26
もうひとつ気になったのは、質疑応答で挙がる質問の数が以前より減っている印象があることです。理由は正直はっきりとは分かりませんが、質問をするという行為自体、その領域についてある程度の知識の蓄積がなければ成立しない側面があります。治療が細分化するほど、各自の専門領域を超えた質問できる人が少なくなっていくのかもしれません。
自分のサブスペシャルティをどこに置くか
がん薬物療法専門医の重要性は今後も高まっていくはずです。しかし、腫瘍内科医が薬物療法の全領域を等しくカバーし続けるのはこの情報量の中ではもう現実的ではないということを感じました。
だとすれば、腫瘍内科医としての軸足は保ちながらも、自分のメイン領域をサブスペシャルティとして持つという、少し前の時代の形にもう一度近づいていくと思います。一方で、臓器別診療科の中でも薬物療法を専門とするというスペシャルティの重要性は増してゆくことだと思います。臓器横断的に浅く広く構えるより、自分の主戦場を決めて深く追いかける方の強みが、この進歩のスピードには合っているのでしょう。車輪の片方だけでは進めませんが、うまくバランス感覚を持って仕事に当たってゆく必要があると感じました。
https://twitter.com/m0370/status/2071742883301102072@ifitwasnt1 自分の臓器領域をメインに見つつ、原発不明がんや肉腫など「ウチじゃない」となりがちなのを引き受けたり、irAEなどトラブルシューティングの対応窓口になったり、そういう人が院内にいるだけでもかなり違うので、サブスペがあること自体は悪いことではないと思います☺️そこからどう広げるかですが…
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*1 FDA Approves Pembrolizumab for First Tissue/Site-Agnostic Indication, The ASCO Post 2017年6月10日 https://ascopost.com/issues/june-10-2017/fda-approves-pembrolizumab-for-first-tissuesite-agnostic-indication/
更新日:2026-07-12 閲覧数:89 views.
