レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2020年 / 06月03日

ASCO2020 JCOG0603 感想まとめ

ASCO2020 JCOG0603 感想まとめ

#ASCO20は盛況のうちに終了し、非常に興味深い注目演題も多数発表されていました。このページでは、その中でも日本の消化器癌オンコロジストから特に注目を集めていた演題JCOG0603に関するTwitterで拾った声をまとめています。

JCOG0603とは

JCOG0603の正式名称は「大腸癌肝転移切除後患者を対象としたフルオロウラシル/l-ロイコボリンとオキサリプラチン併用補助化学療法(mFOLFOX6) vs. 手術単独によるランダム化II/III 相試験」です。

JCOG0603(臨床研究情報ポータルサイト)
https://rctportal.niph.go.jp/s/detail/jr?trial_id=jRCTs031180285

#ASCO20 でJCOG0603「大腸癌肝転移切除後患者を対象としたフルオロウラシル/l-ロイコボリンとオキサリプラチン併用補助化学療法(mFOLFOX6) vs. 手術単独によるランダム化II/III 相試験」の結果が口演発表されます!#JCOG 抄録はこちらからご覧くださいhttps://t.co/nhYiMctHcY pic.twitter.com/diI9dcsq8z

— JCOG (@JCOG_official) May 29, 2020

遠隔転移切除後の術後化学療法を行うべきかどうか

これまでの臨床試験結果などから、大腸癌のIII期までではフッ化ピリミジン系とオキサリプラチンの術後化学療法の有用性が確固たるエビデンスとして認められています。一方で、切除不能のIV期の大腸癌でもすでに種々の全身化学療法に関するエビデンスの蓄積が進んでいて、治療は世界規模でほぼ統一されたコンセンサスあるガイドラインに基づいて行われています。しかしIII期大腸癌と切除不能大腸癌の間、他臓器転移があるIV期だがその転移巣も含めて切除ができるという切除可能なIV期の場合は、その切除後の術後化学療法(補助化学療法)をどのようにすべきかという点についてはエビデンスが乏しい領域でした。

そして、このJCOG0603は肝転移があるIV期大腸癌で肝切除を行った後に術後化学療法(mFOLFOX6)を行うべきかどうかというクリニカルクエスチョンに対する一つの答えをもたらす大規模な臨床試験として、以前から多くの消化器癌オンコロジストから注目を集めていたのでした。

無効中止

しかも、JCOG0603自体が2020年2月12日に中止されるという情報が流れて、無効中止という意外な結果にざわついていたことも一層この試験結果の発表に注目が集まる理由になっていました。臨床研究情報ポータルサイトには「研究実施計画書 12.6.1. 中間解析による試験早期中止に該当し、効果・安全性評価委員会から試験早期中止勧告が出され、研究代表医師およびグループ代表者が試験早期中止を決定した」ということが記載されています。

大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版の記載

大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版ではCQ19として「遠隔転移巣切除後の補助化学療法は推奨されるか?」というクリニカルクエスチョンを設けて、これに対する答えとして「肝転移治癒切除後の術後補助化学療法を行うことを弱く推奨する(推奨度2、エビデンスレベルB)」と記載していました。「肺転移など肝転移以外の遠隔転移巣治癒切除後」についても推奨度2、エビデンスレベルBとして術後補助化学療法を行うことを弱く推奨しています。

実はこのガイドライン改訂の前のパブリックコメントでもJCOG0603の結果を待つべきという意見があったのですが、「再発抑制効果が示されておりサイドの肝切除実施を避けるという点で患者の利益となり得る」ということで上記の推奨となっていたのでした。

他のフォロワーさんご指摘の通り、恐らくfailだったのだろうな。大腸癌診療ガイドライン2019のパブコメにあった指摘はまさに的を射ていたのだな。 pic.twitter.com/2P7wKnx7xu

