JSMO2026がん薬物療法専門医試験シンポジウムレポート

2026年3月のJSMO2026(第23回日本臨床腫瘍学会学術集会)大会長を務められた田村研治先生は、がん薬物療法専門医制度の確立と推進に長年尽力してきた腫瘍内科医です。その田村先生が大会長を務めるJSMO2026では、がん薬物療法専門医と専門医制度に関連した会長企画が複数組まれ、制度の現状と将来像を正面から取り上げるプログラム構成が印象的でした。
なかでも今回の目玉のひとつが、会長企画シンポジウム「がん薬物療法専門医試験:合格者と審査委員が語るコツ~常在戦場、私には私の勝ち方がある~」と題したがん薬物療法専門医認定試験に関するシンポジウムです。模擬面接あり、制度改革の解説あり、かなり内容の濃い90分間でした。

機構認定専門医への移行という大きな変化
今のがん薬物療法専門医は、全員が「学会認定専門医」です。ところが今後、専門医機構に基づく「機構認定専門医」へ移行する方針が示されています。何年度から移行するかはまだ未確定とのことでしたが、方向性としては既定路線となっています。
新制度の骨格をざっくりまとめると、こういうことです。専攻医と指導医はマッチング時点で紐付けられ、研修終了判定は各都道府県の「基幹施設」が担当します。基本領域(内科専門医など)の研修を終えてから最低2年の専門研修が必要で、カリキュラムは5年以内に修了しなければなりません。専攻医と指導医が経験症例をともに管理するシステムとして、内科専門医プログラムでおなじみの「J-OSLER」に相当する「J-OSLER-Oncol」が導入される見込みです。
参考資料:
この変化がどういう意味を持つか、受験を考えている先生方にとっては気になるところでしょう。現行の制度と大きく変わる部分は、指導医の関与が格段に増えることです。今は専攻医が書いた病歴サマリーを学会側の査読者が直接評価していますが、J-OSLER-Oncolが導入されると、各施設の指導医が提出前の段階でサマリーをチェックする比重が高まります。J-OSLER同様、一発合格ではなく「差し戻し」で何往復かするケースも出てきそうです。指導医の負担は間違いなく増えますが、その分、学会側の査読者の負担は軽くなるという構図になります。
症例要件とサマリーの変化
J-OSLER-Oncolの下では、90症例以上を経験し、そのうち30症例を病歴サマリーとしてまとめることが求められるようになりそうです。サマリー数は今と変わりません。ただし、90症例の中身には条件があって、15の疾患領域のうち8領域をカバーする必要があります。さらに血液・呼吸器・消化管・乳腺の4つは「必須領域」として指定されていて、各3例以上の経験が求められます。
15領域:造血器、呼吸器、消化管、肝胆膵、乳房、婦人科、泌尿器、頭頸部、骨軟部、皮膚、中枢神経、胚細胞、小児、内分
泌、原発不明
がん診療連携拠点病院として認定された総合病院であれば、各診療科の協力を得られる環境が整っていることが多く、がん薬物療法90症例という数をクリアすること自体はそれほど難しくないはずですが、8領域というのはかなり大変そうです。たとえば当施設の場合、15領域中8領域を経験するとしたら、造血器、呼吸器、消化管、乳房の必須4領域に加えて肝胆膵、婦人科、頭頸部、原発不明がもっとも症例を集めやすく、さらに状況によって泌尿器、胚細胞、骨軟部(とくに軟部肉腫)などは経験できそうですが、小児のように市中病院ではそもそも症例が皆無の領域もあります。また、剖検の件数は最近どこの施設でも激減していますし、受験を意識しはじめてから集めようとしても、なかなか都合よく症例が揃うものでもありません。受験を視野に入れたら早めに意識しておくべきポイントのひとつになりそうです。
認定試験の出題傾向が変わるかもしれない
筆記試験についても、機構専門医への移行にともなって出題傾向が変化します。現在の試験は200問で、従来はそのうち総論や基礎は3割程度だったようで、各論の標準治療の知識を網羅しておくことが合格には必須でした。ところが機構専門医に移行すると、試験要項は「総論・基礎100問+臓器別各論100問」の構成になる見込みとのことでした。つまり総論・基礎の割合が3割から5割へと大幅に増えます。
薬理学的な理解や有害事象の管理、薬物相互作用といった分野が、今まで以上に問われるようになるわけです。近年は免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理(irAE)やがんゲノム医療に関わる知識を問う設問が増えており、こうした臓器横断的な領域は総論・基礎の比重が高まる方向性とも一致しています。考えてみれば、特定の臓器がんの知識だけでなく、幅広い薬物療法を俯瞰できる力を問う試験へと進化していくのは、この専門医制度の本来の目的に立ち返ったとも言えます。現行の試験対策をしている方は、この傾向変化を頭に入れておいたほうがよいでしょう。
模擬面接「炎上編」
