レ点腫瘍学ノート
Topがんゲノム遺伝子別

KRAS遺伝子変異

がんゲノム

がん遺伝子パネル検査などで検出されるKRAS遺伝子変異と治療に関する個人的なメモです。がんゲノム/遺伝子別のKRASの項目を独立させたページで、随時追記しています。正確な内容になるよう注意はしていますが誤っている可能性や古い情報であることもあるので、常にご自身で正確かつ最新の情報で検証するようにしてください

KRAS変異の中でも変異の種類によって予後が異なることが知られている*1。

下記に挙げた限られた塩基の変異以外にはほとんど治療効果がある選択肢は無い。一方で大腸癌などで標準治療となっているEGFR抗体はKRAS変異があると耐性となる。エルロチニブなどのEGFR-TKIもKRAS変異が陽性であると耐性がしばしば見られるなど様々な耐性にも関与している遺伝子である。C-CAT調査報告でトラメチニブが推奨されることがあるが(学会報告レベル?)、積極的に有効と考える根拠は乏しい。

Expanding the Reach of Precision Oncology by Drugging All KRAS Mutants
AbstractKRAS is the most frequently mutated oncogene, harboring mutations in approximately one in seven cancers. Allele-specific KRASG12C inhibitors are currently changing the treatment paradigm for patients with KRASG12C-mutated non–small cell lung cancer and colorectal cancer. The success of addressing a previously elusive KRAS allele has fueled drug discovery efforts for all KRAS mutants. Pan-KRAS drugs have the potential to address broad patient populations, including KRASG12D-, KRASG12V-, KRASG13D-, KRASG12R-, and KRASG12A-mutant or KRAS wild-type–amplified cancers, as well as cancers with acquired resistance to KRASG12C inhibitors. Here, we review actively pursued allele-specific and pan-KRAS inhibition strategies and their potential utility.Significance:. Mutant-selective KRASG12C inhibitors target a fraction (approximately 13.6%) of all KRAS-driven cancers. A broad arsenal of KRAS drugs is needed to comprehensively conquer KRAS-driven cancers. Conceptually, we foresee two future classes of KRAS medicines: mutant-selective KRAS drugs targeting individual variant alleles and pan-KRAS therapeutics targeting a broad range of KRAS alterations.
https://aacrjournals.org/cancerdiscovery/article/12/4/924/689602/Expanding-the-Reach-of-Precision-Oncology-by

KRAS G12C

G12Cなど一部のKRAS変異は特異的治療薬の開発が進んでおり、ソトラシブ(AMG510)が2021年5月にFDA承認された。国内でも非小細胞肺癌の二次治療以降で承認された。

KRAS G12C大腸癌に対するソトラシブはJSMO2021でCodeBreaK100試験の大腸コホートの結果が発表されたが、ORR 12.0%でPFS 4ヶ月と大腸癌ではあまりかんばしい結果では無かったためソトラシブ単剤での承認の見込みはなく、他剤との併用療法で開発が継続された。化学療法後(主にFOLFOX/FOLFIRI不応)の症例に対してソトラシブ+パニツムマブ併用を主治医選択治療と比較したCodeBreaK300試験は一定の有効性を示したものの、主治医選択治療(多くはFTD/TPIまたはレゴラフェニブなどの標準的後方治療)に対して奏効率とPFSに改善を認めるもののOSの改善は見られなかった*2。なおこの試験ではソトラシブの960mgと240mgの比較も行われており、高用量のほうが若干の有効性が高い傾向があるものの、その差はわずかである。2025/06

ソトラシブにかわるKRAS G12C阻害剤としてアダグラシブ(MRTX849)の開発が進んでおり、2021年6月にFDAのbreakthrough therapyに指定されている*3。アダグラシブは第1/2相KRISTAL-1試験において消化器癌に対しても高い奏効率を示すという中間結果が発表*4されているが、現在進行中であり最終結果の発表が待たれる。2022

グレシラシブ(JAB-21822)の開発も進んでおり臓器横断的に行われた中国と欧米の2つの第1/2相のプール解析がASCO GI2024で発表され、ORR 46.4%、DCR 96.4%と良好な結果であったが、DORは4.1ヶ月と短く長期間の作用持続には課題が残る*5。