— уон (@Yoh_tw) January 14, 2020

JCOG0603以前の臨床試験

JCOG0603以前にも肝転移切除後の術後化学療法に関する臨床試験はありました。たとえばFFCD09002試験*1は肝転移治癒切除後に手術単独群と5FU+LV群を比較した試験です。この試験では5年間DFS率は5FU+LV群が有意に良好でしたが、OSは有意差を認めないとの結果でした。また別の試験*2もUFT+LVを術後化学療法として行って手術単独群と比較を行いましたが、3年DFS率は有意に良好でしたがOSにはやはり差を認めませんでした。いずれもレジメンがオキサリプラチンを含まないレジメンですが、術後化学療法を行った群ではDFSは改善するがOSは改善しないとの結果になっていました。

今回のASCO2020での発表

https://meetinglibrary.asco.org/record/185468/abstract

Kanemitsu et al, JCOG0603 phase 3 trial (abst 4005):

Adjuvant mFOLFOX6 after hepatectomy improves 5-y DFS (39% vs. 50%) but non-significantly worsens 5-y OS (83% vs. 71%) over surgery alone due to more deaths after recurrence in chemotherapy arm. #ASCO20 pic.twitter.com/xKrBeyrZCC

— GTG (@GrupoGTG) May 29, 2020

Would like to hear thoughts on JCOG0603 - adj FOLFOX vs surgery alone in resected CRLM
Not unlike EORTC trial, slight DFS benefit to chemo but no OS benefit.
Majority of pts had oligometastatic disease (1-3 mets)
Are we helping or hurting these pts with chemo?#ASCO20 pic.twitter.com/XGkiVl9Z49

— Sean Bennett, MD (@ThisIsSeanB) May 29, 2020

今回のASCOで発表されたJCOG0603も、上述の試験と同様にDFSは有意に改善するがOSは改善しないとの結果でした。3年DFS率は41.5→53.2%(HR 0.63)で有意に改善を認めましたが、3年OS率は91.8→87.2%で5年OS率は83.0→71.2%でした(いずれもITT解析、有意差なし)。

Trying to explain the decreased association between DFS and OS in JCOG0603#CRCSM #ASCO20 pic.twitter.com/GpvAqy4CRI

— Mark Lewis (@marklewismd) May 30, 2020

ネット上の反応

これについては残念な結果ではありましたが、色々と考えることが多い試験でしたのでTwitterでも様々な感想があがっていました。

IIIa→IIIb→IIIcとなるにつれて徐々にFOLFOX群の成績が良くなるのにIVになった途端にひっくり返る件、IIIcとIVの間のどこに逆転ポイントがあるのか興味深いところです(IIIcを見ると手術侵襲が悪いわけではなさそうなので、肝切除が悪いんでしょうか…🤔)

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) May 29, 2020

再発検出のしにくさ

オキサリプラチンは肝臓に類洞障害をきたし、肝臓内に生じた微小な再発病変を早期に検出しにくくなっていた可能性が言及されていました。

再発する癌としない癌のbiologyの違い

Good point. However chemo is a good test for outcome. Those who does not respond to chemo are probably not good candidate for liver surgery....

— Emmanuel Melloul (@EmmanuelMelloul) May 30, 2020

早期に再発する群は悪いbiologyを持った腫瘍であり、そもそも術後化学療法が有効でなかった群は肝切除を試みるべきではなかった群とも言える…。これに関する解決策としては、将来的には術後化学療法ではなく術前化学療法を行うという臨床的解決策があるかも??

胃癌の高分化型と未分化型で他臓器転移に進むのとリンパ節転移から播種に進む傾向に分かれるように、大腸癌でも肝臓に少数(切除可能な程度)のオリゴ転移を来たすタイプは病勢進行が緩徐だったり脈管浸潤の仕方に差があったりというbiologyに何か差があるんじゃないかしらと思ってます。

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) May 30, 2020

JCOG0603は15年以上前から企画された試験なのでRAS、BRAF、MSI、腫瘍の左右局在、CMSサブタイプなどの層別化があまり考慮されていません。大腸癌と一口に言っても化学療法感受性や術後再発の差があるので、何らかのbiologyの検討が加えればより最適な術後化学療法が選べるようになるという考え方もできます。

