レ点腫瘍学ノート

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ミスマッチ修復機能欠損の判定検査方法による結果の違い

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ミスマッチ修復機能欠損を判定するための検査としては、現在おもに以下のようなものが臨床現場で利用可能であり(2021年3月現在)、それぞれの一致率は非常に高いと考えられています。

それぞれの検査方法導子の結果の一致率、つまり免疫染色によるdMMRとPCRベースのMSI検査およびNGS検査のMSI判定の一致率は非常に高いと考えられていますが、しかし中にはdMMRとMSIなどの不一致が見られる事例があるので注意を要します。

NCCオンコパネルによるMSI判定は従来は不能でしたが、2021年3月から新たに機能が追加されました。

はじめに

以前はMSI検査やパネル検査を用いなくても組織標本の免疫染色でもdMMRの判断が可能であることからIHC法が使われていることが多かったのですが、2018年12月にMSI検査が保険収載されてからはこれが主流になっています。海外ではIHC検査を使うことが多いようですが、日本ではIHC検査に使う染色抗体試薬が承認審査を受けなかったためにこうなったのではないかと言われているようです。

MSI検査に提出したのが腫瘍細胞率が非常に低い検体の場合、追加で末梢血採血を求められることがあるようです(自験例ではまだそのような事例に遭遇したことはありません)。

dMMRとMSIの一致率は非常に高いと考えられていますが、しかし中にはdMMRとMSIの不一致が見られる事例があるので注意を要します。

腫瘍細胞率が低い場合

腫瘍細胞率が低いと(PCRベースの)MSI検査の感度は低下することが知られています。MSI検査はマイクロサテライトの反復配列回数を読み出す方法でミスマッチ修復機能欠損を判定していますが、この反復回数の判定が腫瘍細胞率が低い検体であればあるほど難しくなる(MSI判定のPCR結果の図をご覧になった方はおわかりいただけると思いますが、山がだんだん重なってくる)ので判定が困難となり、感度が下がってくるのです。

したがって、腫瘍細胞率が低い検体を用いる場合、MSI検査でMSI-LやMSSと判定されていてもdMMRのケースが発生する可能性が生じます。

IHCでMSH6とPMS2のみで判定した場合

IHCで評価を行う場合、理想的にはMLH1/MSH2/MSH6/PMS2の4つの蛋白質の発現を確認することができればよいのですが、病理検査部門の技師のマンパワーやコスト的な問題から実際にはMSH6とPMS2の2つのマーカーのみで判定していることが少なくありません。

MMRタンパク質(MLH1/MSH2/MSH6/PMS2)が機能を発揮するためには蛋白質同士が結合してダイマーを形成する必要があり、ダイマーを形成できない場合はタンパク質が不安定になるので速やかに分解されますが、このダイマー形成のための結合ペアは決まったパターンがあります*1

MMR タンパク質免疫染色検査(『成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン』第2版)
http://www.jsco-cpg.jp/precision-medicine/guideline/#II_2-4-2

MSH6はMSH2としかヘテロダイマーを形成できないためMSH2タンパク質が産生されない場合はMSH6も発現が消失します。同様にPMS2はMLH1としかヘテロダイマーを形成できないためMLH1タンパク質が産生されない場合はPMS2も発現が消失します。逆にMSH2やMLH1側から見れば各々はMSH6やPMS2以外ともヘテロダイマーを形成されるため、MSH6タンパク質が産生されなくてもMSH2は存在することができます。このような関係から、MSH6とPMS2の2つのマーカーのみのIHCでMSH2やMLH1の消失まで判定することが可能となるのです*2。この性質を利用して、MLH1/MSH2/MSH6/PMS2の4種類を免疫染色するのではなくMSH6とPMS2のみ調べることでdMMRを判定していることがしばしばあります。

これについて検討した前述のAm J Surg Pathol. 2009. 1639-1645の報告で取り上げられている報告の中では、症例報告レベルでPMS2陰性を伴わないMLH1の単独陰性の報告*3やMSH6陰性を伴わないMSH2単独陰性の報告*4があり、MSH6やPMS2の染色で全ての症例のMSH2・MLH1の判定ができるわけではないことを頭の片隅に置いておく必要がありそうです。また、免疫染色に用いる抗体種別にも影響されそうですがMLH1遺伝子のコーディング領域末端に近い部位の遺伝子異常などは免疫染色で部分的に陽性となる、あるいは弱陽性となる可能性も同文献で言及されています。

MSH6は免疫染色で判定されにくいことがある

MSH6のエクソン内にマイクロサテライト領域があるため、MSH6遺伝子そのものにマイクロサテライト不安定性の原因となる範囲が無くてもMSH6タンパク質の発言が弱まる可能性があり*5、免疫染色での誤判定に注意が必要です。

MSSとMSH6

(PCRベースの)MSI検査でMSSと判定がなされてもMSH6については異常を有することはあるので、濃厚な家族歴があるなど臨床的にリンチ症候群を疑う場合はMSI検査でMSSと判定されていても組織標本でMSH6の免疫化学染色を検討することを検討して良いと思われます(ただしコンパニオン検査で陰性だったのでペムブロリズマブの保険適用には疑問符が付きます)。

放射線治療後やプラチナ製剤化学療法後

DNA損傷を多数引き起こすような治療の修飾によりMSH6蛋白質やMSH1蛋白質の発現が消失することが知られています*6*7*8。この場合は免疫染色でdMMRがpMMRと判定される可能性があります。

大腸癌以外の固形がん

(PCRベースの)MSI検査では繰り返し配列の異常を検出していますが、平均して6塩基程度の反復回数のずれが生じる大腸癌に比べて、他の固形がんでは平均して3塩基のずれであることから検出力が低下する可能性が指摘されています*9。とくにFALCOのMSI検査ではマイクロサテライトの各マーカーでQMVR幅のずれのカットオフ値を±3塩基と設定しているため、大腸癌以外の固形がんではMSI-HがMSI-LやMSSと判定されることがあるかもしれません。

MSI検査とNGS検査のマイクロサテライト判定箇所の違い

ミスマッチ修復機能欠損があるとDNAの反復配列箇所のエラーが増えるため、DNAのうちこれらのエラーが生じやすい箇所をいくつか選んでミスマッチ修復機能欠損が生じているかどうかを判定しています。保険適用されているFALCOのMSI検査では5箇所のマイクロサテライトを用いて判定していますが、NGSでのミスマッチ修復機能欠損の判定は全く異なる場所で行われています。

たとえばFoundationOne CDxは95箇所のイントロンの反復配列を用いてミスマッチ修復機能欠損の判定を行っています。これはMSI検査やIHC検査との同等性検査をすでに実施しており、97%の一致率を示したとされています*10

一方で、NCCオンコパネルによるMSI判定は2021年3月のバージョンアップから可能となりましたが、まだ可能となったばかりですのでどのような仕様で判定を行っているのか今のところ不明です。

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*1 http://www.jsco-cpg.jp/precision-medicine/guideline/
*2 Am J Surg Pathol. 2009. 1639-1645
*3 J Clin Oncol. 2008. 5783–5788
*4 J Mol Diagn. 2007. 472–478
*5 https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/2019_08/003.pdf
*6 Am J Surg Pathol 2010. 1798-1804
*7 Br J Cancer 2001. 1064-1069
*8 Hum Pathol 2014 2029-2036
*9 J Mol Diagn. 2017. 57-64.
*10 FoundationOne SUMMARY OF SAFETY AND EFFECTIVENESS DATA

更新日:2021-03-19 閲覧数:1956 views.