レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2020年 / 10月12日

化学療法に毎回採血が必要なのか?問題

パクリタキセルの毎週投与などの通院化学療法のときに意外に負担になる頻回の血液検査が必要か?という問題について考えてみます。

通院化学療法の所要時間問題

点滴化学療法を毎週連続して受けるレジメンで治療中の方は、毎回の点滴通院のたびの待ち時間などもバカになりません。

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たとえば毎週点滴を要するレジメンの代表格であるパクリタキセル(weekly PTX)は、抗腫瘍薬の本体にかかる点滴時間が60分だとしても、副作用どめとしての前投薬の抗ヒスタミン剤(ステロイド剤や5HT-3拮抗剤を併用することもあります)で30分、その前後の静脈ルート確保や点滴繋ぎ換えの所要時間を合わせると点滴時間は順調に行っても120分ほどになります。

しかし実際には点滴につながっている時間以外の待ち時間が非常に多い。病院に到着すると、まず血液検査が必要です。特に午前中の受診なら血液検査室が混んでいることもあるでしょう。採血から血液検査の結果がわかるまで60分ほどかかります。血液検査結果が出たら担当医の外来診察室に呼ばれますが、日本の病院の外来診察はたいてい患者数が過剰で待ち時間が長く、採血から60分後には外来診察室までたどり着けていないこともしばしばあります。ようやく外来診察が終われば点滴の準備が始まりますが、抗がん剤は基本的にほとんど用量が患者さん一人ごとに異なるオーダーメイドなので外来診察室でOKが出てから調剤が始まり、ここで30分プラス。さらに外来化学療法室が慢性的に渋滞しているがん診療拠点病院なら点滴ベッド待ちの待ち時間もあり、点滴後の会計清算と合わせると、ここで30分プラス。

病院到着から採血結果判明まで60分
血液検査結果判明から診察まで0〜30分
診察室から点滴調剤まで30分
点滴ベッド待ち0〜30分
点滴前の前投薬(副作用どめ)30〜60分
本体点滴60分
点滴終了後に会計清算まで0〜30分

上記を合わせると、抗がん剤が身体に投与されている正味時間は60〜90分なのに1回の受診全体ではすごく順調に行っても180分少し長引けば300分(5時間)越えのコースです。もちろん副作用どめの点滴など省略できない時間もありますが…。

なんとか時間を短縮しようと病院側も少しずつ工夫をしています。たとえば以下のような取り組みを耳にしたことがあります(当院で実際に取り入れているものもあります)。

血液検査室が渋滞するので、通院化学療法を行う人は優先レーンで採血をしたり、あるいは特別に採血開始時間を早めたりする早出採血(通常の採血業務は8:15からだが化学療法当日の人のみ7:30から早出当番が採血するなど)

一般的な病院の血液検査には優先度に傾斜がつけてあって、救急外来やICU(集中治療室)から提出された血液検査が最優先、次に外来の至急検体、病棟の至急検体、外来の一般検体、病棟の一般検体の順となっていることが多いかと思いますが、当院では外来の至急検体より一段上で救急外来に準じる位置に外来化学療法前採血という優先区分を作ってもらって、結果が早く出るようにしてもらっています。

血液検査結果待ちの時間に薬剤師による服薬指導看護師による診察前面談を行う。

薬剤師・看護師が外来診察の前に面談を行うことで、患者が困っている論点を整理したり、制吐剤や下剤・レスキュー鎮痛剤などの使用状況を把握しておくことができ、患者の満足度向上や外来のスピードアップにつながる。

点滴調剤を地下調剤室ではなく外来化学療法センターのサテライト調剤室で行う。

最近作られた外来化学療法室の場合はその一画に調剤室と安全キャビネットを備えたところが増えているようです。調剤室から外来化学療法室まで調剤された薬を搬送する時間が不要となり、調剤が済み次第すぐに投与できます。

しかしこれらの工夫を行っても、やはり点滴のたびに4〜5時間もかかるのでは通院だけで疲弊してしまいかねません。2〜3週ごとの点滴レジメンならともかく、weekly PTXのように毎週のレジメンでこれはかなりしんどい。

