pan-KRAS阻害剤の登場
KRAS変異は、がん患者さんに最も頻繁に見られる機能獲得型変異の一つであり、その治療ターゲットは、プレシジョン・オンコロジーにおける重要な目的となっています。
最近、科学誌Natureで新型のpan-KRAS阻害剤について報告*1がなされました。まだ前臨床段階の研究ですが、この新薬はG12A/C/D/F/V/S、G13C/D、V14I、L19F、Q22K、D33E、Q61H、K117N、A146V/Tといった、実臨床で遭遇するほぼ全てのKRAS変異に対応可能であるとされています。
KRASは活性状態と不活性状態を往復しています。この新開発の汎KRAS阻害剤は、KRASの不活性状態をターゲットとし、ヌクレオチド交換による再活性化を阻止します。これにより、変異型KRASを持つがん細胞の増殖が抑制されると期待されます。
𝑝𝑎𝑛- の何が嬉しいのかと言うと、これまでは G12C など共有結合可能な限られた変異アリルを covalent inhibitor で狙う力業しか無かったのが、変異の種類によらず効く非共有結合性阻害剤でいけたという話。https://t.co/T1Q8Oy7uo4
— 叢雲くすり (創薬ちゃん) 💊LLM創薬チャレンジ開催中 (@souyakuchan) June 1, 2023
現在、特定の変異型であるKRAS G12Cを標的とする阻害剤が肺がん患者に対して臨床的な効果を示しています。共有結合型の再活性化阻害によってKRAS G12Cを不活性状態に閉じ込めて、再び活性状態になるのをブロックするのです。しかしながら、この薬剤は反応性システイン残基を必要とし、非G12C変異体に対しては効果が発揮できません。
今回の研究では、G12C選択的阻害剤から共有結合型の結合部分を取り除き、強力な非共有結合型の阻害剤を作成しました。これにより、G12C、G12D、G12V変異型KRASを発現する実験細胞株の増殖を阻止することに成功しました。この成果をさらに発展させることで、その他のKRAS変異に対しても広範囲の阻害効果を持つ作用を持たせることが可能になったということのようです。このままpan-KRAS阻害剤の開発が進んでいくことが期待されています。
汎KRAS阻害剤は、肺がん、大腸がん、膵臓がんなどのKRAS駆動型がんの患者の治療に効果を示す可能性があるため、臨床試験の実施が強く求められています。
ASCO2023ではKRASワクチンの研究も
さらに進歩した治療法として、KRASワクチンも注目を浴びています。AmPh-CpG-7909というワクチンは、膵癌や大腸癌の手術後に循環腫瘍DNA(ctDNA)で最小残存病変(MRD)を監視しつつ、T細胞をG12D/R変異ペプチドに免疫させて微小再発をT細胞が排除するというメカニズムを持っています。MRDマーカーの減少が79%に達するとの報告もあります。
https://meetings.asco.org/abstracts-presentations/220030
これらの新たな進展により、KRAS変異を持つがん患者の治療が一段と進化することが期待されます。今後の研究成果と臨床試験の結果に注目が集まります。
Post-pandemic, a lot of progress in the🌍of #cancer is about #vaccines💉.
— Pashtoon Kasi MD, MS (@pashtoonkasi) June 2, 2023
📆🕗Saturday morning, we unveil the results of this novel #KRAS vaccine👇🏾.
👏🏾Amplify-201 ELI-002
Who’d have thought the letters🔠after KRAS🧬would matter!#ASCO23 @OncoAlert
🔗https://t.co/yOvZBBoZdK pic.twitter.com/X0mZHkv59w
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更新日:2023-06-02 閲覧数:918 views.