レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2023年 / 6月1日

ガイドライン作成の舞台裏

腫瘍内科

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医クラの腫瘍部会はASCO2023に注力している一方で、地味に更新された肝臓学会の肝癌診療ガイドラインについて着目してみました。新たに承認されたデュルバルマブ(PD-L1)+ トレメリムマブ(CTLA-4)の追記が行われましたが、その舞台裏での議論が書かれたPDFが公開されており、非常に興味深い内容です。

肝癌診療ガイドライン|日本肝臓学会ガイドライン|ガイドライン・診療情報|医療関係のみなさま|一般社団法人 日本肝臓学会
一般社団法人日本肝臓学会は、肝臓学に関する研究の発表・連絡、知識の交換等を行うことにより、肝臓学に関する研究の進歩、普及を図り、わが国における学術の発展に寄与することを目的としています。
https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/medical/

議論の焦点は、切除不能なHCCの一次薬物療法において、アテゾリズマブ+ベバシズマブ(IMbrave150試験)とデュルバルマブ+トレメリムマブ(HIMALAYA試験)のどちらをどのように組み合わせるかという問題です。PFS、OS、ORR、DCR、そしてPD率の低さなどの指標においても、アテゾリズマブ+ベバシズマブが優位であり、irAE(40mg以上のプレドニゾロン投与を必要とする例)の発生率もアテゾリズマブ+ベバシズマブが半分程度であることが述べられています。患者の背景因子は2つの試験で類似しており、この2つの治療法で推奨度に差をつけるべきかどうかが議論されています。

有効性が優れている治療法と、有効性が劣り副作用も強い治療法が存在する場合、直接比較ではない別の試験結果を並べることは原則的には避けるべきだとされていますが、この原則(理論的正義とも言える)がガイドライン委員会の専門医のエキスパートコンセンサス(経験的正義とも言える)を上回るのかどうかが問われています。

個人的にはこの両者を比べたときにどの指標で見ても優れている(そして使い慣れている)アテゾリズマブ+ベバシズマブを選ばない理由がないと思います。デュルバルマブ+トレメリムマブはBev禁忌の場合を除きほとんど使用されないでしょう。でも、それを明確に推奨することは一定の勇気が必要です。

個々のエビデンスの有無とは別に、専門医の討議と投票によって曖昧な形で治療の推奨を形成するか、それともNCCNのようにエビデンスがあれば何でも盛り込むかという、ガイドラインを作成する人々の姿勢の違いにも似ていると感じます。

最終的に、「アテゾリズマブ+ベバシズマブを第一推奨し、ベバシズマブの使用が困難な場合にはデュルバルマブ+トレメリムマブを考慮する」という案と、「両方を並列に記載する」という案が投票で4対17となり、並列で記載することが決定されました。ガイドラインが作られる裏側では、単純に臨床試験の結果を機械的・盲目的に並べたわけではなく、(当然のことですが)裏ではさまざまな議論が行われているようです。


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更新日:2023-06-01 閲覧数:317 views.