レ点腫瘍学ノート

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がん化学療法中の患者は新型コロナウイルスワクチンをどうすべきか問題

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「抗がん剤治療(がん化学療法)を受けている患者は新型コロナウイルスのワクチン接種をどうすればよいのか」という質問を頻繁に受けますので、現時点で出ている情報をもとに整理してみました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るっていますが、ようやく開始されたワクチン接種が新型コロナウイルス感染症の流行を抑えるきっかけになるのではないかと期待されています。

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まず前提

データが乏しくまだわかっていないことが少なくない

そもそもの前提として、新型コロナウイルスに対するワクチンの臨床試験では免疫抑制患者や細胞移植療法を受けた患者は参加基準から除外されていたために、これらの患者に対する新型コロナウイルスワクチンのエビデンスは現時点では非常に限られています。したがって、(臨床試験後のユニバーサルワクチンが始まったあとなどのリアルワールドデータが集まってくるまでは)現時点で入手できる乏しいエビデンスで指針を考えてゆかなければなりません。

感染した場合のデメリットは大きい

一方で、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合は、がんなどの基礎疾患があると重症化率や死亡率が高いことが示唆されています*1*2*3。したがって、エビデンスがないからといってワクチン接種を盲目的に控えてしまうことは避けるべきでしょう。さてさてどうしたものか。

いずれデータが蓄積されてゆけば最善の指針が発表されると思いますが、ひとまず我々は今月にも順次始まるワクチン接種をどうするか考えなければなりませんので、現時点で入手できそうな情報をさらってみます。

国内の主要な情報

海外でも臨床試験ベースなどのデータはほとんどありませんので、現時点ではガイダンスや提言などを見てみるしかない状況ですが、それでもざっと調べたところほとんど情報は出そろっていないようです。

がん情報サービス

がんと日常生活に関する疑問が湧いたらまず確認すべきは国立がん研究センターのがん情報サービスのサイトです。ここはエビデンスに基づいた質の高い情報が取りそろえられているので大変参考になるサイトですが、今のところは新型コロナウイルス感染症に関する情報はあってもワクチン接種の指針に関する情報は出ていないようです(2021年2月16日時点)。

新型コロナウイルス感染症Q&A:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
https://ganjoho.jp/public/support/infection/covid19_QA.html

3学会合同 がん診療と新型コロナウイルス感染症:医療従事者向けQ&A

こちらは日本癌学会・日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会の3学会が合同で作成しているがん診療と新型コロナウイルス感染症に関するQ&Aがまとめられたサイトで、開設当初は非常に簡素な内容でしたが地道にバージョンアップを重ねて内容が徐々に充実し、現在はがん診療と新型コロナウイルス感染症に関する情報をまとめたサイトとしては国内でもかなり高いレベルの信頼度のあるないようになっていると思います。しかし先日の改訂第3版でもまだワクチンに関する記載は出ていないようです(2021年2月16日時点)。

新型コロナウイルス感染症 関連情報 | お知らせ | 日本臨床腫瘍学会
日本臨床腫瘍学会公式WEBサイトでは、患者・家族、国民、がんの研究者・医療者に対し、がんあるいはがん医療に関する国内外の情報を発信しております。
https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information/qa_medical_3gakkai.html

がん患者支援団体として有名なキャンサーネットジャパンの「COVID-19に関するがん患者さんと家族のためのQ&A」にもワクチンのことはまだ出ていないようです(インフルエンザワクチン接種に関する情報は出ています)。

「COVID-19に関するがん患者さんと家族のためのQ&A」
「COVID-19に関するがん患者さんと家族のためのQ&A」質問と回答集 全件表示 [sp_faq]……
https://www.cancernet.jp/covid-19-qa/all

現時点で確認できるものとして、四国がんセンターが2021年2月5日から掲出しているこのファイルに記載があります。これによると、がん患者さんに対する新型コロナウイルスワクチンの効果は不明としながらも、ワクチンの成分などに対してアレルギーがない限りはワクチン接種を受けることを推奨するとなっています。

https://shikoku-cc.hosp.go.jp/hospital/2021/02/10/data/vaccine_20210205.pdf

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の提言は

国内ではまだエビデンスの高い情報発信が少ないようでしたので、次に本邦より数ヶ月はワクチン接種が先行している海外ではどのような提言がなされているのかを見てみましょう。

