がん化学療法中の患者は新型コロナウイルスワクチン問題(その2)
「抗がん剤治療(がん化学療法)を受けている患者は新型コロナウイルスのワクチン接種をどうすればよいのか」という問題について2021年2月に記事を書いておりました。その後に発表された新しい情報も含めたアップデート版をお届けします。
↓前の記事はこちら
2021年2月の第1報の記事を書いた当時は国内の情報はほとんどなくESMOやNCCNなどの海外からの情報を元にするしかありませんでしたが、その後にたくさんの情報が相次いで発信され始めました。もちろん国内からの情報もあり、一般の臨床現場でもかなり使いやすい情報も充実してきています。
その中で主なものをここでご紹介したいと思います。
国内の情報
国内では新型コロナウイルス感染症に関して、これまでにもご紹介していたとおり日本癌治療学会・日本癌学会・日本臨床腫瘍学会の3学会が合同で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A」というものを発表してきていました。この3学会合同のQ&Aについてついにワクチン編第1版が発表されました。これが国内で現時点で利用できる最も信頼度の高いがん患者と新型コロナウイルスワクチンに関する情報ではないかと思われます。
この中では冒頭での最初にQ&Aでがん患者は新型コロナウイルスワクチンに関して主治医との相談が必要とは留保しながらも「前向きに検討しましょう」と提言しています。予防効果というベネフィット(利益)と様々な副反応というリスク(損失)がありますが、がん患者はこれまでにもCOVID-19に罹患した際の重症化率や死亡率が高いことを示唆するデータがたくさん出てきており、一方でワクチンのリスクが特別高まるというデータは今のところ無いことやワクチンのCOVID-19感染予防効果自体が極めて大きいことから、全体としてはやはりワクチン接種をするほうがリスクよりベネフィットが大きいだろうという考え方が主流のようです。
なお、がんに対する薬物治療中の患者では、細胞障害性抗腫瘍薬の治療中の場合は点滴当日や血球減少期を避ける方が無難であるとしているほか、ワクチン接種の副反応としてしばしば発熱が見られることが報告されていることから次サイクルの点滴予定日の2〜3日前も避けた方が治療が円滑に進むのではないかと提案されています。接種後の注意として、ワクチンの副反応としての発熱とFN(発熱性好中球減少症)を混同しないことが重要であるとも言及されています。
分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬による治療中の場合は分子標的治療薬などの種類を問わず新型コロナウイルスワクチン接種の障害はほとんど無く、積極的にワクチン接種を受ける方が良いでしょう。
また、この3学会の提言とは異なりますが日本腎臓学会が「腎臓病で免疫抑制療法を受けている患者さんへのCOVID-19ワクチン接種に関する見解について」という提案をしており、こちらではリツキシマブに関してはワクチン接種の時期を検討することが望ましいと考えているようです。
具体的にはこちらの文献で言及されているように、リツキシマブの投与からは6ヶ月の間隔を開ける事を進める提案があります。
日本肺癌学会は肺癌限定ではありますが、2021年2月18日に肺癌患者のワクチン接種についての推奨文を発表しています。肺癌限定とはいえ、肺癌診療は手術あり放射線治療あり、薬物療法においても細胞障害薬・分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬などほとんどのモダリティの治療を行う領域ですので、他の臓器のがん診療にもおおむね応用できるのではないかと思います。ちなみにこの文書を発表した2月18日というのは日本国内で新型コロナウイルスワクチンの接種が開始された2月17日の翌日にあたります。
国内の個別の医療機関では2/10に四国がんセンターがwebサイトに掲載したFAQ(https://t.co/W28cRGN7I3)がおそらく最速。ついで2/22の宮城県立がんセンター(https://t.co/HLp3I9VkcG)。国内がん情報の本丸であるがん情報サービス(https://t.co/gPoarnRQkb)は3/25時点でワクチンの言及無し…
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) March 25, 2021
海外の情報
海外では比較的早期からNCCNの暫定的エキスパートオピニオンとしての提言が発表されていましたが、3月10日にその提言はver.2.0にアップデートされたようです。
そしてブログ記事でも言及していたNCCN提言は3月10日にVer2.0になっています。ver2.0でも基本的にがん患者にはワクチン推奨、ただし大手術の直前直後は避ける、急性白血病では好中球立ち上がりを確認してから、幹細胞移植からは3ヶ月後からと。おおむねver1.0と同様です。https://t.co/JsYLlMLW8Q
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) March 25, 2021
また同じ時期にPerspectiveとしてミニレビューも掲載されています。上記のNCCN提言もこちらのレビューもいずれも一貫として基本的にワクチン接種を推奨するというスタンスであることは変わりません。
なお、固形臓器移植後の患者ではワクチン1回接種後の抗体獲得率が低そうであるというデータ*1もあることから、やはり2回接種を行うこと、また特にハイリスク患者においてはワクチン接種後も接触予防策などの基本的な感染対策を継続することが重要であるということは言えそうです。
海外の情報ですが、さらに詳しく勉強したいという方にはASCOががん患者ケアとワクチンに関する2021年3月30日のWebinarを無償公開しています。英語でしかも1時間という長丁場ですが、各国の専門家が現時点で入手できる最新の情報についてのレクチャーをしてくれているようです(ぼくもまだ見ていません)。
まとめ
国内の情報もかなり充実してきた上に海外発の発表もアップデートを重ねてより質の高いものになってきていますが、いずれの推奨でも言えることはほとんどの固形がんでは手術・放射線および薬物療法の方法に関わらず原則としてワクチン接種は行う方がベネフィットがリスクより大きそうであるということですね。
また造血器腫瘍であっても接種を控えるべきとされているのはNCCN提言でも幹細胞移植後や急性白血病治療後の血球立ち上がり前の極めて限られたシチュエーションの患者のみとされていることから、大多数の患者においてはやはり固形がんと同様のワクチン接種をしておくのが無難ではないかという印象を受けます。
あまり考えたくはありませんがこの1週間の報道を見ているとどうやら第4波はワクチン接種が全国民が一巡するのを待ってくれることなく襲ってくるのは間違いなさそうです。
「最善に期待しつつ最悪に備える」というわれわれのポリシーに忠実に、できるワクチン接種はきっちり済ませて感染に備えましょう。
今日も「こんな病気を持ってるのにワクチン打って良いんでしょうか…」と何度も(何度も!)尋ねられたので、「むしろ病気があるから打つんですよ、第4波が来ないとも限らないんだから打てる対策は打っておいて、最善を期待しつつ最悪に備えるんでしょ!!」という話を100万回くらいしました。
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) March 25, 2021
この記事に対するコメント
このページには、まだコメントはありません。
更新日:2021-04-05 閲覧数:1906 views.