レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2024年 / 5月19日

学会公式アカウント運営の難しさ

学会 SNS

学会公式アカウントが出張のお楽しみに関する投稿、たとえばグルメや観光名所の紹介などを行うことがあるが、これについての賛否の議論がタイムラインを賑わせている。ぼく個人としては日本臨床腫瘍学会はもちろん、日本循環器学会やその他の学会公式アカウントの運用体制や運用姿勢には非常に高い関心を持って注視している。

皮膚科学会公式アカウントの運用を通じてタイムラインに議論が起こる

今回の第123回日本皮膚科学会総会は非常に積極的にSNSを活用しようという姿勢が表れていたようだ。今回の皮膚科学会はSNS利用にも非常に長けた大塚篤司先生の元所属である京都大学が主幹であることもあってかなり力を入れてくるだろうとは思っていた。学術集会トップページにSNSアカウントへのリンクがないのは惜しいところだが・・・。

これまでにも日本循環器学会やその他の学会が色々と試行錯誤をしながらSNSの利用を進めてきていたが、今回の皮膚科学会総会アカウントへの各方面の反応は非常に興味深い。まだタイムラインが新鮮なうちは検索することでその雰囲気を確認してもらえるはずだ。

公式Xはじめました!
よろしくフォローお願いします!!

写真は先週の京都祇園
(大学院生K) pic.twitter.com/CHjTSbYOUG

— 第123回日本皮膚科学会総会 (@jdakyoto) April 15, 2024

今回の第123回日本皮膚科学会総会公式アカウント @jdakyotoは、学会公式アカウントとしては「かなり攻めている」という印象を持った。学会内でおこなわれる親睦イベントはもちろんとして、参加者の声を広く拾ってリツイート(リポスト)を行っている。そのリツイートの内容たるや、学術的な内容だけでなく、主幹大学の教授著書の宣伝、参加者の感想やオフ会(宴会)の呼びかけなど、かなりプライベートな内容の投稿にまで及んでいる。また口調も非常にカジュアルで、京都弁(おいでやす!など)を交えて会話を楽しむように軽い口調で投稿されたものが多い。

親しみやすさがこれまでの皮膚科学会の雰囲気とは一線を画していると受け止められたのか、かなり新鮮な驚きをもたらしたようで、歓迎する投稿も多数見られた。一方であまりにはっちゃけすぎているアカウントの運用姿勢に対しては苦言を呈する向きもあり、この意見にも非常に納得できるものがある。

日本皮膚科学会総会アカウント@jdakyotoさん:私は日本の皮膚科学会で臨床・研究をすることからキャリアをはじめ、いまも免疫・皮膚の研究を続けています。それゆえこのアカウントのツイートの傾向について懸念を表明せざるを得ません。(1/3)

— Masahiro Ono 小野 昌弘 (@masahirono) May 15, 2024

好意的な意見はもちろん好意的な意見として受け止めておくと良いが、一方でそれに対して批判的あるいは慎重な姿勢を求める意見もあり、特に今後の学会公式アカウントの運営を考える上ではこれらの耳に痛い意見こそしっかりと聞いていく必要がある。

SNSを有効に使用することと、馴れ合いは違います。皮膚科学会総会アカウント@jdakyotoが、広報活動の意義を問い直して、学会の質と品位を向上させる方法について考え直していただけたらと思います。(3/3)

— Masahiro Ono 小野 昌弘 (@masahirono) May 15, 2024

学会公式アカウントが遊んでいると見られることの懸念

学者の学会参加がアカデミアの外の人に「公費での慰安旅行」だと思われたらヤバいんですよ。公的研究費での学会参加がけしからんとか、公的研究費を削減しろとか言われるんですよ。なので学会公式グルメガイドとか出したらダメだし、学会中に酒飲んでる写真とかをTwitterに上げるのもダメ。

— ふぁっふぉい (@sugikota) May 18, 2024

もちろん学会出張の際に参加者個人が前後の日程で観光をしたり、学会参加の際に出会った関係者や久しぶりに出会った旧友との交流を深めるために宴会を参加することについては、それも含めて学会の楽しみ方の一つだと思うが、これが学会関係者以外の目にどう映るかを考えると不適切になり得るのではないかという懸念が出るのはもっともだ。