EPOC deja vu?
The only thing that caught my eye is hazard ratio for OS, it may be suggesting a difference btw younger and older pts. Not surprising but as more younger pts are diagnosed it's v important to consider these differences and tailor the tmts accordingly pic.twitter.com/CEhmywole7

— Natalia Muñoz-Wolf (@NataliaMWolf) May 31, 2020

年齢での層別化などでより化学療法の恩恵が受けられる層を抽出するということも必要になってくるのでしょうか。

現在の大腸癌治療水準との違い

少しはASCOの発表聴かなきゃだよな。ということで前々から気になってたJCOG0603。
結果は残念というか意外というかなのだけどhttps://t.co/bfu4QT76C0
protocol rivisionするまでは9cy完遂率36%、rivision後も60%強と低いのよね。それでいてNeu↓は50%だし。なお手術関連死はケモ群で1例とのこと。

— уон (@Yoh_tw) June 1, 2020

上記の腫瘍のbiologyの差の他に、切除から術後化学療法を開始するまでに時間がかかっていることや術後化学療法の完遂率が40%台と低いことも今回のASCOでの発表より前から言及されていた点でした。血球減少に悩まされて治療強度を保つのが難しかったようです。途中で化学療法完遂率をあげるためにプロトコル変更が行われましたが、(特に海外のオンコロジストから見て)治療強度の不足は否めなかったのではないでしょうか。

大腸癌治療の質という意味では10年以上前と今では大腸癌の術後化学療法に関する認識も大きく変わってきていますが、長寿の臨床試験であるだけにこの点を厳しく指摘するツイートもありました。

No mention of molecular profiling, ~40% finished planned adj chemo, patients started at least 7 weeks after surgery.... hard to know what to make of this study...

— Van Morris, MD (@VanMorrisMD) May 30, 2020

後治療への影響

JCOG0603 - adjuvant FOLFOX or no in #crcsm w/ resected liver mets. Survival lines flipped in DFS and OS analyses, with worse OS for FOLFOX group. 🤔 Due to different post-relapse therapies? Missed liver mets in DFS analysis? #ASCO20 pic.twitter.com/dq06xjupJ9

— Ryan Huey, MD (@ryanhuey) May 30, 2020

化学療法群では初回再発後にR0再切除を目指した割合が60→53%と低く、治療も再発後はIRIベースが多くなっています。再発後にオキサリプラチンの治療を受けた割合は手術群で64%に対して化学療法群で44%だったようです(手術群でオキサリプラチンを受けたのが64%というのもやけに低い数字ですが)。初回再発後のR0切除率など後治療の積極性の差があったかもしれません。

また、すでに術後化学療法でオキサリプラチンを使ってしまっていたために、キーレジメンであるFOLFOXの治療期間が短くなってしまっていた可能性はあります。すでにケモが入ってるとR0切除を目指さず緩和化学療法に移行する抵抗感が低いというのは想像できます。となると初回再発のあとにFOLFOX+BevあるいはFOLFOXIRIなど強力な化学療法に挑むよりも早期に後方ラインの緩和的化学療法に移行してしまったなど主治医の判断に若干の影響を与え得ます。

つまり、術後化学療法歴が後治療の積極性の違いに影響したかもしれないという点が挙げられます。

主要評価項目はDFSである

『JCOG0603のプライマリエンドポイントはDFSだし、DFS met してるんだからこれはポジティブトライアル。それ以上でもそれ以下でもない。これをOSの中間解析で止めたのは研究者に対する冒涜ですよ』って某偉い人がブチキレてた。 https://t.co/F43p0UrGwH

— じなん (@MTCOSB) June 1, 2020

この試験はOSの成績をもとに無効中止となったとのことですが、本来はこの試験の主要評価項目はDFSでした。DFSは有意に改善しているので、JCOG0603という臨床試験は主要評価項目をmetしているとも言えます。副次的評価項目を理由とした無効中止は勇み足だったのでは?という声です。