ASCOは次のように提言しています。

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エビデンスは乏しいながらも基本的に推奨

ファイザーのワクチンもモデルナのワクチンも免疫抑制療法患者や細胞移植療法などを受けている患者は臨床試験から除外されていたためこれらの患者に対するワクチンの有効性と安全性に関するエビデンスは現時点では乏しい状況です。しかし免疫抑制状態患者では重症化率が非常に高いことなどを考えると、現時点ではワクチンの有効性が劣っている可能性があったとしてもワクチン成分に過敏反応などの禁忌がない限りはワクチン接種を勧めることになっています。また、現在化学療法や放射線療法、幹細胞移植などを行っている患者であっても治療のサイクルの間や適切な移植後待機期間を経てワクチン接種を行うことができるとも提言しています。

現時点ではワクチン接種が禁忌であるのはその成分にアレルギーがある患者のみである(逆に言うとワクチン成分にアレルギーなどがない限りは禁忌ではない)としており、基本的にはがん患者であってもワクチン接種をする方向が妥当な印象です。

ワクチン接種後も基本的な感染予防策を

がん患者や免疫抑制患者はワクチン接種後も抗体獲得率が十分あるのかわかっていないため、ワクチン接種後も引き続きマスク装着や社会的距離の確保、適切な手指衛生などの感染予防策を講じるべきとも記載されています(これはがん患者に限らず、抗体獲得率が100%でない以上はがん患者でなくても気をつけるべきだと思いますね)。

患者向け情報では担当医に相談せよと推奨

一方でがん患者向けのページでは、ワクチン接種するかどうかは原則として担当医に相談せよとなっておりますので、一様なお仕着せではなく個々の患者の状況に応じて担当医が適切に判断することはやはり重要なようです。

https://www.cancer.org/treatment/treatments-and-side-effects/physical-side-effects/low-blood-counts/infections/covid-19-vaccines-in-people-with-cancer.html

NCCNの提言は

米国で様々なガイドラインや診療指針を出しているNCCNが2021年1月22日にがん患者の新型コロナワクチンの推奨(暫定版)を出していました。

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これによると、骨髄移植後は3ヶ月後から、白血病等の強力化学療法は好中球回復後、また外科領域ではメジャー手術後は数日後から新型コロナウイルスワクチンを打つことが可能になります。一方でその他の場合は、16歳以上であれば血液腫瘍も固形がんも、化学療法中であっても免疫チェックポイント阻害剤治療中でも放射線照射中でも、もちろんサバイバーの経過観察中であっても、「ワクチンが入手でき次第ワクチン接種を受けるように」と提言されています。

https://www.nccn.org/covid-19/pdf/COVID-19_Vaccination_Guidance_V1.0.pdf

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)のガイダンスでは

ESMOは新型コロナウイルス感染症の流行早期からがん患者がどのようにこの感染症に対処すべきかの指針を表明してきました。もちろんワクチンについても早い段階から専用ページを設けて情報を発信しています。

https://www.esmo.org/covid-19-and-cancer/covid-19-vaccination

ただし、現時点で得られるエビデンスはASCOもESMOも基本的に変わりませんので提言の内容もほとんどASCOと同様の様子になっています。ESMOのほうが積極的にインフルエンザワクチンなど他のワクチンで蓄積された知見を応用・外挿している印象がある程度でしょうか。

基本的にインフルエンザワクチンに準じる

抗がん剤治療の開始を予定している場合は可能であれば抗がん剤治療の開始前にワクチン接種を済ませることが望ましいと記載されていますが、これは従来のインフルエンザワクチンの考え方*4と同じですね。新型コロナウイルス感染症に罹患すればがん治療が1ヶ月か場合によってはもっと長期間にわたって中断せざるを得なくなってしまうため、予防できる感染は防ぐという考え方です。

