レ点腫瘍学ノート

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ASCO2021感想まとめ

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ASCO2021が終幕しました。今年も色んな領域の新しい知見が発表されました。この1週間、TwitterにもたくさんのASCO関連のツイートが流れてきたので、印象深かったのをまとめておきます。

Thank you to the oncology community (all 32,500 of you!) for joining us at #ASCO21! We’re heartened to see ASCO members, patient advocates, exhibitors & more come together to advance progress against cancer. We look forward to seeing everyone in Chicago & online for #ASCO22! pic.twitter.com/B0fk5uduG7

— ASCO (@ASCO) June 9, 2021

KEYNOTE-177試験 #3500

MSI-H/dMMR大腸癌に対する一次治療のペムブロリズマブ vs 標準治療

Final Analysis KEYNOTE-177: Pembrolizumab shows continued PFS benefit, fewer AEs, improved HRQoL in MSI-H/dMMR mCRC compared w chemo https://t.co/BtLPAtr8uk #ASCO21 #ASCODailyNews #crcsm pic.twitter.com/3o8l83fW1T

— ASCO (@ASCO) June 9, 2021

MSI-H/dMMR大腸癌ではKEYNOTE-164の結果からすでに二次治療以降でのペムブロリズマブの有用性が示されて標準治療になっていますが、これを一次治療に持ってきて既存の標準治療と比較させようという意欲的なデザインです。

昨年のASCO20ではすでにこのKEYNOTE-177のPFSが発表されており、PFSが標準治療群8.2ヶ月に対してペムブロリズマブ群は16.5ヶ月と倍増してみんなを驚かせました。

#ASCO20の演題のうちJCOG0603に関する記事をアップしたところでやめておけばよかったのに、次は性懲りもなくKEYNOTE-177の方にも手を伸ばしてしまいました。いろいろと見る人によって解釈が分かれるJCOG0603と違ってKEYNOTE-177はおおむね当初の予想どおりのポジティブ試験で、JCOG0603ほどTwitter

あまりにもペムブロリズマブの治療成績が良かったので、FDAでは申請から1ヶ月の2020年7月にこのMSI-H/dMMR大腸癌の一次治療でのペムブロリズマブを承認しています。

After ~15 years of an increasingly stale marriage to fluoropyrimidines and the ice queen oxaliplatin, GI oncologists have a wandering eye for the new hotness of IO in mCRC after KEYNOTE-177#crcsm#ASCO20 pic.twitter.com/CAzDD5NIM3

— Mark Lewis (@marklewismd) May 31, 2020

当時はこんな画像も。消化器腫瘍内科医は、それまで15年も一途に連れ添ったFOLFOXが隣にいるというのに、ペムブロリズマブという若くてマブい女と出会ってしまって、にわかに浮足立っている、というものです。。。

Final Analysis KEYNOTE-177: Pembrolizumab shows continued PFS benefit, fewer AEs, improved HRQoL in MSI-H/dMMR mCRC compared w chemo https://t.co/BtLPAtr8uk #ASCO21 #ASCODailyNews #crcsm pic.twitter.com/3o8l83fW1T

— ASCO (@ASCO) June 9, 2021

しかし、今回OSの結果が発表されると、なんとKEYNOTE-177はOSが事前設定された有意水準に届かないという残念な結果だったようです。

Great summary from Nilofer Azad (@JohnsHopkins) on KEYNOTE-177, DEEPER & FIRE-4.5 highlighting personalized medicine in #ColorectalCancer@VJOncology @ASCO #ASCO21 @OncoAlert #GIsm #CRC #CRCsm #OncoAlert pic.twitter.com/5dqRAOnF67

— VJ Oncology (@VJOncology) June 7, 2021

これを見ると生存曲線はペムブロリズマブ群が十分に標準化学療法群に差をつけているように見えて、OSのHRは0.74です。すでに発表されているPFSも0.60前後なので、大腸癌一次化学療法の標準治療を相手にこれだけの数字を出せれば治療成績としては十分。

ペムブロリズマブ群は5年の時点でOS中央値未達ながらロングプラトーになってしまっているので、MSTは一体どこまで伸びるのやら。これだけ優秀な成績を出していますがOS HR 0.74のp=0.0359が事前設定の有意水準0.0246を上回ってしまっているのでOSはunmetということになってしまいました。

PFSが発表された昨年のASCOの時点ではコントロール群の治療成績が悪かったのでは?ということを言ったりしてしまいましたが、その後のデータ追跡を経て今回のOSではコントロール群のMSTも36.7ヶ月と非常に良好で、これが差が付かなかった一因かもしれません。

クロスオーバーの影響?