このシンポジウム最大の見どころが、模擬面接セッションでした。受験生役を務めた先生は日の丸の必勝ハチマキを締めた本格スタイルで登場し、会場は笑いに包まれていました。会場参加者はQRコードを読み込むとその受験生が書いた仮想の病歴サマリーを手元で確認できるようになっていて、面接での受け答えとサマリーを照合しながら問題点を一緒に考えるという構成です。
模擬面接編はじまった!!炎上編受験生役の國政先生、日の丸の必勝ハチマキした受験生スタイルでめちゃ本格的だwww。
— レ点🧬💉💊 (@m0370) March 27, 2026
会場参加者はQRコードでその受験生が書いた仮想サマリーが読める。今年のJSMOの最大の見どころイベントです。 #JSMO26 pic.twitter.com/3hOgM90abd
「炎上編」と銘打つだけあって、「どういう経緯でこの治療を選びましたか?」という面接官の問いに、「カンファで部長が言ったので、そのとおりにしました」「m3で偉い先生が言っていたので、そのとおりにしました」と答えたり、副作用説明についても「部長が事前に外来で説明していたと思います」と答えたりと、突っ込みどころを全部詰め込んだ展開で、しかも受験生役の先生がいちいち困惑した反応を示すのが面白かったです。笑いながら見ていましたが、これは笑えない自分の経験に重なる部分もあったりして、少し反省もしました。
面接で「落ちる」受け答えと「通る」受け答え
シンポジウムで整理されていた評価基準は、かなり明快でした。新専門医制度が導入される前からがん薬物療法専門医の認定試験における面接では一貫してこの評価軸の重要性が表明されていたとおり、実際に患者を直接診ていたかどうかが最重要です。それが確認できれば高評価で、上司任せにせず主体的に治療にあたっていたかどうか、レジメン選択に根拠があったかどうかが続きます。反対に「部長が言ったのでその治療にした」「m3で聞いた」という受け答えは論外か、かなりの減点です。病歴サマリーの考察欄でガイドラインをそのまま丸写ししているだけも同様に評価が低い。
知識があるかどうかは筆記試験で問えばよい、というのが整理の仕方で、面接が見たいのはそこではありません。目の前の患者にどう関わったか、エビデンスをその患者に適用できるかどうかを自分の頭で考えたか、という個別性と主体性が問われます。「この症例ではどうだったのか」をサマリーの考察欄に書けているかどうかも、同じ文脈で評価されます。
もうひとつ、定番の質問として挙げられていたのが「がん薬物療法専門医になったら、あなたの施設でどのような役割を果たしていきたいか」というものです。おそらくほぼ全員が聞かれると思っておいたほうがよいでしょう。自分の診療領域のみで専門性を発揮するだけでなく、各医療機関で実施されるがん薬物療法マネジメントのリーダーシップを取ってゆくことも期待されていることが伝わってきます。
採点の仕組みと「面接官評価」という驚きの仕掛け
試験全体の採点方式についても整理されていました。筆記試験・病歴サマリー・面接はそれぞれ独立して採点されます。病歴サマリーは2名の一次査読者が個別に評価し、1名以上が不合格と判定した場合は二次査読委員に回されます。そこで不合格になると、筆記試験と面接には進めません。つまり、サマリーの段階でふるい落とされる可能性があるということです。
面接はZoomで実施されていて、圧迫面接などではなく、実際のところかなり穏やかで優しい雰囲気のようです。圧迫面接にならないよう面接官が意識しているとのことで、知識を試す場ではないという姿勢が貫かれています。
驚いたのが、面接官が受験生を評価しているのと同時に、ブラインドで「その面接官が面接官として適任かどうか」も評価されているという話です。受験生には内緒で面接官の振る舞いも採点されているわけです。フェアな試験を維持するための仕掛けとして、面白い仕組みだと思いました。制度として面接官の質を担保しようとする姿勢は、受験生側にとっても安心感につながるはずです。
まとめ
機構専門医への移行はこれからが本番ですが、J-OSLER-Oncolの導入、総論偏重への出題傾向の変化など、受験を見据えた準備の仕方はすでに変わりはじめています。
シンポジウムの最後に強調されていたのは、試験対策としての勉強と日常診療の質向上を切り離さないことでした。「なぜこの治療を選んだのか」を毎日のカンファレンスや多職種カンファで論理的に説明できる習慣をつけることが、結果的に合格への近道になるという話です。加えて、学術集会や教育セミナーに積極的に参加して最新の知見をアップデートし続ける姿勢も、長い目で見て専門医としての実力につながっていきます。制度の変化に流されるのではなく、その制度が問いたいものの本質を日頃から意識しておくことが、受験を考えている先生方には一番大事なことかもしれません。
シンポジウムの内容はJSMO会員ならオンデマンドで視聴できると思います。受験を考えている方には参考になる90分のはずです。
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更新日:2026-03-27 閲覧数:9 views.