学会のSNS発信についての一考
JSMO2023における学会公式Twitterアカウントを通じて、学会のSNS発信に関して抱いた雑感をメモしておきます。
JSMOはオープンにSNSをやる風土がなかなかない
今回の学会のSNS利用という点では、今回 @JSMO_official のツイートは学会見どころ紹介をコンスタントに発信して活発だったけど、#JSMO2023 のツイート数やこのタグを使う人の少なさを考えるとまだまだ改善の余地があるなぁ。1週間前に福岡で行われた循環器学会のタグ #JCS22 との差は歴然だ。
— レ点🧬💊💉 (@m0370) March 18, 2023
循環器学会とJSMOは会員数も学術集会参加者数も違うのは確かですが、参加者数の差はせいぜい3〜4倍。なのにSNSのアクティビティは10倍以上の差があるように思います。
循環器学会は実名アルファ会員が多いという強みがある。実名なので学会がTwitter協力員を指定して、学会公式アカウント以外の協力員がどんどんSNSで活動範囲を広げていってくれます。
しかしJSMO会員はがん患者さんがアカウントを見ることを考慮すると、実名でのSNSでの「遊び」をオープンにすることが難しいです。病気の性質上、どうしても主治医の実名での活動はデリケートで保守的なものにならざるを得ません。そのため、匿名の腫瘍系アカウントの多くは、身分を明らかにすることを嫌がるでしょう。
日循のSNS協力員の仕組みをそのまま輸入することは難しいかもしれませんが、公式アカウントではなく周辺の会員にSNS広報を手伝ってもらう折衷案は検討の余地があるでしょう。匿名のままでも協力してくれるサポーターを増やすことも求められます。
実名SNSががん診療と馴染まない問題は考えれば考えるほど難しいな。大胆なSNS活動は、直接患者に接しない立場(例:ヤンデル先生 @Dr_yandel )か架空のキャラクター(例:すわん君 @suwankun_kin_en )くらいでないと無理かも。すわん君ですら怒られが発生しそう…
— レ点🧬💊💉 (@m0370) March 18, 2023
学会のハッシュタグの利用者を増やすために
今回特に準備が無くてもできたはずなのにあまりできていなかったのは、 #JSMO2023 タグ使用の呼びかけ。公式アカウントフォローのお願い。こういうのは予算0円で簡単にできそう。
— レ点🧬💊💉 (@m0370) March 18, 2023
将来的に「実現すればインパクト大」と考えられるのは、(これも日循の一部受け売りですが)スライド撮影やSNSアップロードなどの公開の承諾を演題登録時に得ておくことです。特にチーム医療や啓発系・教育系の発表などは公開の承諾を得やすいのではないでしょうか?
そもそも撮影、アップを禁じている理由がいまいち解せません。どんどん拡散したらよいのではと思います。
— す (@gudenyuden) March 18, 2023
ASCOやESMOはもう発表してる途中からどんどんスライドの写真がTwitterに流れてきて、大型演題だと現地とほとんどタイムラグなくキースライドが見られます。(あれは本当に承諾得てるのかどうか知りませんが)
録画とかスクショとかタテマエ上は禁止されてるWebセミナーのスクショがばんばんTwitterに流れてきて、しかもそれを公式がRTしてるのは何故なんだぜ?? 🤔
— Noboru Hagino (Rheumatology) (@Noboru_Hagino) March 19, 2023
> RTs
ハッシュタグを使う人が増えれば学会SNSの広報にも広がりが生まれる
実名匿名問題や協力員制度はセンシティブなので一旦置いて、他でできることを探してみましょう。
SNSは学会に参加する人だけでなく、参加できなかった人や一般の人にも学会の内容や雰囲気を伝えることができる有効なツールです。特にTwitterは、140文字以内で簡潔にメッセージを伝えることができるので、スライド撮影やSNSアップロードなどの公開の承諾を得ていれば、発表者や聴衆からリアルタイムに情報を発信することが可能です。また、他の参加者や関心のある人と交流することもできます。
またデータはどこかでまとめて報告したいと思います
— 日本循環器学会 情報広報部会 (@JCIRC_IPR) March 13, 2022
ではでは、お疲れ様でした!
The numbers: 12,181 Tweets. 913 Participants.