一方で抗がん剤治療を受けている最中の患者の場合はどのタイミングでワクチン接種をするのが最善かははっきりしたデータはありません。インフルエンザワクチンでのエビデンスを外装すれば、一般的ながん化学療法を受けている最中にワクチン接種をしても抗体獲得率に遜色はないというデータ*5*6もある一方で、殺細胞性化学療法中のワクチン接種では免疫獲得率が低いというデータ*7もあるようです。ぼく自身の外来では、抗がん剤の点滴と点滴の間(可能であれば血球数が回復してきているであろうと推測される「次回抗がん剤投与の数日前」)を勧めています。

また、がん患者の家族のワクチン接種についてはこの文章内で直接の言及はないのですが、インフルエンザワクチンの知見を外装するとすれば、自宅内に新型コロナウイルスを持ち込んでがん患者にそれを移してしまうリスクを可能な限り提言するためにがん患者本人のみならず同居の家族など接触することが多い人は全員にワクチン接種を推奨するほうが望ましいでしょう。自宅内という密な環境内に置いても小単位の集団免疫を形成するイメージで、言い換えれば家族ぐるみでがん患者を守るということにもなります。

免疫チェックポイント阻害剤使用中

免疫チェックポイント阻害剤の投与中でもワクチン接種は問題なく可能というデータはあります*8。通常通りのワクチン接種を行って問題ないと思われます。

したがって、ESMOの提言もASCOと似たような感じで成分の過敏症などの禁忌がない限りはがん患者にも新型コロナウイルスワクチンの接種を推奨しています。可能であれば抗がん剤治療の前または治療サイクル間に接種します。

ワクチン接種の優先順位

ちなみに現時点では新型コロナウイルスのワクチン接種の優先度は下記の通りとなっています。

(1) 医療従事者等

(2) 高齢者(65歳以上)

(3) 高齢者以外で基礎疾患を有する方や高齢者施設等で従事されている方

(4) それ以外の方

3)の「基礎疾患を有する方」に該当する病気等

1) 以下の病気や状態の方で、通院/入院している方 1. 慢性の呼吸器の病気

2. 慢性の心臓病(高血圧を含む。)

3. 慢性の腎臓病

4. 慢性の肝臓病(ただし、脂肪肝や慢性肝炎を除く。)

5. インスリンや飲み薬で治療中の糖尿病又は他の病気を併発している糖尿病 6. 血液の病気(ただし、鉄欠乏性貧血を除く。)

7. 免疫の機能が低下する病気(治療中の悪性腫瘍を含む。)

8. ステロイドなど、免疫の機能を低下させる治療を受けている

9. 免疫の異常に伴う神経疾患や神経筋疾患

10. 神経疾患や神経筋疾患が原因で身体の機能が衰えた状態(呼吸障害等) 11. 染色体異常

12. 重症心身障害(重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態) 13. 睡眠時無呼吸症候群

2) 基準(BMI 30 以上)を満たす肥満の方

BMI30 の目安:身長 170cm で体重約 87kg、身長 160cm で体重約 77kg。

がん治療中の患者は上記の分類でいえば(3)に該当すると思われますが、65歳以上の場合は(2)に該当します。基礎疾患の程度によるものの、感覚的には普通の高齢者よりは基礎疾患ありの人の方が優先度が上じゃないのかという気もするのですが。

まとめ

データは乏しいながらも現時点で言えることとしては、担癌患者はワクチン接種により抗体が獲得できる確率が保証できないという制約があるものの、基礎疾患があると重症化率や死亡率が高いというデータがあることや感染によりがん治療が中断してしまうデメリットを回避するために基本的にワクチン接種を勧めるのがよさそうです。


続報はこちら

抗がん剤治療(がん化学療法)を受けている患者は新型コロナウイルスのワクチン接種をどうすればよいのかという問題について2021年2月に記事を書いておりました。その後に発表された新しい情報も含めたアップデート版をお届けします。

COVID-19


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*1 Nature 2020; 584:430-436.
*2 Lancet 2020; 395:1907-1918.
*3 registry. Ann Hematol 2020; Online ahead of print. doi: 10.1007/s00277-020-04328-4
*4 Cochrane Database Syst Rev 2018; 2: CD008983.
*5 Br J Cancer 1999; 80:219-220.
*6 Support Care Cancer 2001; 9:65-68.
*7 Br J Cancer 2011; 104:1670-1674.
*8 Ann Oncol 2020; 31:959-961.

更新日:2021-02-16 閲覧数:3740 views.