血液検査結果待ちの時間を削れないか

ほかに短縮できそうな所はないのかと考えてみると、次に削る候補となりそうなのは来院直後の血液検査結果待ちの時間(60分)です。血球減少によって休薬の判断をしたり、副作用の出現がないかを確認するために、化学療法の点滴を行う直前には血液検査を行うのががん診療の常識です。しかし、毎週ほとんど何も副作用がなく治療を継続できている人に毎週血液検査を行うことは本当に必要なのか?との疑問もあります。

分子標的薬だけであれば、たとえば乳癌術後療法としてのトラスツズマブ単独療法は1年間のうち(心エコーはすれども)血液検査はほとんど行うことなく治療を完遂できます。大腸癌のセツキシマブを毎週投与する場合も、FOLFOXやFOLFIRIと併用の週とセツキシマブ単剤の週が隔週で回ってきますが単剤の週は採血なしで問題なく運用しています。

細胞障害性薬でも内服薬であればS-1は採血ははじめ2週に1回からはじめて極めて安定していれば6週間ごとの採血、TAS-102も最初は血球減少を慎重にチェックしますが、はじめの数サイクルで問題がなければ4週に1度の採血で十分安全に治療を行える印象です。そう考えると、weekly PTXでも毎週の採血は不要なのではないかと思うのも不自然ではありません。

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そこで、weekly PTXで病勢が安定している人に血液検査がどの頻度で実施されているのかアンケートを取ってみました。

【アンケート(がん診療従事者向け)】weekly PTXで半年以上前から病勢安定。今までFN既往無し、肝機能腎機能問題無し。あなたの外来の血液検査の頻度に一番近いものは?

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 10, 2020

これを見ると、予想以上にPTX点滴を行う日は必ず採血するという意見が多いので驚きました。これがweekly PTXではなく「エリブリンのday8採血は行うか」という質問であれば回答は変わったのかどうかも少し気になるところです。

weekly PTXで採血頻度をどの程度まで減らしても安全性を損ねることが無いのかをPubmedで検索してみましたが、キーワードの設定が悪いのか、探しているテーマに合致する文献はあまり見られませんでした。

添付文書の記載では

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ちなみにパクリタキセルの添付文書を見てみるとA法〜E法までの5つの投与法が記載されています。血球減少時の対応についてはA法(肺癌、胃癌、、乳癌、子宮体癌のtriweekly 210mg/m2)とB法(乳癌、食道癌、血管肉腫のweekly 100mg/m2)では投与前の臨床検査で血球減少があった場合の減量について具体的に記載されていますが、「投与前」というのが当日でなければいけないとまでは記載されていません。この記載もA法は好中球数2000未満、B法は1500未満は延期することと書かれていてあまり実臨床に即していないような…(実際には好中球1900(triweekly)や1400(weekly)だからといってルーチンにweekly PTXをやめたりはしていませんよね。カルボプラチンとの併用のC法、シスプラチンとの併用のD法、および胃癌だけのweekly 80mg/m2レジメンであるE法は記載がありません。とはいえ添付文書の記載を真面目に守るなら、やはり毎回血液検査が必要という意見に分があるでしょうか。。。

私見では…

個人的にはいままで大部分(全員ではない)の患者ではPTX点滴当日に毎回採血をしてきていましたが、これまで発熱性好中球減少症(FN)を発症することなく治療を続けてきて病勢安定している方で肝機能腎機能も問題なければweekly PTXで3投1休のday8採血は省略できる人が結構いるのではないかと考えています。またPTX以外の薬剤で見るとエリブリンのday8採血は結構な割合で省略しています。

ニボルマブの2週間毎の血液検査も細胞障害性化学療法での採血に比べるとあまり検査実施に意味があるとは考えていませんが、ニボルマブについては4週間毎投与法が承認されたことで採血待ち時間を減らそうとする意識があるとないとに関わらず自然とday15検査は省略される流れになってゆくことでしょう。。。

当然のことながら時間短縮のために安全性を損ねてしまっては本末転倒ですので、安全に治療が行えることが十分見極められる患者に絞って実施する必要があるのはもちろんです。しかし、「化学療法だから毎回点滴が必須」と一律にルールを定めてしまうのも患者の利便性を損ねてしまう恐れがあるので、本当に必要な検査なのかどうかを毎回考えながら検査をオーダーする習慣を付けたいと思っています。


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更新日:2020-10-12 閲覧数:1731 views.