KRAS G12D

膵癌(36%)や大腸癌のKRAS変異ではG12D変異の頻度が高い。肺癌はKRAS変異のうち15%程度を占める。KRAS G12Cなどに比べてG12Dは免疫チェックポイント阻害薬の有効性が乏しい可能性がある*6。

KRAS G12D変異に対してはMRTX1133の治療開発が進んでいる*7。またKRAS G12Dに対するT細胞受容体改変T細胞を用いた細胞療法(TCR-T療法)がASCO2022およびNEJMに報告されている*8*9。

KRAS G12V

トラメチニブで有効例の報告あり?。

AACR2021でバスケット型第1相FRAME試験の結果からRAF-MEK阻害薬VS-6766とFAK阻害薬デファクチニブの併用が有効な可能性が報告*10され、今後が期待される。

KRAS Q61H

KRAS Q61Hを有する頭頸部癌にMEK阻害剤トラメチニブが有効であるという報告は症例報告レベル*11では存在する(すなわちエビデンスレベルD)。ただし、確立された治療とまでは言えない。(2022.4)

小児癌に対する個別化医療の有効性を検証したpediatric MATCH試験*12のarmE(セルメチニブ群)で21例中1例だけKRAS Q61Hの症例が含まれており48週間SDで推移し有効であったと報告されている*13が、このarmEでは奏効例が1例もなかったためMAPキナーゼ経路の異常に対するセルメチニブ単剤療法の有効性は限定的であると報告されている。

KRAS/NRAS WT

大腸癌においてはRAS野生型は抗EGFR抗体の奏効予測因子となる。ただしRASKET-Bなどの従来型コンパニオン検査ですでにKRAS/NRASの変異が見つかっている症例の遺伝子パネル検査でRAS野生型との結果が得られた場合はいわゆるneoRAS(RAS reversion変異)と呼ばれる変異となる。

遠隔転移と原発巣など異なる病変からのサンプルを検査に提出した場合にはしばしばこのような乖離がみられる*14が、同一検体からRASKETと遺伝子パネル検査を提出した場合にもこのような変異が見られることがあり、これは腫瘍内heterogeneityやカットオフ値の差に由来すると考えられている。抗EGFR抗体の使用自体は可能と思われるが、いわゆるneoRASは通常のRAS野生型と比べて抗EGFR抗体の奏効率が低いとの報告がある。また大腸癌の場合はリキッドバイオプシー(OncoBEAM)でのRAS再検が保険診療で行えるためこれによるRAS変異の再検を考慮する。

RAS変異の不一致に関しては興味深い報告が多数ある*15。

その他

RAS変異陽性膵癌に対するRMC-6236の第3相試験が2025年7月頃から開始される見込みである*16。第1相試験はASCO-GI 2025で発表されており、KRAS G12変異症例で29%、その他のRAS変異症例で25%で、PFSは7.6〜8.5ヶ月、OSは14.5ヶ月であった*17。

関連ページ

ほかの遺伝子についてはがんゲノム/遺伝子別を参照。



*1 JCOPO 2024 https://ascopubs.org/doi/10.1200/PO.24.00263
*2 JCO 2025 https://ascopubs.org/doi/pdf/10.1200/JCO-24-02026
*3 https://www.onclive.com/view/fda-grants-breakthrough-therapy-designation-to-adagrasib-for-kras-g12c-mutated-nsclc
*4 ASCO GI 2022 https://dailynews.ascopubs.org/do/10.1200/ADN.22.200802/full/
*5 https://meetings.asco.org/abstracts-presentations/229373
*6 Lung Cancer 2025 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S016950022500042X
*7 Nat Med 2022 https://www.nature.com/articles/s41591-022-02007-7
*8 NEJM 2022 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2119662
*9 NEJM 2016 https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1609279
*10 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/news/202104/569866.html
*11 JNCCN 2022 https://jnccn.org/view/journals/jnccn/aop/article-10.6004-jnccn.2022.7001/article-10.6004-jnccn.2022.7001.xml
*12 JCO 2022 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35353553/
*13 JCO 2022 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35363510/
*14 https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2020.38.4_suppl.180
*15 Front Oncol https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32766143/
*16 https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031240614
*17 ASCO GI 2025 https://meetings.asco.org/abstracts-presentations/241485

更新日:2026-11-06 閲覧数:4 views.