レ点腫瘍学ノート
Topがんゲノム遺伝子別

EGFR遺伝子変異

がんゲノム

がん遺伝子パネル検査などで検出されるEGFR遺伝子異常と治療に関する個人的なメモです。がんゲノム/遺伝子別のEGFRの項目を独立させたページで、随時追記しています。正確な内容になるよう注意はしていますが誤っている可能性や古い情報であることもあるので、常にご自身で正確かつ最新の情報で検証するようにしてください

EGFR-TKIの治療対象となるが、その変異部位によって感受性が大きく変わる。これまでにCOSMICには約600種類のEGFR遺伝子異常が報告されているが、その93%はチロシンキナーゼドメインであるエクソン18-21の範囲に見られる。とくにEGFRエクソン19のコドン E746〜A750の欠失変異およびL858R(エクソン21)に変異がある頻度が高い*1。そのほかにL747-E753へのS挿入、L747-E751欠失、L747-E750欠失+P挿入、G719X(Xは様々)、E709X、S768I、L861Qなどの変異がある。

高感受性変異

エクソン19欠失変異

EGFR変異の約40-45%を占める。L858R変異に比べて相対的に若年者・喫煙者に見られることが多い。EGFRの活性化変異でありEGFR-TKIの最も良い適応となる。

L858R変異

EGFR変異の約40%を占める。EGFR-TKI感受性はエクソン19欠失変異に次いで高いグループ。
NEJ026試験(エルロチニブ+ベバシズマブ)やRELAY試験(エルロチニブ+ラムシルマブ)で血管新生阻害剤との併用の有用性が示されたが、サブグループ解析ではL858R変異群で併用例のPFSが良好であった。

中間感受性群

EGFR-TKIの中でも薬剤により感受性が異なる。

G719X

まれな遺伝子変異。第1世代EGFR-TKIは効果が乏しい一方で、LUX-Lung 2,3,6試験の統合解析から第2世代EGFR-TKI(アファチニブ)は比較的効果が高い。

S768I、L861Q

まれな遺伝子変異。第1世代EGFR-TKIは効果が乏しい一方で、アファチニブとオシメルチニブは比較的効果が期待される群。

耐性変異

T790M

ゲフィチニブ、エルロチニブなどの耐性変異となる遺伝子変異である。初期治療前から存在している一次的変異と、EGFR-TKIによる治療の経過中に生じた二次的変異で扱いが多少異なる。EGFR-TKIによる治療中に生じた耐性の50-60%はT790M変異とされる。二次的変異の場合は耐性変異オシメルチニブが候補。

ロシレチニブ、オルムチニブなどオシメルチニブ以外の第3世代EGFR-TKIはいずれも毒性などのために開発が中止された。ほかにアビチニブ(アヴィチニブ)、EGF816など。

EGFR エクソン20挿入変異

EGFR エクソン20挿入変異はEGFR変異の5-6%に見られるとされている。

EGFR エクソン20挿入変異陽性の非小細胞肺癌に対してはアミバンタマブ+化学療法の併用療法が2024年9月承認見込み。コンパニオン診断検査としてはオンコマインDXTTとGuardant360 CDxが承認される。(2024/9)

EGFR-TKIの臨床試験ではEGFRエクソン20異常の症例は除外されていることが多く、EGFR変異肺癌の中でエクソン20異常症例に関するEGFR-TKIの有効性のエビデンスは少ない。またEGFR-TKI(特にエルロチニブ・ゲフィチニブ)への耐性を示す。

中にはオシメルチニブが奏効するサブタイプもあるという6例の症例報告がある*2が、基本的にはオシメルチニブに関してもexon20挿入は耐性と思われる。韓国の報告でもex20挿入にオシメルチニブの有効性が乏しい*3。オシメルチニブ高用量(160mg)での有効性が報告され治療開発が進められていた*4が、期待は乏しい。(2020/8)

エクソン20挿入変異の全てがEGFR-TKIに耐性変異というわけではないことも知られている。たとえばEGFR-A763_Y764insFQEAという特定の4コドン挿入はEGFR-TKIに高感受性である*5*6。またH773L/V774Mの2塩基変異は第1・2世代EGFR-TKIには耐性だがオシメルチニブは著効するという報告がある*7*8。これはcompound mutationなどと称されることもある。EGFR変異のうち15%程度を占めるが特にコバスやオンコマインDXなどで検出できないレア変異は5%程度ではないかと推定され、これらを見つけるためにFoundationOne CDxなどを検討する価値がある。近年はEGFR変異を塩基別に検討するのではなく立体構造で分類することの重要性が言われるようになっている*9。

