レ点腫瘍学ノート
Top日記2026年10月25日

第64回日本癌治療学会学術集会(JSCO2026)参加体験記

JSCO 学会 腫瘍内科

44ba7d806d.png

例年どおり、今年も学会の参加記録を残しておきます。後年に振り返ったとき、どのような会だったかを思い出せるようにするためのものです。

第64回日本癌治療学会学術集会
第64回日本癌治療学会学術集会ホームページ
https://congress.jsco.or.jp/jsco2026/

第64回日本癌治療学会学術集会(JSCO2026)が、2026年10月22日から24日までの3日間、神戸コンベンションセンターで開催されました。会長は福島県立医科大学消化管外科学講座の河野浩二先生です。今年もX(旧Twitter)にメモを流しながら現地参加しましたが、外科と内科、多職種が交錯する癌治療学会ならではの熱気がありました。心地よい疲労感が残っているうちに、現地で感じたことや気になった点を書き留めておきます。

会場と移動動線

今年の会場はポートアイランドの神戸コンベンションセンターでした。神戸国際展示場、神戸ポートピアホテル南館、神戸国際会議場の3施設にまたがる構成です。それぞれの建物自体は使い慣れた学会会場ですが、いつものことながら施設間の移動距離がかなり長く、移動に時間がかかりました。特に展示場と国際会議場の5階を往復する際は、屋外に出て連絡通路を渡る必要があり、セッション間の短いインターバルで移動するには少々骨が折れました。

各会場の内部は座席数も十分に確保されており、立ち見で入れないような事態はほとんど見られませんでした。スクリーンも大型で後方からの視認性も高く、プレゼンテーション自体の聴講環境は総じて良好だったと思います。ただ、棟をまたぐ移動にかかる時間を考慮してプログラムを組まないと、次の講演の冒頭に間に合わない場面が何度かありました。

すべてのセッションが終わり、展示ブースや看板が撤収されていく最終日の夕方は、いつも独特の寂寥感があります。賑やかだったコンベンションホールが静けさを取り戻していく光景を眺めながら、今年の秋の大きなイベントが一つ終わったことを実感しました。

コングレスバッグとブース展示

受付で配布されるコングレスバッグは、今回はポリエステル600D系のしっかりした手提げ袋が用意されていました。ただし、コットン製トートバッグや帆布生地の手提げが配布されたときは人気が高いのに対してポリエステル系バッグは要らないという人が多いのか、最終日になっても引き取り手が少なく、受付付近にかなりの数が残っていました。大会ロゴや企業名が目立たない無地のシンプルなデザインで、日常使いには実用的に見えましたが、素材の質感に対する好みの違いが出たのかもしれません。

展示ブースで足を止めたのが、ポスター会場の横に設けられていた福島県(福島県大阪事務所)と福島県立医科大学のブースです。河野会長のご所属ということもあり、震災からの復興や地域医療の歩みに関する展示が行われていました。震災復興に関する写真パネルの展示のほか、ブースに置かれていた『FUKUSHIMA いのちの最前線 東日本大震災の活動記録集』を手に取ってめくってみましたが、当時の緊迫した状況や医療従事者の葛藤が克明に記録されており、胸に迫るものがありました。学会という華やかな学術交流の場において、こうした地域医療の原点に触れる機会が用意されていたことは有意義だったと感じています。

少し気になった点として、ポスター会場周辺で参加者を呼び止めてアンケートや名刺交換を求めようとする業者の姿が散見されたことです。またブースに出展している節税を訴える税理士法人?はノベルティを配布してかなり活発な「客引き」を行っており、企業展示エリア内でのプロモーションとしては少し気になります。運営側による動線管理や出展マナーの周知がもう少し徹底されると、参加者としては過ごしやすくなると感じました。

ポスター会場スカスカ問題

今回の学術集会の投稿でもとりわけツイートのインプレッションが多かったのが、ポスター会場の空き枠の多さです。指定されたポスターボードを見渡すと、演題番号と抄録タイトルは印刷されているものの、肝心のポスターが貼られていないパネルが目立ちました。特に海外からの応募演題において未掲示が目立っており、部分的には会場の通路がすかすかに見えてしまうほどでした。現地でディスカッションを楽しみに訪れた参加者にとっても、非常に残念な光景だったと思います。

このノーショー問題は、以前のJSMOなど国内の他の大規模学会でもたびたび指摘されてきた課題です。海外からの演題登録を広く受け付けることは学会の国際化にとって重要ですが、演題採択の通知だけを取得して現地に来ないケースや、渡航費やビザの関係で来日を断念するケースが依然として存在します。現地発表を前提として採択している以上、未掲示に対するペナルティの運用や、事前の参加登録確認の厳格化、参加費の前払い制など、事務局側での実効性のあるルール作りが必要な時期に来ているように見えます。

