レ点腫瘍学ノート

Top日記2026年6月16日

医療従事者がSEOの基本を知っておくべき理由

病院広報 医療情報 インターネット SEO

外来で「ネットで調べたんですが」という言葉を聞くのは珍しくありません。何を調べたのか聞いてみると、医学的に正確でない情報だったり、根拠のはっきりしない治療を勧める記事だったりすることがあります。国立がん研究センターや都道府県のがん療養情報サイト、病院のウェブページには、専門家が時間をかけて作った信頼できる情報があります。なのに患者さんが実際にたどり着くのはそういうページでないことが多い。ぼくはそのたびに少し悔しい気持ちになります。

情報の「質の高さ」と「届くかどうか」は別の問題です。どんなに正確で丁寧な内容でも、患者さんが実際に検索したときに目に触れなければ、存在しないのと変わりません。質の高い情報を提供しているはずの公的機関のウェブサイトが、粗悪な医療情報にSEO負けしている。その背景にあるのがSEO(検索エンジン最適化)の問題です。

患者さんが検索で見ているもの

「がん stage4 余命」「がん 免疫力 食事」といったキーワードで実際に検索してみると、上位に表示されるのはどんなページでしょうか。国立がん研究センターの「がん情報サービス」*1やがんセンターの公式ページが上位に出ることもありますが、そうでないこともよくあります。検索結果には、不安を煽るタイトルをつけた記事や、科学的根拠が乏しい代替療法を推奨するページが混在しています。

Googleが検索順位を決める際に評価する指標は、Googleが公開しているドキュメント*2などからある程度わかっています。クリックされやすいタイトル、ページが読まれる時間、他のサイトからのリンク数、更新頻度、ページの表示速度などが評価の指標です。「患者さんが知りたいことに即した書き方をしているか」「継続的に更新されているか」「多くのサイトから参照されているか」が検索順位を左右します。

病院の公式サイトや学会が作った情報ページは、内容の信頼性は高くても、上記の観点から見て不利な点を持っていることが多いです。更新が滞っていたり、スマートフォンで読みにくかったり、患者さんが使わない専門用語で見出しが書かれていたりすることがあります。これは情報の「質」の問題ではなく、情報の「伝え方」の問題です。

SEOとは何か

SEO(Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)は、ウェブページが検索エンジンの結果で上位に表示されるようにするための取り組みです。「アルゴリズムをだます」ものという印象を持つ方もいるかもしれませんが、Googleが目指しているのは「ユーザーが求める情報を、質の高いページから届ける」ことです。そのため近年のSEOは、読者に本当に役立つコンテンツを作ることと、方向性がほぼ一致しています。

Googleは医療・健康情報を含むページを「YMYL(Your Money or Your Life)」として扱っています。生命や健康に関わる情報は誤情報が人々に深刻な害を与えうるとして、より厳しく評価されます。そのカテゴリで特に重視されるのが「E-E-A-T」です。E-E-A-Tとは、経験(Experience)、専門性(Expertise)、権威性(Authoritativeness)、信頼性(Trustworthiness)の頭文字で、医師や専門機関が書いた情報は本来このE-E-A-Tで高く評価されやすいはずです。

ただし、専門性があってもページ上で伝わらなければ意味がありません。著者プロフィールがなかったり、所属機関の情報がページに書かれていなかったりすると、専門家が書いたページでも検索エンジンはその専門性を評価できません。医師が書いたことが明示されているかどうかは、SEOの観点からも大事です。

患者さんが使う言葉で書かれているか

キーワードの問題もまた重要です。私たちは専門用語に慣れています。「有害事象」「分子標的薬」「奏効率」という言葉は日常的に使いますが、患者さんが検索するときに入力するのは「副作用」「新しいがんの薬」「治療が効いているか」といった言葉の方が多いでしょう。

ページのタイトルや見出しに、患者さんが実際に使いそうな言葉が含まれているかどうかは、そのページが検索でヒットするかどうかに直結します。「臨床試験における有害事象の評価と管理」という見出しと「がん治療の副作用、どう対処する?」という見出しでは、前者の方が専門的に正確ですが、患者さんが検索でたどり着けるのは後者です。情報の入り口となる言葉が変わるだけで、届く人数が変わります。

更新頻度とページの構造

更新頻度は見落とされがちなSEO要素です。検索エンジンは新しい情報を重視する傾向があり、数年間更新されていないページは、内容が古くなっている可能性があると評価されやすくなります。がん治療の情報は変化が速い分野です。数年前に書かれた標準治療の説明がそのまま放置されているページは、患者さんに誤った情報を与えるリスクがあるだけでなく、検索でも見つけてもらいにくくなります。

ページの構造では、見出しに適切な階層があること(H1、H2、H3の使い分け)、スマートフォンで読みやすいデザイン(モバイルフレンドリー)、ページの読み込み速度などが検索エンジンの評価に影響します。大病院や国の機関のサイトは情報量は豊富ですが、古いシステムで作られていてスマートフォンで読みにくいものがあります。患者さんの多くはスマートフォンで検索していることを考えると、これは届く機会を狭めている要因のひとつです。

情報をどこに置くか

Googleは個別のページだけでなく、そのページが属するウェブサイト全体の信頼性や権威性も評価しています。長年運営されているドメイン、多くの信頼できるサイトからリンクを受けているドメイン、専門性の高いコンテンツが充実しているドメインは、Googleから高い評価を得やすくなります。これを一般的に「ドメインパワー」と呼びます。関連する話題として学会や医療系サイトのドロップキャッチの問題について先日書いたのでそちらもご覧ください。

病院や大学病院のドメインは、医療機関としての歴史や実績、行政・他の医療機関サイトからのリンクなどにより、ドメインパワーが高くなりやすい傾向があります。このドメインパワーを活用するためには、コンテンツを同一ドメイン内に積み上げることが重要です。たとえば「自院での大腸がん治療」について詳しい解説ページを作るとします。そのページを病院の自ドメイン(例: ○○hospital.or.jp/cancer/colon)に置けば、その病院ドメインの信頼性がページにも反映されます。他サイトからのリンクやアクセスが集まるたびに、その恩恵はドメイン全体に蓄積されます。しかし、同じ内容をnote.comに投稿したり、外部のウェブ制作会社が管理する別ドメインのページに情報を委託したりすると、病院ドメインのパワーは活用されません。蓄積されるのは外部業者や外部サービスのドメインのパワーであって、病院ドメインには返ってきません。病院が情報を発信するなら、自分たちのドメイン上に置くことが基本です。

正しい情報を届けるために

医療者はSEOの専門家になる必要はないと思いますが、しかしWEBサイトが検索されるページになるためにはどのような構造をしている必要があるかを知っておく方が発信力を持つことができます。「発信した」と「届いた」は別の話だという認識は持っておく必要があり、どんなに内容が正確でも、検索結果の後ろのページに埋もれていれば患者さんには届きません。

病院や研究機関のサイトは組織の制約があり、個々の医師がすぐに変えられるものでもないことは多いでしょう。しかし、まず最初に意識するだけで変わる点を挙げるとすれば、患者さんが検索しそうな言葉をタイトルや見出しに入れること、情報は定期的に見直して古い記述を更新すること、著者情報を明示して誰が書いたかわかるようにすること、あたりでしょう。これは現在の病院のWEBサイトの構造やアプリケーションを変えること無く(つまり予算をかけることなく)実現できる取り組みです。

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*1 がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/index.html
*2 Google 検索セントラル - Google検索の仕組み https://developers.google.com/search/docs/fundamentals/how-search-works?hl=ja

更新日:2026-06-16 閲覧数:9 views.