Keynote177: OS not significantly different with pembro vs chemo in dMMR mCRC with median OS not reached vs 37mo. BUT 60% of patients in chemo arm received immunotherapy in later lines of treatment, which is still highly effective. #ASCO21

— Myriam Chalabi (@MyriamChalabi) June 7, 2021

クロスオーバーの影響を指摘するツイートもたくさんあるようですが(実際に60%があと治療に何らかの抗PD-1療法を受けている)、しかしこれまでの一次治療のKEYNOTEでは024も189も407も048も、先にペムブロリズマブを投与された群がロングテールに入ってしまうと化学療法後にクロスオーバーした群が追いかけてきてもその差を埋めることはできず、「クロスオーバーしても早いラインでペムブロリズマブを入れた群には追いつけない」というのが普通だったのです。

それを考えると、最強の奏効予測バイオマーカーであるMSIで選別した患者層に対してペムブロリズマブの先行投与がOSで有意差を示せないのは、何か試験デザインの問題ではないかと勘繰ってしまいます。生存曲線はこれだけ開いていますので…。

一次療法のペムブロリズマブで恩恵を受けられない患者を選別するバイオマーカーが必要

CHECKMATE-648 data are amazing but remind me of KEYNOTE-177 insofar as they raise the question:

It would be wonderful to spare ALL GI oncology patients the rigors of chemo but there are clearly some who still need cytotoxics (look at initial descent in OS curve) - who?#ASCO21 pic.twitter.com/Noo31PljSb

— Mark Lewis (@marklewismd) June 5, 2021

結局、胃癌のKEYNOTE-062もMSI-H大腸癌のKEYNOTE-177もペムブロリズマブ単剤がかなり良好な成績を示しつつもギリギリ有意水準には届かず(これについてはアルファを分割して多数のエンドポイントを同時に設定するMSDの試験デザインの失敗だとも言えますが)、ペムブロリズマブは重要なプレーヤーではあるものの一定割合の患者はやはり従来型の細胞障害薬での化学療法を必要とするということを示唆していそうです。

問題は今の時点ではこれをさらに高い精度で選別するバイオマーカーがなく(MSI-Hに限定した患者群の中ですらペムブロリズマブより化学療法で恩恵を受ける層がある)、今後もここを選び抜くプレシジョンオンコロジーの挑戦は続きそうです。

成績は悪くないが承認はされるのか問題

ところでKEYNOTE-158のMSI-Hに対するペムブロリズマブはもちろん、KEYNOTE-811のHER2陽性胃癌に対するトラスツズマブ+ペムブロリズマブもOSは全然見ずに承認されてしまっているので、このKEYNOTE-177でOSが unmetだから承認しないというのはアンバランスに思うのですが、どうなるんでしょうか。

KEYNOTE-158はMSI-Hが希少がんだからということで甘めに判断されたのだとすると、今回のKEYNOTE-177もMSI-H限定の大腸癌で十分に希少フラクションなので…。

JACCRO CC-13(DEEPER)試験 #3501

RAS野生型大腸癌に対する一次治療のFOLFOXIRI+Cet vs FOLFOXIRI+Bev

Dr Akihito Tsuji 🇯🇵 presents the study schema of Ph2 DEEPER trial in previously untreated RAS WT #crcsm #GIonc #ASCO21 pic.twitter.com/b38TEuan3p

— Dr Joseph McCollom DO (@realbowtiedoc) June 7, 2021

RAS野生型進行大腸癌でFOLFOXIRI+CetをFOLFOXIRI+Bevと比較した意欲的な臨床試験、しかも日本で行われた貴重なエビデンスです。

Dr Akihito Tsuji 🇯🇵 presents the primary outcome of the aptly named DEEPER trial being DEPTH of response which was met. left sided tumors benefited from cetuximab > right #crcsm #GIonc #ASCO21 pic.twitter.com/pFTADNrYZO

— Dr Joseph McCollom DO (@realbowtiedoc) June 7, 2021

全症例の82%の患者が左側大腸だったようです。左側と右側の解析では、Bev群はあまり差がないけれど、Cet群はDpRが10%程度低く、やはりセツキシマブは左側が得意のよう。