2020年時点ではオンコマインDX target testマルチCDxはエクソン20挿入変異をシークエンスしているがレポートには含まれないものがあるので解釈に注意を要する(これについては2020年春からレポートに含まれるようにバージョンアップされる見込みとのこと)。オンコマインDXが検出できるEGFR変異のリストは添付文書に掲載されている*10。

モボセルチニブが既治療のEGFRエクソン20挿入変異陽性に対して2021年9月にFDA承認された*11。またこのコンパニオン診断は現時点ではFoundationOne CDxではなくオンコマインDxとなっている。奏効率は28%、OSは約24ヶ月と成績良好であった*12。しかし米国で迅速承認後にEXCLAIM-2試験で有効性の再現ができなかったことから、2023年10月にモボセルチニブの販売が中止されている*13。EXCLAIM-2試験の結果は今後発表される(2023年10月時点情報)。

EGFR exon20変異およびERBB2 exon20変異に対するポジオチニブ第2相試験が進行中*14。これはexon20に病的変異を持つEGFRとERBB2が病的ダイマーを形成し機能異常を来すことに対する特異的阻害剤である。国内でも試験が進行中である*15。

ジパレルチニブも第1/2相試験で一定の有効性を示しており2022年にFDA breakthroughの指定を受けており*16、国内でも治験が進行中である。2023/10

L833V、A839T、V851I、A871T、G873E

まれなEGFR変異。いずれもEGFR-TKI耐性に関連するとされている。L858R変異の12.8%に合併して起こりゲフィチニブ耐性となる1次的変異のことがある*17。

そのほかにEGFRの耐性機序としては以下のようなものが考えられている。

RET融合遺伝子の新規獲得はEGFR-TKIに対する耐性範囲であるが、EGFR変異とRET融合遺伝子が共存在する肺癌にオシメルチニブ+セルペルカチニブ併用療法が有効という報告がある*19。

オシメルチニブ耐性変異

T790M変異肺癌に対するオシメルチニブ耐性変異の22%にC797SやC797G(C797Xとも表記される)が、68%にT790Mのlossが見られるとの報告がある*20。C797XとT790Mの変異がcis/transのどのような関係にあるかによって耐性に違いがあるという報告もある*21。C797X変異はオシメルチニブ以外のEGFR-TKIの変異にもつながる。エビデンスレベルは低いながらC797X変異に対してはブリガチニブとEGFR抗体の併用が有効である可能性が報告されている*22ものの、C797Xに対する創薬が困難であるとの指摘もある*23。

G796S, V802F, T725M, Q791L/H, P794S/Rなどもオシメルチニブの結合性を著しく低下させる耐性遺伝子変異であるとの報告がある*24。

T790M-lossは早期にオシメルチニブに耐性となった症例で見られることが多いことから二次的変異というよりももともと存在していたマイナークローンである可能性がある。

V441D, V441G

セツキシマブ・パニツムマブなどの抗EGFR抗体の耐性変異として知られている*25。

脳転移病変の扱い

EGFR-TKIはいずれも中枢神経移行性は高く脳転移への有効性も報告されているが、中でもオシメルチニブは非常に優れた中枢神経移行性を示す。

EGFR変異陽性+PD-L1発現陽性

1次治療としてペムブロリズマブを投与した第2相試験で奏効例がなかったことから無効中止となった*26。

EGFR増幅

FISHなどでEGFR変異が陽性の場合はEGFR-TKIの有効性と改善したとの報告がある*27が、肺癌での知見によるとEGFR増幅が見られる症例ではEGFR変異を背景にともなっていることが多いことに加えてEGFR増幅で層別化しても有効性に差がないことからEGFR増幅はEGFR-TKIのバイオマーカーとは考えにくい*28との報告がある。EGFR増幅はむしろEGFR-TKIに対する耐性機序となり得るとの報告もある*29。このことから、EGFR変異を伴わないEGFR増幅については慎重に解釈する必要がある。

肺癌ではIPASS試験のバイオマーカー研究などから、現在ではFISHなどでEGFR増幅を評価するよりもEGFR変異のほうがEGFR-TKIの有効性に関係する優れたバイオマーカーであると考えられている。またEGFR増幅のみでEGFR変異がない場合にはゲフィチニブの奏効例が0例だったという報告もある。
なお、非小細胞肺癌ではネシツムマブ(ポートラーザ)がSQUIRE試験の結果からGEM+CDDPとの併用で保険承認されている*30。この報告の中で、ネシツムマブはSQUIRE試験のサブ解析でEGFR発現expression高値(H-score≥200)の群ではさらに有意にOSを延長しておりEGFR高発現の症例ではより効果が期待できるかもしれない(発現と増幅は同値ではないことに注意)。