人口減少時代のがん医療提供体制と集約化

学術面で特に考えさせられたのが、会長企画シンポジウム「人口減少高齢化時代のがん医療提供体制」でした。生産年齢人口の急減と高齢化のピークが重なる日本の近未来において、がん医療の現場がどのような変化に直面するかを直視した内容です。

シンポジウムの中で示されたデータによると、消化器外科手術の総件数は今後15年で約5%の減少にとどまる一方、外科医の数は約40%も減少すると予測されています。この試算通りに進めば、外科医1人あたりの手術負担は約1.6倍に跳ね上がる計算です。さらに、一定規模以上の手術症例数を有するハイボリュームセンターの方が治療成績に優れていることは多くのエビデンスで示されています。地域の病院経営や住民感情の面で統廃合に反発があったとしても、手術機能の集約化はもはや避けて通れない現実であることが示唆されました。

講演の中で演者の先生が指摘されていたように、都道府県がん診療連携拠点病院には地域内の医療機能集約化の議論を先導することが期待されています。しかし、拠点病院に法的な強制権限や再編命令を出す権能があるわけではありません。各医療機関の利害が対立する中で機能分化を進めるには、県庁をはじめとする自治体が実質的なコーディネーター役を引き受ける覚悟を持てるかどうかにかかっています。中規模病院が点在する医療圏に身を置く腫瘍内科医として、今後の地域医療構想の行方は決して遠い話ではないと実感しました。

印象に残ったその他の演題

昨年に続いて、外来化学療法の運営を円滑にするためのシンポジウムも開かれました。例年、中外製薬がスポンサードシンポジウムの形で企画しているものです。「GAIRAI」と書いてガイライと読ませるタイトルで、待ち時間の問題や薬剤師の配置など、実際の運用に即したディスカッションを聞くことができ、とても有意義な時間でした。全国各地でも勉強会やワークショップを開催しており、こうした外来化学療法の運用というテーマに、癌治療学会は毎年のように継続して取り組んでいて、その姿勢を心から尊敬しています。

会期2日目の会長企画シンポジウム7は、SNSやインターネットのプラットフォームを使って正しいがん情報を届けるための戦略がテーマでした。Google(YouTubeヘルスケア部門)の担当者でもある片倉陽子先生や、この領域で精力的に活動されている山本健人先生らの話を聞き、インターネットでの情報発信のあり方について新しい考え方をいくつも得ることができました。がんサバイバー発信者であり看護師でありインスタグラムインフルエンサーでもある葉山咲良先生(4.9万人のフォロワーを持つ「かおまるこ」として活躍)が話されていた言葉も非常に印象的でした。

癌治療学会がこの企画に大ホールで90分もの枠を割いたことも、評価されてよいと思います。ほかの学会でもSNSや情報発信を取り上げる機運は高まっていますが、枠が取れない、部屋が小さい、時間も60分と、扱いにはまだ差があるようです。

現地で会って話せること

今回あらためて感じたのは、リアル開催の学会でしか得られないものがあるということです。コロナ禍のWeb開催は移動もなく楽でしたが、会場の廊下やポスターの前で顔見知りの先生とばったり会い、セッションの感想や近況を立ち話で交わすような時間は、画面越しにはなかなか生まれません。今回は口演とポスターの両方で発表する機会もいただき、聴衆の反応をその場で感じられたのも現地ならではでした。

病院の外で同じ領域の医師と腰を据えて話すと、学会の公式プログラムとは別の収穫があります。別れ際に「次はJSMOで」と言い合える相手が少しずつ増えていくのも、現地参加の楽しみです。

まとめ

今回のJSCO2026を振り返ると、会場間の移動の長さやポスターの未掲示といった運営上の課題が見られた一方で、人口減少社会における医療の集約化など、今後の医療体制の根本に関わる重要な議論が正面から扱われていました。華やかな最新治療の開発競争だけでなく、限られた医療資源の中でいかに質を保って医療を提供し続けるかという問いは、市中病院で働く医師にとって切実なテーマです。そして何より、多くの先生方と直接会って話せたことが、今年いちばんの収穫でした。

充実したプログラムを準備し、円滑な運営を支えてくださった河野会長、プログラム委員会の先生方、そして現地スタッフの皆様に深く敬意を表します。

この記事に対するコメント

このページには、まだコメントはありません。

お名前:


更新日:2026-10-25 閲覧数:13 views.