レ点腫瘍学ノート
Topがんゲノム遺伝子別

ミスマッチ修復遺伝子(MLH1・MSH2・MSH6・PMS2)

がんゲノム

がん遺伝子パネル検査などで検出されるミスマッチ修復遺伝子(MLH1・MSH2・MSH6・PMS2)の異常と治療に関する個人的なメモです。がんゲノム/遺伝子別のMLH1、MSH2、MSH6、PMS2(ミスマッチ修復遺伝子)の項目を独立させたページで、随時追記しています。正確な内容になるよう注意はしていますが誤っている可能性や古い情報であることもあるので、常にご自身で正確かつ最新の情報で検証するようにしてください

ミスマッチ修復遺伝子の代表的な4遺伝子*1。多くは1塩基置換だが、まれながらMLH1とMSH2には大きな領域の重複や欠失が見られることがある*2*3*4。

FoundationOne CDxでMSH6しばしば1358〜1360番目塩基のframeshiftが病的変異とレポートされることがあるが、もともとMSH6は1360塩基の遺伝子であり末尾のコドンのframeshiftは日本人にしばしば見られる多型と考えられる*5。

検査方法の違いによる不一致

MSI検査やパネル検査を用いなくても組織標本の免疫染色でもdMMRの判断が可能であり、dMMRとMSIの一致率は非常に高いと考えられている。しかし中にはdMMRとMSIの不一致が見られる事例があるので注意を要する。

腫瘍細胞率が低い場合

腫瘍細胞率が低いと(PCRベースの)MSI検査の感度は低下することが知られている。したがってMSI検査でMSI-LやMSSと判定されていてもdMMRのケースが発生しやすくなる。

MSSとMSH6

(PCRベースの)MSI検査でMSSと判定がなされてもMSH6については異常を有することはあるので、濃厚な家族歴があるなど臨床的にリンチ症候群を疑う場合はMSSと判定されていても組織標本でMSH6の免疫化学染色を検討することを検討して良い。

放射線治療後やプラチナ製剤化学療法後

DNA損傷を多数引き起こすような治療の修飾によりMSH6蛋白質やMSH1蛋白質の発現が消失することが知られている。この場合は免疫染色でdMMRがpMMRと判定される可能性がある。

リンチ症候群と大腸癌のBRAF変異変異

大腸癌において、MSI-HまたはMLH1発現消失を認めた場合であってもsomaticなBRAF V600E変異が陽性であればリンチ症候群はほぼ否定できる*6*7ため遺伝性腫瘍確定診断検査に進む必要性はかなり低い。つまりMLH1変異の場合は「BRAF変異陽性ならリンチ症候群は否定的」はほぼ確実に成り立つ。一方でPMS2発現消失を認めるリンチ症候群の場合はBRAF V600E変異が合併する事があり*8、必ずしも「BRAF変異陽性だからリンチ症候群は否定的」とは成り立たないため、注意が必要である。

候補薬剤

免疫チェックポイント阻害剤

ミスマッチ修復遺伝子機能欠損がある場合はdMMRであることから免疫チェックポイント阻害薬が強力な治療候補として検討されるが、保険診療としてペムブロリズマブを使用する場合はコンパニオン診断薬(MSI検査)での確定診断が必要となる。ただし、コンパニオン診断のグループ化について検討されており、ほぼ同等の検査手法で判定された遺伝子検査結果は援用できるようにすることが議論されており、近日中に遺伝子パネル検査でMSIと判定された場合にはコンパニオン診断薬(MSI検査)での判定がなくてもペムブロリズマブの使用が可能となる公算が大である。

ペムブロリズマブはMSI-H固形がんに対して臓器横断的に承認されているが、ニボルマブおよびイピリムマブはMSI-Hでも固形がん全般ではなくMSI-H大腸癌に限って承認されていることに注意(2021年3月時点)。

フッカピリミジン系薬剤耐性

大腸癌での検討からMSIおよびdMMRでは5-FUやフッカピリミジン系薬剤の耐性が高頻度に見られることが知られている。また切除可能腫瘍である場合は転移再発などをきたす頻度が相対的に低い。このために術後化学療法による予後改善効果が得られにくく、リンチ症候群やMSI-Hの大腸癌では切除後の術後化学療法の必要性が散発性大腸癌に比べて相対的に低下することがメタ解析で示されている*9*10。

臨床的にハイリスク群であることから術後化学療法を行う場合は、stageIIIに関してはNSABP-C07試験やMOSAIC試験での追加検討の結果からプラチナ系の併用が推奨される*11(つまりカペシタビン単独療法ではなくCAPOX療法を検討する)。stageIIでは術後化学療法は推奨されない。(遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版)

イリノテカン

小規模ながら、散発性MSI-H大腸癌ではイリノテカンの奏効率が高いとの報告がある*12が、一般に散発性MSI-H大腸癌自体がMSS大腸癌より予後良好であることから、この研究のみでイリノテカンを推奨することがコンセンサスを得ているとは言えない。