食道腺癌・胃癌に関してEGFR増幅がある症例では抗EGFR抗体セツキシマブが有用だったという報告はある*31が、この報告ではcopy numberの中央値が40で最大は375と極めてコピー数が高かったため、コピー数が高い増幅でなければ効果が期待できないかもしれない。

EGFR増幅に対してはセツキシマブやパニツムマブなどの抗EGFR抗体などが試みられたことはあるが、現時点ではEGFR増幅に対する抗EGFRモノクローナル抗体による治療はコンセンサスを得ているとはとは言えない。ただし乳癌(triple-negative)では11コピー数で奏効したとの症例報告がある*32。

EGFR増幅を有する上部消化管腫瘍については光免疫療法の治療開発も進行中とのことで、国立がん研究センターなどで治験を募集していることがある。臓器により異なるので確認が必要。

その他のEGFR変異

これまでにも多数の報告があり、意義不明のものもある。

転座・融合・再構成などはEGFRの活性化が推測される場合以外は治療推奨はされないと考える(たとえばfusionの相手がイントロンなど)。

EGFR vIII variant

EGFR vIII variantはEGFRのスプライスバリアントの1つでEGFR活性化変異と考えられている。脳腫瘍(glioblastoma)でしばしば見られる変異である。

EGFR-TKIが有効な可能性については基礎研究のレベルでは報告がある*33が、かなり古い基礎研究でありその後の臨床応用の情報も乏しいため、実用化されているとは言いがたい。第3世代EGFR-TKI(オシメルチニブ)が有効なのではないかという動物実験*34もあるがEGFR vIII variantを標的としたヒト臨床試験の十分なエビデンスは無い。脳腫瘍(glioblastoma)でオシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法の有効性を見た報告はあるが比較試験ではなくその評価は難しい*35。

EGFR vIIIは細胞外ドメインIと細胞外ドメインIIを喪失していることから抗EGFR抗体の結合部位が喪失されているためセツキシマブやパニツムマブなどの抗EGFR抗体は無効であると考えられていたが、抗EGFR抗体が結合可能であるという報告もある*36。しかし結合可能であるだけで腫瘍抑制効果を示さないという報告もあり*37、いずれにせよ抗EGFR抗体は推奨治療とはならない。

他の遺伝子の変異と重複する場合

EGFR変異はKRAS・HER2・ALK転座・ROS1転座とは相互排他的(mutually exclusive)であるので同時に発生することは基本的にないが(治療中の二次的変異はある)、PIK3CAはEGFR変異と相互排他的ではない。またEGFR・PIK3CAにともに変異がある場合はPIK3CA変異はゲフィチニブの有効性に大きな影響は無いことが多い。

関連ページ

ほかの遺伝子についてはがんゲノム/遺伝子別を参照。



*1 Cancer Sci 107:1179-86, 2016
*2 BMC cancer https://bmccancer.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12885-019-5820-0
*3 https://www.lungcancerjournal.info/article/S0169-5002(24)00404-5/abstract
*4 https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2020.38.15_suppl.9513
*5 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24353160/
*6 Cancer Genet 2021 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33901930/
*7 Lung Cancer 2018 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29858019/
*8 Respirol Case Rep 2019 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31007929/
*9 Nature 2021 https://www.nature.com/articles/s41586-021-03898-1
*10 https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/840863/840863_23000BZX00089000_B_01_12.pdf
*11 https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/search/cancer/news/202109/571892.html
*12 JAMA oncol 2021 https://jamanetwork.com/journals/jamaoncology/fullarticle/2784882
*13 https://www.takeda.com/jp/newsroom/newsreleases/2023/20231003_8402/
*14 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03318939
*15 https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/clinical_trial/ctas/patient/list/lung/130.html
*16 JCO 2023 https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.23.00152
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*20 JAMA Oncol 4:1527-1534, 2018
*21 JTO 2023 https://www.jto.org/article/S1556-0864(23)02372-9/fulltext
*22 https://www.nature.com/articles/ncomms14768
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*24 Am J Cancer Res 2020 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33294282/
*25 Cancer Discov 2018 https://aacrjournals.org/cancerdiscovery/article/8/2/164/6256/Genomic-Landscape-of-Cell-Free-DNA-in-Patients
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*27 NEJM 2005 133-144 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa050736.
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更新日:2026-11-06 閲覧数:10 views.