レ点腫瘍学ノート

Top日記2026年6月29日

がん薬物療法専門医が不足というニュースを見て

腫瘍内科 がん拠点病院 医学教育

f327478f94.png

2026年6月28日付の読売新聞で、都道府県がん診療連携拠点病院の85%が「腫瘍内科医・がん薬物療法専門医が不足している」と回答したという調査結果が報じられました*1。この調査は全国に400以上ある拠点病院全体ではなく、各都道府県の中核を担う51施設を対象にしたものです。つまり、地域で最も充実した人員を抱えるはずの県を代表する拠点病院でさえ、これだけ足りていないという話です。

数字の背景にある悪循環

日本臨床腫瘍学会(JSMO)が認定するがん薬物療法専門医は、2026年4月時点で全国に1,859人です*2。前年の1,825人から34人増えたものの、全国の拠点病院や大学病院をカバーするにはとうてい足りません。がん薬物療法専門医は「抗がん剤のことならうちに任せてください」と言える存在のはずなのに、腫瘍内科に頼みたくてもいてほしい場所にいないから頼めない、という状況が全国あちこちで起きています。いないから頼めない、紹介できないということが当たり前になっています。

がん治療のこの20年の変化は非常に急速で、その治療内容はどんどん細分化・複雑化しています。薬剤面だけを見ても免疫チェックポイント阻害薬が当たり前になり、抗体薬物複合体が次々と承認され、がんゲノム医療も実装段階に入りました。新しい薬剤が増えるほど副作用のバリエーションも増えますし、irAEのように命に関わる有害事象への対応力も問われます。多剤併用療法の普及、生存期間の延長に伴う治療の長期化、そして患者の高齢化や核家族化など社会的な変化もそこに影響します。「とりあえず先輩の見よう見まねでなんとなく学んでゆく」で回すことはかなり難しくなってきました。

それでも、腫瘍内科医に頼みたくても数が増えないことには始まりません。紹介したくてもいない、いても数が足りなくてがん患者全体のうちごく一部しかカバーできないという問題もあります。地方の拠点病院では、腫瘍内科が一度開設されたにもかかわらず、後継者が育たずに自然消滅してしまったり、消化器内科など他の診療科に吸収合併されてしまったりするケースも実際にあります。一人の腫瘍内科医が定年退職や異動でいなくなると、そのまま診療科ごと消えてしまう。ロールモデルがいなくなれば、その地域から腫瘍内科を志す研修医は出てこない。志望者がいなければ後継者は育たない。そして数が少ないままだと、病院側も「じゃあ腫瘍内科はいなくてもいいか」と判断してしまう。この悪循環が、都道府県拠点の85%という数字につながっています。

志望者を増やす前に、知ってもらう必要がある

「がん薬物療法専門医の数を増やすべきだ」というのは、この領域に関わる人なら誰もが口にする話ですが、数を増やすには志望者を増やさなければなりませんし、志望者を増やすにはその前段階として医学生や研修医に「腫瘍内科という診療科が存在すること」を知ってもらう必要があります。

JSMOの教育企画部会が2023年に全国82大学を対象に行った調査では、91%の大学で臨床腫瘍学に関連する講義が設置されていました*3。91%と聞くと高く見えますが、講義の担当者数は半数の大学で3人以下、4分の1の大学に至ってはたった1人で担当していました。44%の大学は「講義スライドを作るときの参考コンテンツがない」と回答しています。臨床実習に至っては35%の大学で設置されていません。初期研修医がスーパーローテーションで腫瘍内科での研修を経験する割合となるとさらに少なくなるでしょう。数字を細かく見ていくと、医学生や研修医に腫瘍内科を見てもらう機会には大学間で大きな差があることがわかります。

当院に見学に来る医学生の中には、腫瘍内科という診療科そのものを知らない人がいます。「腫瘍内科って初めて知りました」「がんの薬物療法を主な業務にしている診療科があるんですか」と素直に驚かれることも珍しくありません。出身大学に腫瘍内科の講座がなかったり、あっても名前だけで研修医との接点が極端に少ない場合、医学生がその存在を認知する機会はほとんどないわけです。知らないものを志望することはできません。医学生や研修医に少しでもその姿を認知してもらうために、そしてその知ってもらった結果として興味を持ってもらえるように、できることをコツコツやってゆこうと思っています。

この記事に対するコメント

このページには、まだコメントはありません。

お名前:



*1 がん基本法成立20年、薬物治療専門医「不足」9割…がん診療連携拠点病院で深刻, 読売新聞 2026年6月28日 https://www.yomiuri.co.jp/medical/20260628-GYT1T00304/
*2 がん薬物療法専門医について, 日本臨床腫瘍学会 https://www.jsmo.or.jp/public/about-specialists/
*3 医学生に腫瘍内科の魅力を!学会が教育プログラムを作成/日本臨床腫瘍学会, ケアネット https://www.carenet.com/news/general/carenet/58184

更新日:2026-06-29 閲覧数:43 views.