レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2022年 / 2月6日

医師国家試験にも出たirAE副腎皮質機能低下症

免疫チェックポイント阻害剤

医師国家試験の受験生の皆さん、2日間の試験、お疲れさまでした。

医師国家試験に出題されたirAE副腎皮質機能低下症

今年は、免疫チェックポイント阻害剤を使用中のがん患者に起こったirAE(免疫関連有害事象)としての急性副腎皮質機能低下症の問題が、医師国家試験の問題として出題されたようです。

116A-35 : A問題 | MEC国試速報掲示板
by MEC 医学生・レジデントのためのポータルサイト。
https://bbs.icrip.jp/forums/topic/116a-35/
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ちょうどその前日に、似たような症例が医師国家試験に出題されるんじゃ無いかなぁと言うことをツイートしていました。もちろん試験問題を事前に知って漏洩したわけではなくて偶然なのですが。

明日の国試には、肺癌外来治療中の人が夜にぐったり消耗して救急外来に搬送され、緊急CTでは肺癌は縮小で病勢安定してるのになぜか本人はショックバイタルで低Na血症と傾眠傾向、早急に実施すべき治療はどれか?っていう問題が出ると思うなぁ。

— レ点の秘書です💉💊🧬 (@m0370) February 4, 2022

そして、Twitterを見ているとirAEのことは知っていても実際にどう対処すれば良いのかわからないという声が結構ありました。当直帯には必ずしも専門医が診察にあたっていたりすぐコンサルトできる場所にいるとは限らないので、とりあえずの対処方法についてをメモしておきます。100点満点の対処ではありませんが、合格最低点は取れるはずです。

免疫チェックポイント阻害剤のirAEとしての副腎皮質機能低下症

免疫チェックポイント阻害剤によって起こる有害事象、免疫関連有害事象(irAE)は起こる時期も不確かである上に症状が非特異的で、厄介です。特に内分泌異常として現れるものは「なんとなく元気がない」「食欲がない」「血圧が低くぐったりしている」など愁訴と身体所見だけでは一体どこに病態の主座があるのかわからないことも少なくありません。

また、irAEとして起こる副腎皮質機能低下症はいつおこるかわからない上にかならずしも主訴がハッキリしているわけではないので、免疫チェックポイント阻害剤を処方している主治医以外の医師がファーストタッチすることも少なくないというのも解決を難しくしています。

しかし、特に副腎皮質機能低下症は対処が遅れれば重篤化したり、最悪の場合は致命的な経過をたどることもあり得ます。診断さえ付けば治療は簡単(ヒドロコルチゾンを補充するだけ)なので、このような患者に遭遇した際に副腎皮質機能低下症かもしれないと鑑別に挙げることができるかどうかが勝負の分かれ目になります。

最近は抗PD-1抗体だけでなく抗CTLA-4抗体を併用することも増えており、今後は従来よりさらに副腎皮質機能低下症を来す症例が増えるものと思います。

今回の医師国家試験は、必ずしもがん専門医でなくても遭遇し適切な診療科にコンサルトしてほしい(内分泌内科か腫瘍内科にコンサルトさえできれば、おそらくそのあとの治療は自動的に進む)ということを非専門医の方々にも知っておいて欲しいという、出題委員の考えが表れたものと思います。

副腎皮質機能低下症の症状

教科書的には、食欲不振、低血圧、低血糖、低Na血症などがあります。
しかし、実際には症状はかなり多彩です。ただ怠いだけとか、がんが進行したため衰弱していると思われていたり、更年期障害と思っていたり、という事例もあります。

症状は、免疫チェックポイント阻害剤の投与より後どれくらいの時間で起こるかはハッキリ定まったものはありません。投与開始から3〜6週間後頃が多いとは言われていますが、これまでに免疫チェックポイント阻害剤の投与を終了してから半年くらい経って起こったケースにも遭遇したことがあります。直近の治療歴だけで無く、過去まで遡って免疫チェックポイント阻害剤の投与歴がないかを確認する必要があります。

実際の「とりあえずの対処」

日中に内分泌の専門医がこのような症例に対処する場合は、副腎皮質・甲状腺・下垂体などのどこに病態の根元があるのかを精査し、最適な治療を行うことができるでしょう。でもirAEはそんなにお行儀が良くはないので、最初から内分泌内科外来へ行ってくれることはまずありません。最初はほぼ必ず、内分泌の専門医ではない医師が診察することになるでしょう。

ましてや、夜間休日に検査体制も伴わない救急外来で遭遇することもしばしばです。コルチゾールの測定もできません。専門医にもすぐには相談できません。そういうときにどうするか。

