腫瘍内科専攻医のための推奨書籍リスト2024
新たに初期研修医・専攻医になった皆さん、おめでとうございます。
がん治療の最前線で活躍する腫瘍内科医や、そのための研修を受ける医師にとって、最新の知識とスキルを身につけることは必須です。本記事では、腫瘍内科や臨床腫瘍学の分野で欠かせないテキスト・書籍を紹介します。
基本
臓器別の各診療ガイドライン
まず自身がサブスペシャリティとする領域の診療ガイドラインは必ず持っておく必要があります。腫瘍内科レジデントとして研修を行うのであれば、サブスペシャリティに関わらず肺癌・乳癌(治療編)・大腸癌・膵癌・頭頚部癌などのガイドラインは所有して置いても良いのでしょうけれど、全ての分野を網羅的に所有しようとすると各々の改訂に合わせて購入するのが大変かもしれません。
いずれにしても専門医試験前の時期にはメジャー臓器のガイドラインをある程度揃えるようになると思いますので、適宜必要になればケチらずにどんどん買い足してゆくのが良いでしょう。
領域横断的がん取扱い規約(金原出版)
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307004862
癌取扱い規約抜粋 消化器癌・乳癌 第14版(金原出版)
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307204477
特に消化器系腫瘍内科をサブスペとするのであれば、ステージングは外科系の診療科とのコミュニケーションを行う上ではTNM分類よりも癌取扱い規約のほうがメジャーです。その点ではポケットサイズの癌取扱い規約抜粋を持っておいても良いかもしれません(これはこれで、かなり頻繁に改訂されるのですが)。大きい本でメジャーがんの取扱い規約を網羅する「領域横断的がん取扱い規約」は大変便利なのですが、こちらは2019年から改訂されていないので若干使いにくい。
腫瘍学の総論系知識
サブスペシャリティがどの領域であっても、この5冊は必携と言えるものです。がん薬物療法専門医試験でもこれら総論系のガイドラインに関する知識を問う設問は必ず出題されます。医学書院のがん診療レジデントマニュアルは概ね3年毎に改訂され、10月頃に発売となるのが最近の定番のパターンです。
がん診療レジデントマニュアル 第9版(医学書院)
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/110450
がん治療の基本から最新情報までがコンパクトにまとめられています。第5版・第6版の頃は、このがん診療レジデントマニュアルに載っている内容を全て理解できればがん薬物療法専門医試験には余裕で合格すると言われていましたが、最近はどんどん治療や支持療法が複雑化しているのでさすがにこの1冊では厳しいか。
G-CSF適正使用ガイドライン 第2版(金原出版)
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307204316
添付文書とガイドラインの使用法が大きく異なる薬剤は色々とありますがG-CSFはその最たるもの。保険診療のルールをあまりにも逸脱することは決して良いことではありませんが、エビデンスに基づいた適正使用がどのような形であるべきかは知っておく必要があります。
発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン 第3版(南江堂)
https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524233762/
自分自身が担当するケース以外に、他科からコンサルトを受けたときにも即座・即答で対応できるようにしておきたいところ。
制吐薬適正使用ガイドライン 第3版(金原出版)
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307204392
患者のQOLを大きく左右する嘔気・悪心嘔吐。新しいエビデンスも出てがん化学療法での制吐対策に役立ちます。
がん免疫療法ガイドライン 第3版(金原出版)
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307102124
免疫療法について、とくにirAEマネジメントの基本形の理解を深めます。これも他科からの緊急コンサルトに対して瞬発的に対応できなければなりません。
臓器別各論の臨床腫瘍学テキスト
静がんメソッドシリーズ(日本医事新報社)
https://www.jmedj.co.jp/book/search/detail.php?id=2186
固形がんの化学療法レジメンを分かりやすく解説。特に消化器癌はこの静がんメソッド消化器癌頭頚部癌編を最も勧めます(後述のあらゆる症例に対応できる消化器がん化学療法(羊土社)と併せて)。
オンコロジークリニカルガイドシリーズ(南山堂)
https://www.nanzando.com/products/detail/42442
優れた臨床腫瘍学テキストでしたが、現在は改訂が停止中です。特に乳癌はこの本(+乳癌診療ガイドライン治療編)が最善でした。改訂が再開されればぜひ手に取りたい。
困難症例
ルーティンケースだけでなく、難しい症例に備えるための一冊も。
ハイリスクがん患者の化学療法ナビゲーター 第2版(メジカルビュー)
https://www.medicalview.co.jp/catalog/ISBN978-4-7583-1802-0.html
合併症リスクの高い患者への対応をカバー。たとえば透析症例・高度肝機能腎機能障害・妊娠中などの特殊な状況での化学療法に関する指針を示してくれる。
逸脱症例から学ぶがん薬物療法 標準治療の実践(じほう)
https://www.jiho.co.jp/shop/list/detail/tabid/272/pdid/93559/Default.aspx
標準治療を普通通りに行うことが難しい様々なタイプの標準逸脱仮想症例でのケーススタディが学べます。
外来化学療法室がん薬物療法カンファレンス(南山堂)
https://www.nanzando.com/products/detail/42131
名古屋大学病院の化学療法部を舞台に、腫瘍内科医・看護師・薬剤師などが直面した課題を元に多職種で相談しながら解決をするためのトラブルシューティングが学べる本。
あらゆる症例に対応できる消化器がん化学療法 第3版(羊土社)
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758110556/
消化器がんの難渋症例に特化。特に消化器系にトラブルを抱えるケースでは標準治療を普通通り行うこと自体が難しいことも少なくなく、そこは担当医の腕の見せ所でもあります。第3版の前書きの室圭先生の熱いメッセージも必読です。
ACP、緩和ケア、治療の引き際