アスピリン(予防的投与)

CAPP2試験*13でリンチ症候群における長期アスピリン療法が大腸癌および大腸癌以外のリンチ症候群関連腫瘍を抑制したということが報告されたが、これはアスピリンを大量(600mg/day)に投与した試験なので日本人集団には外挿しがたい。その他に後方視的研究がいくつかなされている。低用量アスピリンがリンチ症候群において発癌を抑制するかどうかは現在臨床試験が進行中。

遺伝性腫瘍(リンチ症候群、家族性非ポリポーシス大腸癌:HNPCC)

生殖細胞系列にミスマッチ修復遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2)のいずれかの異常を生じた場合はリンチ症候群の原因遺伝子として非常に重要である。特にMLH1とMSH2は浸透率が高い。この4つのほかにEPCAMやMSH3もリンチ症候群の原因となり得る。変異の頻度はMLH1(32%)、MSH2(39%)、MSH6(14%)、PMS2(15%)と報告されている*14。ただしリンチ症候群の場合はMSI-Hとなることが多いため、事前にMSSであることが判明している場合はリンチ症候群の事前確率は低いと考えられる(リンチ症候群でもMSS腫瘍ができることはあるためMSS腫瘍であることだけを根拠にリンチ症候群の可能性を除外することはできないことに注意が必要)。

開示推奨度は最上級のAAA、T-only panelでのgermline testの必要性も◎であり、積極的に遺伝カウンセリングを考慮する。特に消化管癌、子宮体癌、卵巣癌などでは高頻度である。ほかに胆道癌・膵癌・腎癌・尿管癌・脳腫瘍・皮膚腫瘍などの関連が示唆される。遺伝性大腸癌診療ガイドラインでは、消化管癌と婦人科癌の他に腎盂・尿管癌の1-2年毎のサーベイランスを提案しているが、そのサーベイランスに関してどの方法(尿定性?細胞診?)などは定まったコンセンサスはない。

リンチ症候群を疑う場合はMMR遺伝子の生殖細胞系列変異の確定検査を行うが保険適用外となる(ただし検査実施できる施設には条件がありどの医療機関でも実施できるわけではない)。

ミスマッチ修復遺伝子異常ではリンチ症候群が非常に注意を向けられがちだが、他にターコット症候群(MLH1、PMS2遺伝子異常)やムア・トレ症候群(MSH2遺伝子異常)もある。特にターコット症候群は大腸癌だけでなく脳腫瘍・神経膠芽腫を合併することがある。

原因遺伝子の違い

リンチ症候群における大腸癌の発生リスクはMLH1とMSH2はほぼ同等であるが、大腸以外ではMSH2で尿路上皮癌など大腸癌以外のリスクが高いとされている*15。

MSH6変異例では大腸癌のリスクがMLH1やMSH2より低いが子宮体癌のリスクはMSH6のほうが高い。

PMS2変異例は発癌リスクはやや低いとする考察もあるが、そもそも発見される頻度がやや少なくデータが乏しい。なお、PMS2変異例ではBRAF変異陽性でもリンチ症候群を否定できないことに注意(後述)。

リンチ症候群関連腫瘍の原因遺伝子別の70歳までの発癌頻度*16。これは米国のデータであることから日本人集団に比べて胃癌などの発生頻度が大きく異なることに注意が必要。

MLH1MSH2MSH6PMS2一般集団
大腸癌41%48%10-22%15-20%5.50%
子宮体癌18-54%21-30%16-71%15%2.70%
胃癌3-6%0.2-7%3%以下1%以下
卵巣癌13-20%9.5-24%1-11%1.60%
腎盂尿管癌0.2-2.9%2.2-12%1%未満1%未満

関連ページ

ほかの遺伝子についてはがんゲノム/遺伝子別を参照。



*1 http://www.jsccr.jp/guideline/2016/hereditary_particular.html#no2
*2 Journal of the National Cancer Institute: Vol.99: p291-299, 2007
*3 American Journal of Human Genetics: Vol.72(5): p1088-1100, 2003
*4 Cancer Letters: Vol.248(1): p89-95, 2007
*5 https://mgend.med.kyoto-u.ac.jp/variant/info/INSERTION|hg19|chr2%3A48033984-48033984|g%3EGATT
*6 Fam Cancer 2004 101-107
*7 遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版 p.44,p.49
*8 Gastroenterol 2008 419-428.
*9 Eur J Cancer 2009 1890-1896.
*10 BMC Cancer 2015 156.
*11 J Clin Oncol 2015 4176-4187.
*12 Cancer Res 2003 5738-5744
*13 Lancet 2011 2081-2087.
*14 Genetics in Medicine: Vol.11(1): p42-65, 2009
*15 Hum Mutat 2013 490-497.
*16 NCCN guideline. genetic/familial high-risk assessment: colorectal 2015

更新日:2026-11-06 閲覧数:5 views.