レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2024年 / 4月24日

UGT1A1検査には書面の説明同意書が必要なのか問題

腫瘍内科 検査

はじめに

イリノテカンの投与量調節を目的としたUGT1A1検査が実施されているが、この検査を行う際に患者から同意を取得する必要があるのかどうか、各施設で考え方がバラバラのように思われる。

UGT1A1検査は、遺伝学的検査の一種ではあるが、Gilbert症候群などの遺伝性疾患の診断を目的としたものではなく、あくまでも薬物応答性を確認するための検査だ。そのため、血液型検査などと同様に(血液型も両親から片アレルずつ遺伝する)、わざわざ説明同意書を取得する必要はないのではないかと考えられる。

関連する各ガイドライン

医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン(2011年)

https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf

2003年に公表された10学会・研究会合同の「遺伝学的検査に関するガイドライン*1」では、UGT1A1検査のような薬物応答性検査は想定されていなかった。しかし、2011年の日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン*2」では、UGT1A1検査などの’’薬理遺伝学的検査’’の記載が設けられている。

その中では薬理遺伝学検査について下記のように記載されている。

ゲノム薬理学検査に含まれる薬理遺伝学検査は、生殖細胞系列の遺伝情報を取扱うものであるが,以下の特性があるため、単一遺伝子疾患の遺伝情報とは異なり診療の場においては、関連ガイドラインを参照した上で、通常の診療情報と同様に扱うことができる。
・危険な副作用をもたらす薬物,または有効性の乏しい薬物の投与を回避できること
・適切な投与量を推定できること
・遺伝型に基づく表現型の予測力が必ずしも高くないこと

これをみると、UGT1A1は必ずしも遺伝学的検査としては扱わず、通常の診療情報として扱うことは差し支えない(つまりカルテ記載などで特段の配慮を行う必要もない)が、一方で検査の説明同意書が不要かどうかについて直接的には言及していない。「非発症保因者に対する遺伝学的検査は治療の必要のない者に対する検査であるから同意取得が必要」と記載されている。しかし、UGT1A1検査はこの想定範囲に合致しているのかどうかはこの文章だけからははっきりと読み取れず、同意取得が必要とも、必ずしも同意取得が必要とは限らないとも解釈できる。

このガイドライン中では、関連する指針として「ファーマコゲノミクス検査の運用指針*3」および「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン*4」を挙げている。

ファーマコゲノミクス検査の運用指針(2012年版)

http://jshg.jp/e/wp-content/uploads/2017/08/120702PGx.pdf

厄介なことに、この「ファーマコゲノミクス検査の運用指針(2012年版)」を見ると2008年11月に保険適用となったUGT1A1検査を具体的に名指ししてPGx検査として挙げており、PGx検査実施については検査前後に専門的知識を有する医師および担当者(薬剤師・看護師・臨床検査技師等)により、被検者に対して検査前後の説明を行い、自由意思に基づき検査実施について同意することが求められるとまで記載している。

ただし、この利用指針のQ&A*5では「検査前・検査実施時のインフォームド・コンセントにおける留意点」として「PGx検査を実施する際のインフォームド・コンセントの取得に際して、被検者への説明と同意の手法は、理解度を増すために文書、口頭やさまざまな媒体を用いても行われています。」とわざわざ書いてくれているので、文書ではなく口頭だけでもよいようだ。

この「ファーマコゲノミクス検査の運用指針(2012年)」はUGT1A1検査などのPGx検査であっても血縁者への説明や遺伝カウンセリング体制についても検討することを求めるなど、全体的に非現実的かつ過剰な対応をもとめていて現場に即していないと感じる。作成したのは日本臨床検査医学会・日本人類遺伝学会・日本臨床検査標準協議会の合同だが、医療現場の現実に即した利用指針とは言いがたいところが頭痛のたねであると言わざるを得ない。

医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン(2022年)

https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis_2022.pdf

上記の2011年記載のもののあと2022年に改訂された日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」では、薬理遺伝学的検査に関する記述が取り除かれている。これは、UGT1A1検査などの薬理遺伝学的検査(薬物応答性検査)を他の生化学的検査と同様に扱うべきだという考えが反映された結果だと思われる。

したがって、「非発症保因者に対する遺伝学的検査は治療の必要のない者に対する検査であるから同意取得が必要」の記載も無効化されていると考えることができ、ガイドライン上はUGT1A1の同意取得を明記したものはないのではないかと考える。

説明を行う者の職種

医師および担当者が何を指すかについては関連する別ガイドラインである「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン(2010年)*6」の表現を借りれば「説明者の資格の範囲は、守秘義務が法律で義務付けられている資格とする」と書かれており、さらにその後に「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の2004年の改定を根拠としてゲノム・メディカルリサーチコーディネータ(GMRC)も追加されているようである。

感想

Gilbert症候群はUGT1A1検査と関連はあるが、治療が必要な疾患ではない。そのため、(筆者私見では)書面での同意取得を行うことは患者にとってプラマイゼロであり、無意味な手続きとなってしまう可能性がある。しかし現状では書面での説明同意書が不要であると言えるほどの根拠は見つけられず、日本遺伝性腫瘍学会が見解としてのステートメントを発表しているMSI/MMR検査とは対照的であった。

腫瘍内科 がんゲノム 免疫チェックポイント阻害薬適応判定のためのマイクロサテライト不安定性検査(MSI検査)を行う際に、これがリンチ症候群のスクリーニングにもなりうることを説明し同意を得たことを診療録に記載することが大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版2016年11月(日本臨床腫瘍学会編)に記載されている。このために、日

各学会がバラバラにガイドラインを作成しているため、整合性が取れていない部分もある。理念的な事項については日本医学会に一任し、学会間で共有するという方策も考えられる。一方、個別のエビデンスについては、学会間の協力体制が影響してくるだろう。

UGT1A1検査を含む薬物応答性検査における説明同意書の必要性については、まだ議論の余地がある。患者の権利を守りつつ、医療現場の負担を軽減できるようなガイドラインの整備が望まれる。医療者と患者、そして関連学会が協力して、より良い方向性を見出していくことが重要だと考える。


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*1 https://www.neurology-bri.jp/wp-content/uploads/2016/11/specialtest_03.pdf
*2 https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf
*3 http://jshg.jp/e/wp-content/uploads/2017/08/120702PGx.pdf
*4 https://sph.med.kyoto-u.ac.jp/gccrc/pdf/2010_1.pdf
*5 https://jshg.jp/wp-content/uploads/2017/08/genomics120705_2.pdf
*6 https://jshg.jp/wp-content/uploads/2017/08/genomics21001203.pdf

更新日:2024-04-24 閲覧数:175 views.