終末期医療とACPに関する一冊はぜひ色々なものに触れて幅広い知識や知恵に目を通しておくことを勧めます。ある意味、積極的治療を導入することそのものよりも難しく、奥が深い。
緩和ケアレジデントマニュアル 第2版(医学書院)
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/110305
緩和ケアの基本型を学べる。以前はいわゆる「淀キリ緩和ケア」の茶色い本が有名でしたが、若干古くなってしまったので、この医学書院の緩和ケアレジデントマニュアルを勧めます。この本も前書きに熱い気持ちが込められていて、ぜひ読んで欲しい。
よくわかる老年腫瘍学(金原出版)
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307102209
がんサポーティブケア学会が出版する、いわゆる学会公式本。日本のがん診療は特に高齢者が多く、海外では老年腫瘍学という学問が確立されていますが日本では腫瘍内科・腫瘍外科の全体が老年腫瘍学そのものの実践の場であるとも言えます。
抗がん剤をいつやめるか?どうやめるか?(日本医事新報社)
https://www.jmedj.co.jp/book/search/detail.php?id=1940
勝俣範之先生の本。抗がん剤で難しいのは初め時ではなくやめ時。いつ、どのように抗がん剤治療をやめられるかは、その医師のコミュニケーション技術などを含めた全体的なマネジメント能力や先々までの状況判断力など総合的な力が問われます。
死亡直前と看取りのエビデンス 第2版(医学書院)
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/111934
森田達也先生の本。緩和ケア病棟や在宅緩和ケアに連携することが増えているとは言っても、やはり腫瘍内科は一人のがん患者の終末期や看取りに触れることも全診療科でトップクラスに多い領域であることには変わりありません。緩和ケアの専門医に負けないつもりで、より良い終末期ケアを実現するための知識を習得する必要があります。
『残された時間』を告げるとき 余命の告知 ver3.1(青海社)
https://www.seikaisha.blue/item-87/
西智弘先生の本。終末期ケアで重要なのは身体的な苦痛緩和だけではなく、いかにコミュニケーションし、(特にバッドニュースを)どうやって上手に伝えるか。予後の説明はその最たるものですが、なかなか自分以外の医師がどのように説明し情報提供をしているかを見聞きする機会もありません。このような書籍を通して、どのような会話からどう話を繋いでいくのかを学びたい。
がんゲノム医療
ゲノム医療の領域は今後も発展が見込まれ、以下の書籍で知見を深めることを勧めます。
がんゲノム医療 遺伝子パネル検査 実践ガイド(医学書院)
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/108766
がん遺伝子パネル検査の保険診療やエキスパートパネルの運営の実際などについて、がんゲノム医療をこれから学ぶ人にとって最適な一冊。角南久仁子先生など国立がん研究センターのがんゲノム医療メンバーなどを中心に実践的な内容で書かれています。聞き慣れない言葉がたくさん出てくるゲノム医学では、この本に収められている用語集も便利。
成人・小児進行固形がんににおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン 第3版(金原出版)
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307102148
近年はNTRKやMSIに限らず、BRAFやRETなど臓器横断的な治療が検討されることが増えてきました。こまめに改訂されていますが、常に最新版にアップデートしたい。
大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第5版(金原出版)
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307204699
大腸癌診療を行う医師のみならず、がんゲノム医療に携わる医師であれば知っておきたい情報が掲載されています。たとえばPCR-rSSO法とNGS法とIHC法でどの程度の差がありどのように使い分けるかなど、意外に奥が深い。
がんゲノム病理学(文光堂)
https://www.bunkodo.co.jp/book/CV1GX984GW.html
検体の取扱い、検査結果をどのように解釈すべきか。困ったときに参照するテキスト。
読み物
最後に、がん医療に関する歴史や哲学的問題提起に触れる読み物を紹介します。
がん4000年の歴史(早川書房)
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013241/
著名な医学ライターのシッダールタ・ムカジー先生の歴史書。エジプトやギリシアアテネの時代から、現在でも標準治療となっている手術法の発見や歴史を変えた新薬の登場の場面など、様々な時代におけるがんとの闘いの歴史を紐解きます。
死にゆく患者と、どう話すか(医学書院)
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/89473
國頭英夫先生の本。がん専門医が看護学生に対してレクチャーを行うという形式で、医療者と患者の対話をどのように行ってゆくかを一緒に考えてゆくという書籍。
死すべき定め(みすず書房)
https://www.msz.co.jp/book/detail/07982/
原著のタイトルは『BEING MORTAL』。同じく著明な医学ライターでもあるアトゥール・ガワンデ先生の本。尊厳死、ACPなどという単語で済ませてしまわずに、より深いレベルから人の生き方と死に方について考える。
医師は最善を尽くしているか (みすず書房)
https://www.msz.co.jp/book/detail/07768/
同じくアトゥール・ガワンデ先生の本。副題は『医療現場の常識を変えた11のエピソード』。なぜコミュニケーションエラーが生じるのか、なぜ誰もがのぞんでいない不幸な結末に至ってしまうのか、リスクマネジメントの視点から考える。
ゲノム裁判 ヒト遺伝子は誰のものか(みすず書房)
https://www.msz.co.jp/book/detail/09679/
原著のタイトルは『GENOME DEFENSE』。ゲノム情報の特許権をめぐって、商業的権利と患者の生存権を巡る問題について考えさせられる一冊です。
ぜひ手にとって学びを深めていってください。また、他にオススメ本があれば教えてください。
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更新日:2024-04-02 閲覧数:1646 views.