レ点腫瘍学ノート
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PIK3CA遺伝子変異

がんゲノム

がん遺伝子パネル検査などで検出されるPIK3CA遺伝子変異と治療に関する個人的なメモです。がんゲノム/遺伝子別のPIK3CAの項目を独立させたページで、随時追記しています。正確な内容になるよう注意はしていますが誤っている可能性や古い情報であることもあるので、常にご自身で正確かつ最新の情報で検証するようにしてください

PI3K/AKT/PTEN経路に存在し、ER陽性乳癌の40%で変異が見られ、特にその変異の90%はE542K・E545K・H1047R・H1047Lのホットスポットに集中している*1*2。このパスウェイの活性化は乳癌のSERD以外の内分泌療法に対する耐性を生じさせうる(これに対してmTOR阻害剤が内分泌療法と併用される)。そのほかにアポトーシスとの関与、Ki67低下への関与、などが示唆されている。また、PIK3CAまたはPIK3CGの変異によるEGFR−TKI耐性はアスピリンにより克服できる可能性が示唆されている*3。

PIK3CA変異があっても必ずしもmTORの活性化は生じていないことが示唆されている*4。PI3K経路の遺伝子異常を有する主要に対してはC-CATやその他のデータベース参照結果からはmTOR阻害剤が推奨されることは多いが、PI3K系に対するmTOR阻害剤(エベロリムス)の第2相試験がネガティブであったことなどからPI3KはmTORパスウェイを阻害しても抗腫瘍効果を発揮できないのではないかと考えられている。

具体的な臨床試験のエビデンスとしては、2015年のSHIVA試験のmTORコホートで医師選択治療と比べてmTOR阻害剤はPFSを改善しないと結論され*5、また2017年にはエベロリムスの治療効果はPI3K経路の変異と関連しないとの報告*6も出されている。

上記のエベロリムスの結果に対して、第3相SOLAR-1試験の結果からアルペリシブは一定の有効性が期待されていたが現在は積極的には推奨されない。

ESMO2020の時点の発表*7では、ホルモン感受性乳癌に対するフルベストラントvsフルベストラント+アルペリシブを比較したところ統計学的有意差は無かったもののOSは30.8→39.2ヶ月と大きく延長しており、今後の長期フォロー解析の結果が待たれるところ。ただしアルペリシブは基本的に単独ではなくフルベストラントなどの内分泌療法と併用で効果を示すものであり、「ホルモン感受性乳癌以外の固形がん」に対する治療効果については慎重に判断する必要がある。ER依存性腫瘍以外に対するアルペリシブの有効性については、PIK3CA変異またはPTEN lossを有するTNBCのnabPTX±アルペリシブの第3相EPIK-B3試験が進行中*8。

第3相CAPItello-291試験の結果から、PIK3CA/AKT1/PTEN変異HR陽性乳癌に対してAKT阻害剤カピバセルチブがフルベストラントとの併用で2023年11月にFDA承認、2024年3月に本邦でも承認された*9。この試験ではSERD・mTOR阻害薬・PI3K阻害薬・AKT阻害薬の投与歴があると除外されていることに注意する。なお、コンパニオン検査としてはFoundationOne CDxが指定されている。2024/4

上記のCAPItello-291試験はHR陽性乳癌を対象としており、ホルモン療法への上乗せとして承認されているが、ホルモン感受性が無い他臓器に対してのエビデンスは現状では限られる。トリプルネガティブ乳癌に対してパクリタキセルにカピバセルチブの上乗せを試みた第3相CAPItello-290試験はESMO2024で発表されてOSネガティブであった*10*11。一方でPTEN欠損ホルモン感受性前立腺癌に対するアビラテロン+アンドロゲン除去療法へのカピバセルチブの上乗せを試みた第3相CAPItello-281試験ではPFSの延長を示した*12。他に現在進行中の試験として、去勢抵抗性前立腺癌のドセタキセルへのカピバセルチブ上乗せを試みた第3相試験*13などが進行中であるほか、AKT阻害薬としての有効性から血液腫瘍への応用も期待されている*14。2024/12

PIK3CA H1047R

乳癌などで比較的高頻度に見られる変異の1つ。LOXO-783(PI3K阻害剤)などの特異的阻害剤の臨床試験が進行中。その他にアルペリシブ+フルベストラントなどの併用療法が候補となる可能性がある*15。

ダブルPIK3CA変異

進行ER陽性乳癌に対するタセリシブ+フルベストラントを評価した第3相試験SANDPIPER試験の結果から、PIK3CA変異の数が1つの場合はORRに有意差がなかったがPIK3CA変異が2つ以上になる場合は奏効率が有意に高まる(プラセボ群に対して8.7→30.2%)と報告された*16*17。その基礎研究的な裏付けとして2019年にScienceに掲載された単一細胞シークエンスの結果からシスで同一アレルに2つ以上の変異が入った場合にPI3Kα阻害剤の感受性が増幅されることが報告されている*18。

抗HER2療法とPIK3CA

ASCO2020で発表されたKATHELIN試験(HER2陽性乳癌の標準術前化学療法でnon-pCRにT-DM1を追加した試験)のサンプルゲノム情報追加解析から、PIK3CA変異の有無は抗HER2療法の有効性には差がない可能性を示唆する結果あり。

EGFR-TKIとPIK3CA

EGFR変異陽性肺癌に対するEGFR-TKI治療中の獲得耐性を生じる二次的変異としてPIK3CA変異が見られることがある。一方で初期治療前から
EGFR変異とPIK3CA変異が両方見られる場合のPIK3CA変異はEGFR-TKI耐性には関与しないということも言われており、初期治療前からEGFR変異とPIK3CA変異が並存している場合はEGFR-TKIの投与を検討する。

PI3K/AKT/mTOR経路の変異を有する小細胞肺癌

臓器を小細胞肺癌に限定して、LC-SCRUM-Asiaでゲダトリシブの第2相試験が実施されている。
http://www.scrum-japan.ncc.go.jp/lc_scrum/trial/pi3kaktmtorgedatolisib_pf-05212384ii/index.html

関連ページ

ほかの遺伝子についてはがんゲノム/遺伝子別を参照。



*1 Sci Rep 2020 https://www.nature.com/articles/s41598-020-74086-w
*2 BMC genomics 2024 https://bmcgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12864-024-10368-1
*3 iScience 2023 https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(23)01182-3
*4 Proc Natl Acad Sci 107 : 10208-10213, 2010
*5 Lancet Oncol 2015 1324-1334
*6 BrJ Cancer 2017 726-730
*7 https://cslide.ctimeetingtech.com/esmo2020/attendee/confcal/session/calendar/2020-09-19
*8 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04251533
*9 https://www.fda.gov/drugs/resources-information-approved-drugs/fda-approves-capivasertib-fulvestrant-breast-cancer
*10 https://www.carenet.com/news/general/carenet/59301
*11 https://www.astrazeneca.com/media-centre/press-releases/2024/update-on-capitello-290-phase-iii-trial.html
*12 https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2024/2024120301.html
*13 https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031220214
*14 https://www.nature.com/articles/s41375-024-02401-9
*15 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31859350/
*16 https://www.ascopost.com/issues/july-25-2020/double-pik3ca-mutations-and-response-benefit-in-breast-cancer/
*17 https://www.onclive.com/view/dr-soliman-on-the-rationale-for-using-immunotherapy-in-tnbc
*18 https://science.sciencemag.org/content/366/6466/714.editor-summary

更新日:2026-11-06 閲覧数:4 views.