Adjの試験、特にadjで使う薬と再発後に使う薬がかぶってる時に、DFSをprimary endpointにするのは仕方ないのかもしれないけどなんかやっぱり違くない?とずっと思ってるので、そういうのも見直されるといいのだけれど。。。

— はなこっぴ (@hanacoppy) June 1, 2020

術後化学療法と再発後化学療法で共通のキーレジメンを使う場合はその術後化学療法の有効性に関する評価をDFSで測ってよいのかという問題もあります。DFSが良くてもキーレジメンを1つ使い切ってしまった状態から初回再発を迎えた場合は、Post Progression Survivalが悪化するリスクを孕んでいるからです。しかし、OSを主要評価項目とするには臨床試験でさらに大きなN数を集める必要が出てくるなど検出力低下に関する懸念もあり、このあたりは臨床試験の企画立案とのすり合わせが必要な難しい問題と言えそうです。

OSも悪かったわけではない

Yes, OS wasn't inf with chemo. The 5-yr OS numbers look that way because there's a small drop in the chemo curve right at 5 yrs, but the HR is NS. We need to determine who benefits from chemo, but until then maybe only chemo if someone recurs or "high-risk"?

— Sean Bennett, MD (@ThisIsSeanB) May 30, 2020

無効中止というインパクトも加わってDFSは良かったのにOSは…と語られがちな今回のJCOG0603ですが、OSはあくまで有意差無しです。4〜5年目の部分で生存曲線が少し開いているので5年生存率の差が目立っていますが、全体を通してみると化学療法が明らかに有害だったわけでもないのでは?と言えなくもない曲線です。

建設的に考えるなら、肝転移切除後の術後化学療法を全否定してしまうのではなく、ここから新しくどの層には有効でどの層に無効だったかを検討する次のクリニカルクエスチョンを立ててゆくことになるのでしょう。

実臨床に与える影響は

少なくとも次のガイドライン改訂では肝転移切除後の術後化学療法に関する記載は大きく変わるものと思います。しかし、上記のように様々な考えるべき点があることを考えると、この試験だけで実臨床が完全に方向転換してしまうわけではないかもしれません。海外の方ですが、Twitter上では興味深いアンケート結果もありました。

そして、投票N数は少ないが興味深いこの投票結果。JCOG0603の結果でこの患者層に化学療法を差し控えるか?という問いに8割以上がNO。https://t.co/UMEG36UiHo https://t.co/LChCMszb8o

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) June 1, 2020

この演題は来月のBest of ASCO Japanの演題にも選ばれています。今年はWeb開催という形になっていますが、議論が盛り上がることは必至でしょうから、期待して待つことにします。

見る人によって解釈が変わりすぎるJCOG0603、臨床試験学的にも難解すぎる…:;(∩´﹏`∩);:

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) June 1, 2020

追記:別の注目演題のKEYNOTE-177についてもまとめました。

#ASCO20の演題のうちJCOG0603に関する記事をアップしたところでやめておけばよかったのに、次は性懲りもなくKEYNOTE-177の方にも手を伸ばしてしまいました。いろいろと見る人によって解釈が分かれるJCOG0603と違ってKEYNOTE-177はおおむね当初の予想どおりのポジティブ試験で、JCOG0603ほどTwitter

追記:JCOG0603についてこのようなコメンタリーも掲載されました。

JCOG0603でDFSの差がOSに反映されなかった理由としてOxのよる類洞拡張で再発を見逃したとする仮説があるがあまり説得力なし。つまるところ検出力の問題による偶然の産物ではないか。DFSで差が出たことの臨床的意義をもっと評価した方がよいのではないかというto the editorhttps://t.co/lj2cF3ZnaI

— уон (@Yoh_tw) January 17, 2022

この記事に対するコメント

このページには、まだコメントはありません。

お名前:


*1 J Clin Oncol 2006 4976-4982.
*2 PLoS One 2016 e0162400.

更新日:2020-06-03 閲覧数:5104 views.