68,491,727 Impressions. March 10th 2022. More #22JCS 📊 here https://t.co/Yj9q1tcygO @symplurより pic.twitter.com/CM3gwLeKt7
海外の大型学会では、ASCOやESMOなどでは、Twitterを使って学会情報を発信する人が多くいます。例えば #ASCO20 では45000個もツイートがあったそうです。これは参加者が多いこともありますが、学会自体もこのタグの利用を推進しています。
We united & conquered. Thank you for attending! #ASCO20 pic.twitter.com/cn3JOK5Qlx
— ASCO (@ASCO) June 4, 2020
日本でもこのようなSNS活用が広まれば、オンコロジー分野の知見や議論がより広く共有されるようになると思います。しかし、それにはまず参加者(巻き込む人)を増やす必要があります。どうすれば巻き込む人を増やせるか。
広報担当者だけでは限界がある
今回 @JSMO_official 自体の情報発信は比較的充実していたし中の人のマンパワー的に公式垢にもっと発信を充実させろというのは難しいと思います。学会広報アカウントが単独で活動を増やすことには限界があるし、学会広報委員会のできることも限られているのが実情です。
最近の課題として、JSMO周辺のアカウント(私自身を含む)の活動を、質的にではなく量的にどう拡大していくかが悩ましいものの一つです。質的な面では、現時点でそれほど悪くないと感じていますが、量的に広げていくためには、なんと言っても参加者を増やす必要があります。では、どのようにして参加者を巻き込んで増やしていけるのでしょうか。
例えば、学会理事クラスの実名アカウントは数個存在していますが(私が知る範囲で4つほど)、今回の #jsmo2023 への言及は1つのアカウントを除いてほとんど見られません。その1つのアカウントでも、海外のオンコロジストへの情報発信が主体であり、英語のみの活動となっています。フォロワー数も多くて1000程度で、この状況ではアカウント活動がなかなか広がっていくことは難しいと言えます。
また、Facebookが主戦場となっている先生方もJSMOには多く見られますが、私がTwitterを好んで利用していることを考慮しても、知人友人への近況報告などには適しているものの、世間一般へのアウトリーチという観点からはFacebookは「ほぼ無意味」と言えるでしょう。実際に、Facebook上での投稿に「いいね」しているのは知り合いだけであり、会ったことのない人へは情報がほとんど届かない状況が続いています。
他学会の取り組みから学んでゆかなければ
学会のSNS活用について、理事や教授クラスの方々にはせめて自施設からの発表を宣伝するくらいのことをしてほしいと思います。JCOGや大学医局のアカウントも参加して、公式タグ #JSMO2023 を使って情報を発信してもらえると、学会側もメールだけでなく公式タグの利用を促すことができます。タグを検索するだけでたくさんの情報が流れる状態を作ることが目標です。
末端会員の方々も「こんな発表聞いた」「◯◯が勉強になった」といった感想をタグを使って投稿してほしいです。日循方式(Twitter協力員制度)が難しければ、投稿者は匿名のままでも構いません。演題登録時に撮影可能な発表は公開の承諾が取れていれば、写真も投稿しやすくなりますし、会場の雰囲気も伝わります。
海外学会と同じようにつぶやいていたけれど、後でタグで検索しにいったらあんまり盛り上がってなくてショックだったな。。このタグ頼りに情報探すこともあるし品目のエゴサもするからそういう点で物足りなかった感はある。、🥺
— 社畜アーニャ@製薬開発 (@anyakusurisuki) March 19, 2023
オンデマンドも公開スライドも少ないのは是非来年改善して欲しいです、、 https://t.co/LsAMfdZXjo
日循の実名Twitter協力員制度やASCOのインフルエンサーランキングが学会の性格に馴染まない場合は、不整脈心電学会のように会場リポート5名に報奨制度を導入するのも一つの方法です。これなら実名でも匿名でも運用でき、学会事務局のマンパワーへの負荷も小さいですし、手軽に始められます。
第15回植込みデバイス関連冬季大会のサポータ-を募集いたします。
— 日本不整脈心電学会JHRS_PR (@JHRS_PR) January 16, 2023
SNS駆使して会期前の広報、会期中の様子のリポートしてください。
応募いただいた方の中から5名を情報広報委員会で選出し任命いたします。
会期終了後に大会記念クオカードをプレゼント!https://t.co/ntQbgaktZ4
ASCOのタグでインフルエンサーランキングを行っている @OncoAlert などは、大規模な学会で実現可能な方法ですが、現在のJSMOの規模では(質的にではなく量的に)参加アカウントの数が少なすぎるため難しいかもしれません。
Thank you so much @ASCO for an Amazing #ASCO20 ‼️Although we would have loved to be there in person, y'all delivered under these pressing times.
— OncoAlert (@OncoAlert) May 31, 2020
We thank ALL our colleagues for making @OncoAlert 7⃣0⃣%of the top influencers this time.
We Are ALL #OncoAlert 🌐@weoncologists pic.twitter.com/LldKLVWVid
そんなSNSを巧みに活用しているASCOでも、実は約15年前は現在とはかなり様子が違っていたようです。つまり、10年間をかけて現在のスタンスを築き上げてきたわけです。コロナ禍という時代背景により、このスタンスがさらに適切にマッチしているとも言えるかもしれません。
この調査を見ると今のJSMOは15年位前のASCOみたいな感じですね。先生ご指摘の通り、公式ハッシュタグの設定は大事なようです。米国医師会がSNS利用ポリシーを設定したように(逸脱も多発しましたが)、本邦でも同様に取り組めばSNS上でも医学的交流が活況となるかもですね。https://t.co/nhvtIkSrSU
— уон (@Yoh_tw) March 19, 2023
ヤンデル先生は、他の学会でのSNS広報についても以前から活発に情報発信を行っており、そのツイートも参考になります。特に下記のツイートからのツリーは、学会のSNS担当者だけでなく、広報活動に興味がある方にもぜひ一読していただきたいと思います。
学会公式アカウントが成功する条件はふたつ。両方満たしている必要がある。
— 病理医ヤンデル (@Dr_yandel) March 19, 2023
1.ツイート担当者がSNS慣れしている
2.ツイートに含まれる情報に権威・重みがある
みんな「1」をやろうとするのだが、じつは「2」が大事で、「1」は若手でやれるが「2」は教授クラスがコミットしないとできない。
マンパワーやお金をそれほどかけず、匿名アカウントへの実名化を強要せず、見ている人(患者を含む)が不快に思わない方法で、それでも #JSMO2023 のTwitter利用をもう少し盛り上げる余地はあったのではないかと感じます。この点は、今後の #JSMO2024 や #JSMO2025 などの学会に向けての課題として残ります。
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更新日:2023-03-19 閲覧数:534 views.