TRYPHAENA試験の読み方?

TRYPHAENA試験は早期乳癌の術前化学療法としてペルツズマブ+トラスツズマブの上乗せの安全性などを検証する第2相試験。術前療法は第2相NeoSphere試験とともに本試験が、また術後療法の第3相APHINITY試験と合わせて、乳癌診療ガイドライン2018年から周術期化学療法にペルツズマブを上乗せする根拠として挙げられています*1。

https://chugai-pharm.jp/pr/npr/per/popup/try/index/
上乗せ対象となる化学療法はFEC→DTX(全期間上乗せ)、FEC→DTX(DTX期間のみ上乗せ)、CBDCA+DTXの3アームあります。個人的には、この有害事象の差が無さそうであることからエピルビシン投与期間中から抗HER2抗体を普通に使って良さそうであることと、カルボプラチンが乳癌診療の様々な場面でもっと存在感を示しても良いのではないかという点で、「ペルツズマブ上乗せ以外の点」でも見るべきところのある試験なのではないかと思っています。
TRYPHAENA試験の読み方は
で、それはさておき問題はこの試験の読み方(発音)です。Twitterでも挙げられているように、この試験の読み方は偉い先生の学会発表を聞いても「トライ…ムニャムニャ」という感じで読み方がはっきりしないのです。Twitterやブログで書くだけなら読み方がわからなくても綴りがわかればOKなのですが、もし口に出して読み上げるならなんと読むのが正しいのか?
一字違いでTryphena(トライフィナ、トライフィナ)というリゾート地があるので、これと同じ発音ですかね。この地名は、トライにアクセントだそうです。https://t.co/aViUIsS79s
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 8, 2020
このツイートでは「トライ」にアクセントと言い切ってしまっていますが、これは後に間違いと判明します。詳しくは後述します。
まず色々とググってみると、TRYPHAENAの一文字違いでTryphenaという地名があるようです。グレートバリアリーフにあるリゾート地でしょうか。

他にも人名としてエジプトのクレオパトラ6世(世代の数え方によって5世となることもある)がトライフィナ(Cleopatra VI Tryphaena)と呼ばれていたというようです*2。転移再発乳癌でのペルツズマブの第3相試験がCLEOPATRA試験だったので、その他のペルツズマブの臨床試験もエジプトの女王様の名前を冠することにしているのでしょうか?
さらにググってみるとペルツズマブ+トラスツズマブをPTXまたはDTXに上乗せした第2相BERENICE試験というのがありますが、BERENICEというのはクレオパトラ6世(トライフィナ)の娘にあたるエジプトの女王様*3の名前のようですね。ペルツズマブ関連ではKRISTINE試験というのもありますが、こちらはクレオパトラやその他の女王名に関係しそうなところはググった範囲では見つからず。しかし、これだけエジプトの女王様の名前が集まっているとなるとやはりトライフィナもここから取ったという考えが強そうです。
他にも聖書にどうやらこの名前の女性が出てくるところがあったり、ローマの要人にもTryphena(Tryphaena)と名前が付く人がいたりするようで、Tryphenaというのはわりとよくある地名だったり人名だったりするみたいです。
TRYPHAENAとTryphenaの綴りの違いについてですが、乳癌の臨床試験名は例えばaffinity(親和性)という単語をもじってAPHINITY試験としたり、Marrianna→MARIANNEのように人名と思われるものを一文字もじっているように見えるものもあります(CLEOPATRAはCLEOPATRAのままですが)。エジプトとローマなど各国で多少綴りが異なるという事情もあったりするのかもしれません。それにしても、クレオパトラとかマリアンヌとかエミリアとか、臨床試験名の女子力が高い。
クレオパトラ、マリアンヌ、エミリア。乳癌の臨床試験の名前って特徴的だなあ。
— ちばにゃん@社会復帰リハビリ中 (@cmy_rl) July 5, 2015
TRYPHAENA試験の発音は
で、その発音ですがはじめはトライフィナ・トライフィーナ・トライフェナで「トライ」にアクセントかと思っていたのですが、Youtubeを見るとどうも「フィ」の部分がアクセントのようです。
さらに聖書に出てくる言葉を解説する動画でもやはり「トライフィーナ」で、フィにアクセント。
こちらのサイトもトライフィーナ(トリフィーナ)でフィにアクセントですね。

さらに、次の動画が決定版です。ハーバード、ダナファーバーの乳腺腫瘍内科医がHER2乳癌療法の展望を語るYoutubeを見つけましたが、まさにこの動画でトライフィーナ(フィにアクセント)と発音しています。下の動画の0:20付近で、今後はNeoSphere試験やTRYPHAENA試験の結果に基づいて周術期にペルツズマブを使用するのが標準治療となるという事についての話をされているようです。
これで疑問が解決しました。TRYPHAENA試験の読み方はトライフィナでフィにアクセントです。学会発表でオーラルプレゼンテーションを求められても、これでバッチリです。こういう小ネタをたくさん持っておくことが、臨床腫瘍学を楽しみながら学ぶコツでもあります(知らんけど)。
ペルツズマブのTRYPHAENA試験、トライフィナで「トライ」にアクセントと言いましたがこれは間違いで、その後に研究した成果によるとトライフィーナと「フィ」にアクセントのようです。Youtubeでもpronounceサイトでも確認しました。研究成果をご覧ください。https://t.co/fGKyTWaAdF
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 9, 2020
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*1 http://jbcs.gr.jp/guidline/2018/index/yakubutu/y1-fq-5/
*2 https://www.livius.org/articles/person/cleopatra-vi-tryphaena/
*3 https://www.livius.org/articles/person/berenice-iv/
更新日:2020-10-08 閲覧数:2485 views.