  1. もちろん、専門医に相談できる場合は相談してください。それが最善・最適です。
  2. 免疫チェックポイント阻害剤を処方している専門医にも相談できれば相談してください。免疫チェックポイント阻害剤を多数処方していれば一定の頻度でこのような症例に遭遇しているので、場合によってはirAEとしてかなりの症例の副腎皮質機能低下症の経験を持っていて迅速な対処ができることがあります。

以下は、そうではない場合の非常時の対応です。

  1. とりあえず当直中に遭遇したら、(診断が確定して無くても疑わしければ)中等症以上ならソルコーテフ100mg点滴軽症はコートリル20mg分2経口で投与しておけば、その日は多分なんとかなります。血管内脱水を伴いやすいので、十分な補液(生食液やリンゲル液などの細胞外液)も行います。
  2. irAEの副腎皮質機能低下は甲状腺機能低下と同時に起こりやすいけど、チラーヂンを先に入れてはいけません
  3. irAE対処のステロイド(副腎皮質機能低下)やインスリン(1型DM)は「必要なのに入ってない」は「不要なのに入れちゃった」よりはるかにダメージがでかいので、診断が未確定でも疑わしければソルコーテフ100mgとインスリンスケール(または輸液のブ糖5gあたりインスリン1単位混注)して様子を見る。
  4. 「コルチゾールは安静時採血」と習いますがそれは副腎皮質機能亢進症を判定するためで、irAEの現場では機能低下症さえ拾えればいいので、安静でなくてよいです(低値を拾えれば偽高値は目をつむる、低いときは労作中でも低い)。そして採血を出しつつ結果を待たずにとりあえず初回ソルコーテフを入れる。
  5. 免疫チェックポイント阻害剤によるirAEとしての副腎皮質機能低下症を発症しステロイド補充が必要となった場合は、その後は一般的に一生涯のホルモン補充が必要となります。
  6. ちなみに、副腎皮質ホルモンの需要量は身体への負荷・侵襲によって変動しますので、安定期ならコートリル20mgで足りていても肺炎など感染を合併していたりその他の理由で全身状態が悪いとき(シックデイ)はコートリルを1錠追加〜倍量まで増やすなどのカバーが必要となります。敗血症や手術などの大侵襲が加わるときは100〜200mgのソルコーテフ点滴が必要なこともあります。

甲状腺機能低下症と同時に起こっている場合は

  1. irAEで甲状腺と副腎皮質機能が同時に低下しているときにチラーヂンを先に入れてしまうと、相対的に副腎皮質機能低下の度合いがより強くなって副腎クリーゼを誘発・悪化させます。投与は先にステロイド(ヒドロコルチゾン)。チラーヂンは1日抜けてもどうということはないので開始は翌日以降(5〜7日目から甲状腺補充開始とする参考資料が多い)でOKです。
  2. 内分泌検査は外注で結果判明に数日かかる病院も少なくないですが、がん薬物療法を積極的に行う病院なら(医療安全的に)TSH・fT4・コルチゾールくらいは即日測定できるようにしておくほうが良いです。当院も外注でしたが数年前から院内測定に切り替えて2時間くらいで結果が出るようになりました。もしまだ院内測定ができない病院なら、検査部の担当者に交渉してみましょう。

迷ったときのコツ

採血結果を待つ必要はなく、疑わしければ投与してしまってよいと思います。血糖が上がったりしても、インスリンスケールでとりあえず対応できます。

ステロイドは生理的な必要量さえカバーできれば必ずしも多く入れる必要はないので、内分泌異常単独としての副腎皮質機能低下症ならステロイドパルス量は必要なく、ソルコーテフは50〜100mgあればその当直帯はしのげるでしょう。むしろ変にステロイドパルスを行ってしまうと譫妄が出たりしてかえってややこしくなることもあります。

軽症ならコートリル(15〜)20mgを朝夕分2でもOKです。これは体内の生理的に分泌されている量と比べて無茶な量ではないのでステロイドの有害事象もそこまで強くは出ません。副腎皮質機能低下症の診断が確定でないからと迷っているうちに患者の状態を悪化させるくらいなら、ステロイドが入りすぎてしまうほうがよほどマシです。

まとめ

irAEとしての副腎皮質機能低下症は、それを鑑別診断に挙げられるかどうかが勝負の全てです。「もしかすると、この倦怠感はirAEかもしれない?」と着想することができれば90%以上その診療はカタが付いています。あとはググるだけ。対処は難しくありません。

こういう病態がある、ひとまずの対処だけしてあとは専門家に投げればOK、とだけ認識してくださっていれば、もうそれで完璧です。

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— エル・マタ・ドーラ (@gyomindo) February 5, 2022

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更新日:2022-02-06 閲覧数:1451 views.