特に医療系学会はその性質上で病気などを扱うために、その疾患で苦しんでいる患者本人や家族の視線もあり、あまりにも悪ふざけや仕事を放り出して遊び回っていると受け取られると非常に心証が悪い。プライベートでやっているSNSでもある程度気をつける必要はありそうだが、学会公式アカウントとなると一層襟を正す必要があるかもしれない。

学会当局は参加者を集めるのに苦慮している

麻酔科アカデミアが崩壊っ⁉️

日本麻酔科学会 @JSAnesth の年次学術集会における演題数がこの7年間で激減😱… pic.twitter.com/MxDR3qjSvH

— Yusuke Mazda MD PhD (@yusuke_mazda) May 15, 2024

学会開催には多額の費用がかかる。会員からの年会費収入もあるが、学術集会はその参加費が入るほかにランチョンセミナー開催や企業ブース出展や広告出稿の形で企業からの協賛費用という収入も入るため、学会の年間運営費のかなりの割合を学術集会の開催によりまかなっている学会が少なくない。

そうなると、年間の運営費を集めるためには参加者に有意義な楽しい会であったと思ってもらって来年も来てもらうことが重要になる。参加者数が前回よりも伸びるのか下がるのか、学会事務局も大会長も非常に敏感にならざるを得ない。ただでさえコロナ禍をはさんで学会は会員集め・演題数確保に苦労している。使えるものはSNSも利用してあの手この手で盛り上げようと必死なのだ。

開催自治体の支援を受けるために地域の宣伝をする必要も

この問題とても難しいなと思っていて、最近の大規模な学会には、開催自治体から多額の補助金が(間接的に)入っていて、開催地地元もステークホルダーの一つになってるんですよね。参加者が開催地にお金落とさないとそのステークホルダーの期待に応えられないので、どいういやり方がいいのかな、と。

— MITsuo Yoshida | 広告, PR (@ceekz) May 19, 2024

数千人から大きな学会だと数万人が参加する学会は地元自治体にとっても非常に期待が大きい。宿泊費・飲食費だけでもひとり数万円ずつ投じてくれることになるし、前後で観光などに出向いてくれればさらに地元に落としてくれるお金は大きい。したがって、会場の運営母体が公的施設(県立施設など)であれば開催費の面で優遇してくれたり、地元自治体から何らかの優遇施策を講じて貰っていることもあるだろう。

学会事務局としてはこれらの優遇策に応えて、学会参加者が地元の飲食店や観光業界に立ち寄ってくれれば非常に助かる。そのために、学会公式アカウントも活用して地元グルメや名所旧跡などの紹介をしようと考えるのも自然なことのように思える。問題は、それが部外者の目に見えるSNSで行われると、やはりどうしても公費で遊んでいるという風に見られてしまうことだが・・・。

これ、難しい問題よね。現実には多少なりとも地元経済界の期待背負っちゃってる部分もあるから、学会側が参加者に楽しんでる様子を上げるのダメとしづらいが、そもそもその旅費はなんのためかと言われると、その通りなんだよな

— のーないすこうぷ (@nonaiscope) May 19, 2024

今後の姿勢

当教室の教員からXで総会を盛り上げるよう言われ、大学院生の僕が自由にポストしてきましたが、

自由すぎるのも良くなかろうということで、教員に提示してもらった指針に沿ってこれからはポストして参ります。

これからもよろしくお願いします!!
(大学院生K)

— 第123回日本皮膚科学会総会 (@jdakyoto) May 18, 2024

今回の第123回日本皮膚科学会総会アカウントはおそらく主幹教室の中でSNS利用の経験が豊富な大学院生が運営を任されていたようだが、今回の学会公式アカウントへの各方面の反応は日本皮膚科学会だけでなく他の学会のSNS運用担当者も高い関心を持って注目していたはずだ。今後、より健全でかつ活発なコミュニケーションが実現できるよう、学会領域の垣根を越えて互いに経験を積んで高いレベルを目指せるような環境ができていけば、と思う。

中の人経験者からみて、相当エゴサされてると思う。
公式タグ、間違えがちタグ、皮膚科、皮膚科総会、日皮会などとスキマ時間にいれては検索してアクションしている

ポスト内容の是非は置いておいてこの無償の努力には敬意を表したいと思うのである
(終)

— 柴田啓佑 循環器内科 (@taora_bokujun) May 18, 2024

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更新日:2024-05-19 閲覧数:1278 views.