Dr Nilofer Azad @hopkinskimmel grapples alongside #GIonc docs on how does depth of response help us make decisions in the DEEPER trial #crcsm #ASCO21 pic.twitter.com/HcMqZHmVMw

— Dr Joseph McCollom DO (@realbowtiedoc) June 7, 2021

主要評価項目はDpR

ちなみにこの試験は主要評価項目がOSやPFSでなくDpRになっています。Cetはこれまでも瞬発力があり奏効の深さで有利なのでコンバージョン切除率が高いという評価を得ていたので、この試験でもDpRはCet群が勝ると考えられていました。

主要評価項目であるDpRでは確かにCet群が優っていました(57.6% vs 46%)が、ORRやDCRは差がなく(数値自体はBev群がわずかに上)、そしてコンバージョン手術に強いということが期待されていたもののR0切除率にも差がないという結果でした。

左側大腸の患者を集めても(DpRで高くても)ORRやR0切除率で差がないとなると、切除を狙ってCetという意見の根拠が少し弱くなってしまったかも?

OSやPFSで比較したい気も…

そして、やはり気になるのは主要評価項目がOSやPFSでなかった点。せっかく360人もの患者さんに協力してもらって臨床試験をしても、エンドポイントが一般的な臨床試験と違っているとその価値が後世に伝わりにくくなって、もったいなかったような気が…。

最近は様々な主要評価項目を設定する試験が増えているとは言え、細胞障害薬のhead to headのような比較試験ではやはりOSかPFSで見たほうが試験の価値も高まったような気もしますが、評価まで時間がかかり(それに伴って臨床試験実施コストも上がる)、必要症例数も増えて、現実には難しかったのかもしれませんが。

「積極的に攻める症例」でのセツキシマブの立ち位置は?

さて、セツキシマブはFIRE-3の頃には「どんどん前のラインで抗EGFR抗体を使うべき」というイケイケドンドンの雰囲気だったのに、最近はまた徐々に後ろのラインへ押し込まれてますね。

リキッドRASでのリチャレンジなんて最終ライン近くで使うことが前提のような設計にも見えますし…。今後、セツキシマブは大腸癌診療で存在感をどれくらい保ち続けられるんでしょうか。。。

FIRE-4.5試験 #3502

BRAF変異大腸癌に対する一次治療のFOLFOXIRI+Cet vs FOLFOXIRI+Bev

@StintzingS shows the early OS data (only 1/3 patients with events) but appears to show comparable OS between both arms in FIRE-4.5 trial #crcsm #GIonc #ASCO21 pic.twitter.com/gYoWLZJl00

— Dr Joseph McCollom DO (@realbowtiedoc) June 7, 2021

そのJACCRO CC-13(DEEPER)試験の横で、BRAF V600E変異陽性大腸癌の一次治療でのFOLFOXIRI+Bevに対するFOLFOXIRI+Cetの優越性を証明しようとしたFIRE-4.5試験も発表されていましたが、こちらもネガティブ。ORRはCet群が49.2%に対してBev群が60%。PFSはCet群が6.3ヶ月に対してBev群は10.1ヶ月ですがPFSはimmatureで評価できないという判断になっているようです。

こちらについては先程のJACCRO CC-13(DEEPER)試験と少し雰囲気が違っていて、BRAF V600E変異陽性というややアウェーなセッティングでCetがBevを上回ることはないだろうという多くの方の予想通りの結果になったのではないでしょうか。

BRAF変異にはエンコラフェニブ・ビニメチニブなどが二次治療で待っているので、以前ほど無理にセツキシマブを一次治療で入れる必要性は無くなったのではないかとも思います。

こちらへ続く

こちらから続く #ogpi(https://oncologynote.jp/?eaad40b042)TRUSTY試験 #3507 大腸癌二次治療のFTD/TPI+Bev vs FOLFIRI+Bev さて次は大腸癌の二次治療の演題を見てみましょう。大腸癌二次治療のFOLFIRIはかれこれ15年くらい今のポジションをキープし続け
こちらから続く #ogpi(https://oncologynote.jp/?eaad40b042) ASCO2021感想まとめ(2)こちらから続く #ogpi(https://oncologynote.jp/?eaad40b042)TRUSTY試験 #3507 大腸癌二次治療のFTD/TPI+Bev vs FOLFIRI+

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更新日:2021-06-12 閲覧数:2490 views.