レ点腫瘍学ノート

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HER2陽性胃癌のHER2陰性化の問題

HER2陽性胃癌のT-DXdが承認されたけど、胃癌のTmab beyond PDを検証してネガティブだったJCOG7112G(T-ACT試験)では一次治療前に全例HER2陽性だったはずが二次治療時に31%しかHER2陽性を維持してなかった話があったのはT-DXd使用の際には考えなくてもいいのか?https://t.co/GIg8hRawO

HER2陽性胃癌のT-DXdが承認されたけど、胃癌のTmab beyond PDを検証してネガティブだったJCOG7112G(T-ACT試験)では一次治療前に全例HER2陽性だったはずが二次治療時に31%しかHER2陽性を維持してなかった話があったのはT-DXd使用の際には考えなくてもいいのか?https://t.co/GIg8hRawOX

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 2, 2020

二次治療以降のHER2陽性胃癌に対する臨床試験ではエントリーされた症例でもHER2が陰性と判定される症例が少なくない

胃癌のトラスツズマブbeyond PD(つまり一次治療でトラスツズマブが不応となった後も二次治療でトラスツズマブを継続する意義があるか)を検証してネガティブだったJCOG7112G(T-ACT)試験ではHER2陽性胃癌を対象に計画した試験だったはずですが、一次治療前に全例HER2陽性だったはずが二次治療時に31%しかHER2陽性を維持してなかったという話がありました。つまり、胃癌ではHER2陽性であったとしても抗HER2療法を行っているうちにHER2が陰性化することがしばしばあるということが言えそうです。

Randomized, Phase II Study of Trastuzumab Beyond Progression in Patients With HER2-Positive Advanced Gastric or Gastroesophageal Junction Cancer: WJOG7112G (T-ACT Study) - PubMed
The TBP strategy failed to improve PFS in patients with HER2-positive advanced G/GEJ cancer, and no beneficial biomarkers were found.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32208960/

またT-ACT試験以外でも、T-DXd(トラスツズマブデルクステカン)の胃癌の治験もまたHER2陽性を対象としてエントリーさせた臨床試験ですが、HER2ステータスを中央判定すると全体の4割の症例でHER2の陰陽が中央判定と乖離したという話もありました。

確かBOAJ2020の話では胃癌T-DXd治験で4割の症例でHER2の陰陽が中央判定と乖離したという話があり耳を疑ったが、よく考えるとこれも初回治療前とトラスツズマブ治療後でHER2ステータスの陰性化が起こったのではないかと思う。もっと言えば、胃癌でT-DM1やラパチニブの試験がことごとくコケたのも…。

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 2, 2020

これも、各施設判定は一次治療前のHER2ステータスを流用しているのに対して中央判定は(この試験は3次治療以降を対象とした試験なので)3次治療の時点でのサンプルを使ってHER2を再判定したところHER2が陰性化していたということなのかもしれません。

Randomized, Phase II Study of Trastuzumab Beyond Progression in Patients With HER2-Positive Advanced Gastric or Gastroesophageal Junction Cancer: WJOG7112G (T-ACT Study) - PubMed
The TBP strategy failed to improve PFS in patients with HER2-positive advanced G/GEJ cancer, and no beneficial biomarkers were found.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32208960/

なぜ乳癌ではトラスツズマブが一次治療から後方ラインまでずっと効き続けてT-DM1や他のHER2標的薬も並んでるのに胃癌は一次治療のトラスツズマブが劇的に効くのにそれ以降がさっぱりなのか、HER2療法の耐性化機序が違うんだろうか。胃癌はHER2タンパク質が発現しなくなるとか…。その辺のデータない?

— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 2, 2020

乳癌では術前術後にトラスツズマブやペルツズマブを使い、再発後もトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン、その後にT-DM1、さらにT-DXd、また将来的には状況によって(たとえば脳転移があって)HER2-TKIを使用することも出てくるかも知れません。抗HER2療法を継続するということは乳癌では一般的になっています。もちろんHER2陽性乳癌でも治療経過中にHER2が陰性化してトリプルネガティブ乳癌になっているようなケース*1*2はしばしば目にしますが、それでも抗HER2療法のbeyond PDでの継続の有用性はコンセンサスを得ています。それに対して胃癌では同じような治療戦略が成り立たないのは、やはりHER2ステータスの陰性化の関与があるのではないかと考えてしまうわけです。

胃癌のHER2陰性化の頻度に関する報告

九州大学を中心とするKSCCからの報告では、3ヶ月以上のトラスツズマブによる治療を受けたHER2陽性胃癌33例の検討でおよそ6割にHER2の消失を認めたようです。なお、生検検体の固定方法によってもHER2ステータスに若干の変化が起こることも言及されています。

Re-evaluation of HER2 status in patients with HER2-positive advanced or recurrent gastric cancer refractory to trastuzumab (KSCC1604)
Anti-HER2 therapy has not demonstrated a survival advantage in the second-line setting of patients with HER2-positive gastric cancer. We conducted thi…
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0959804918313947

こちらの海外からの報告でもおおむね30%強の症例でトラスツズマブの治療後にはHER2ステータスが陰性化するというように報告されています。なお、HER2の欠失とHER2過剰発現の消失とを別個に評価されていますがいずれも頻度は3割程度であまり差が無いようです。

HER2 loss in HER2-positive gastric or gastroesophageal cancer after trastuzumab therapy: Implication for further clinical research - PubMed
Mechanisms of acquired resistance to trastuzumab-based treatment in gastric cancer are largely unknown. In this study, we analyzed 22 pairs of tumor samples taken at baseline and post-progression in patients receiving chemotherapy and trastuzumab for advanced HER2-positive [immunohistochemistry (IHC …
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27578417/

こちらの文献は症例数は少ないものの、HER2陽性胃癌に対するトラスツズマブの治療前後でのHER2ステータスの変化について検討され、7例中の3例でHER2が陰性化したと述べられています。

Comparison of HER2 Status Before and After Trastuzumab-based Chemotherapy in Patients With Advanced Gastric Cancer
Background/Aim: The aim of the present study was to compare human epidermal growth factor receptor 2 (HER2) expression before and after trastuzumab-based chemotherapy in patients with advanced HER2-positive gastric cancer. Materials and Methods: We assessed HER2 expression using immunohistochemistry and/or fluorescence in situ hybridization in pre-treatment biopsied specimens and post-treatment resected specimens obtained from seven patients with advanced HER2-positive gastric cancer receiving trastuzumab-based chemotherapy. Results: Four patients maintained the HER2-positive status and three patients had a change in HER2 expression from positive to negative. In patients showing the loss of HER2 expression after treatments, HER2-positive tumor cells with a dominant histological type disappeared, and HER2-negative tumor cells with another dominant histological type were identified. Conclusion: HER2 expression can change after trastuzumab-based chemotherapy in patients with advanced HER2-positive gastric cancer. Continuous monitoring of HER2 expression after treatments may be utilized to determine whether the continued use of trastuzumab is advisable.
https://ar.iiarjournals.org/content/40/1/75

これらで示されたようにHER2陽性胃癌に対するトラスツズマブの治療中にHER2が陰性化するというのは30〜60%程度の症例では見られることのようです。もともと胃癌のHER2ステータスは非常に腫瘍内ヘテロ性が高いため、ひとつの腫瘍組織内にもHER2がつよく発現している細胞もそうでない細胞も混在した状態になっています*3。このような腫瘍に対して抗HER2療法を行うとHER2が過剰発現していない腫瘍細胞に生存セレクションがかかり、全体としてHER2陰性の腫瘍に置き換わってゆくような選択圧が最終的なトラスツズマブ耐性を招くのだと考えられています。

もちろんEGFR増幅やc-met増幅、PIK3CAなどのPI3K経路の変異などのトラスツズマブ耐性機序も存在しますが、こと胃癌に関してはHER2の陰性化の影響は無視できなさそうです。

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*1 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24013581/
*2 https://clincancerres.aacrjournals.org/content/15/23/7381
*3 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0959804912008404

更新日:2020-10-28 閲覧数:621 views.