レ点腫瘍学ノート

Top日記2026年6月3日

ASCO26とSNSの一体化した学会運営

ASCO ASCO26 SNS 学会 スライド撮影

ASCO26が最終日を迎えました。5月末から6月頭にかけてシカゴで開催された今年のASCO Annual Meeting 2026は例年にも増して話題豊富で、X(旧Twitter)のタイムラインは連日スライド写真と考察で埋め尽くされました。以前にも学会スライドの撮影・SNS投稿解禁問題医学系学会におけるSNS利用の新潮流として書いてきたテーマですが、今年のASCO26を追いかけていてあらためて思うところがあったので、2026年版として書き残しておきます。

タイムラインが学会場になる

ASCO期間中のXのタイムラインを見ていると、世界中のオンコロジストが同じセッションについてリアルタイムに議論している光景に遭遇します。現地にいる医師がスライドを撮影して投稿し、それを日本にいるぼくたちが見て、すぐさま臨床的な意義を考えてコメントを返す。世界中で同じ瞬間に同じデータを共有して意見を交わせるというのは、冷静に考えるとすごいことです。

今年のASCO26では、膵癌の新規panRAS(ON)阻害薬ダラクソンラシブが二次治療で際立つ成績を出したRASolute-302試験がスタンディングオベーションを受けていましたが、その瞬間にXにはスライドの写真とコメントが溢れ、日本時間の深夜にもかかわらず多くの腫瘍内科医(そうでない医師も)がタイムラインに張り付いていました。スタンディングオベーションの感動は、会場にいなくても伝わってきているようです。

実際にぼくがASCO26期間中に投稿したポストを振り返ってみても、スタンディングオベーションについてまとめたポストは約30,000インプレッション、膵癌の治療戦略に関する考察は16,000インプレッション以上を記録していました。ALK陽性肺癌で切除不能例の75%にコンバージョン手術が実施されたというデータや、T-DXdのILDがアジア全体ではなく日本人だけに突出して多いという意外なデータも、スライド写真とともにXに投稿されることで瞬時に共有され、活発な議論が巻き起こっていました。

無料の広報装置としてのSNS

今年のASCOを見ていてぼくが強く感じたのは、SNSへのスライド投稿は学会にとってとんでもない広報効果があるという点です。

このスレッドでぼくが書いたように、何百人ものインフルエンサーと何千人もの現地参加者が自発的にSNSにスライドの写真を投稿して、学会の熱気を世界中に拡散してくれるわけです。広告代理店に1円も払わなくても、この効果が得られる。それを見た世界中の医師たちが「来年はシカゴに行きたい」と思ってくれる。学会としてこんなにありがたい仕組みはないはずなのに、なぜか日本の学会の多くはそれを禁止している。

海外の医師たちのポストを見ていると、ASCOの会場で出会った著名な研究者と自撮りをしてXに投稿したり、セッションの合間にスライドの写真を共有したりすることがごく自然に行われています。このようなカジュアルなSNS利用がASCOという学会のブランドイメージを支えていることは間違いないでしょう。日本人の参加者もその場にいるわけですが、日本の学会とはSNSとの距離感が全く違っていることを痛感します。おそらく海外から日本の学会(たとえばJSMO)に参加するために来日した海外オンコロジストは、そのSNSでの盛り上がりの乏しさに違和感を感じるのではないでしょうか。

さらに注目すべきは、ASCO公式アカウント(@ASCO)自身がこうした参加者の投稿を積極的にリポストしていることです。たとえば、ダラクソンラシブの結果発表でスタンディングオベーションが起きた瞬間を投稿した@DrSamuelBHumeのポストは9,350いいね、184万インプレッションを記録しましたが、これをASCO公式がリポストして拡散を後押ししていました。

ほかにも、"New @ASCO trend: Post your first and last selfie of the meeting!"と自撮りを呼びかけた@crisbergerotのポストもASCO公式がリポストしています。学会の公式アカウントが参加者のSNS投稿を拾い上げて増幅するという行為そのものが、「うちの学会ではSNS投稿を歓迎していますよ」という明確なメッセージになっているのです。日本の学会で「公式が参加者の投稿をリポストする」という光景はまだほとんど見られませんが、この差は小さくありません。

プライバシーへの配慮と全面禁止は別の話

もちろん、学会スライドの撮影を無条件に許可すべきだと言いたいわけではありません。ぼくも元のポストで触れたように、個人が特定される症例写真やポスター応募演題(PAP)には配慮が必要です。がんの症例報告では患者の画像情報が含まれることがありますし、まだ査読前の段階にある研究データを広く拡散されることに抵抗を感じる演者もいるでしょう。そうした懸念は正当なものです。

ただ、それは「全面撮影禁止」の理由にはなりません。プライバシーへの配慮が必要な演題には「DO NOT POST」の表示をつけて個別に対応し、それ以外の演題は原則として撮影・SNS投稿を許可するという運用は、すでに日本国内でも日本癌学会・日本病理学会・日本癌治療学会などいくつかの学会も同様の方式を採用しました。プライバシーの保護や著作権の管理は当然必要ですが、それを理由にして情報共有の手段そのものを封じてしまうのは、あまりにも保守的にすぎるとぼくは思います。

SNS時代の学会とは何か

ASCO26を追いかけていてもう一つ思ったのは、SNSは単なる広報の手段ではなく、学会体験そのものの一部になっているということです。Xでは「いくつかの特定のアカウントを集中的に追いかけるようにしています」という腫瘍内科医の投稿が流れていましたが、このように多くの医師が、現地に行けなくてもSNSを通じてASCOに「参加」しているのです。

SNSのおかげで膵癌のダラクソンラシブのすさまじいデータも、乳癌や前立腺癌の骨転移へのデノスマブの投与間隔延長の話題も、ALK肺癌のコンバージョン手術のとんでもない成績も、個別化ネオ抗原がんワクチンの可能性も、ほぼリアルタイムで把握できました。NEJMの論文がASCO発表に合わせて事前公開されるパターンや、FDA承認が発表翌日に降りるスピード感まで含めて、タイムラインがすべてを教えてくれる。これはスライド撮影とSNS投稿が自由であるASCOだからこそ成り立つ体験です。

日本の学会が同じ水準でSNSを活用できるようになるには、まだ時間がかかるかもしれません。しかし、撮影解禁に踏み切る学会は着実に増えてきています。まだ禁止を続けている学会も、「禁止しないとどんな問題が起きるのか」を具体的に検証してみてほしいと思います。ASCOやESMOで深刻な問題が起きていないのであれば、日本だけが禁止し続ける合理的な理由は薄いのではないでしょうか。

この記事に対するコメント

このページには、まだコメントはありません。

お名前:


更新日:2026-06-03 閲覧数:54 views.