BRAF大腸癌のBEACON CRC試験に対するレター
BMJにBRAF大腸癌のBEACON CRC試験に対して鋭い皮肉を加えたレターが載っていました。興味深かったので紹介します。
BRAF変異大腸癌に対するBEACON CRC試験とは
セツキシマブ(抗EGFR抗体)+エンコラフェニブ(BRAF阻害剤)±ビニメチニブ(MEK阻害剤)の併用療法を検証したBEACON CRC試験がESMO2019で発表され、同時にNEJMに掲載されました。単にBEACON試験と呼ばれることもあります。
この結果を受けて、本邦でもBRAF変異大腸癌に対しては二次治療以降でセツキシマブ+エンコラフェニブ±ビニメチニブを投与することが標準治療とみなされています。
BMJに掲載されたレター
このレターはNEJMにBEACON CRC試験の論文が掲載されてしばらくした頃にBMJに投稿された論文です。
なぜNEJMのletter to editorではなくBMJの掲載されたのかはわかりませんが、おそらくは一度NEJMに submitされたが採用されなかったのではないでしょうか。詳細はわかりませんが。
ここではいくつかの疑問が、やや否定的なニュアンスで列記されています。たとえば、採用・除外基準の記載が無いとか、BRAF検査法も言及ないとか、対照群の内訳が非公開とか、統計解析法も曖昧とか、COIの有無などが挙がります。
治療選択に対する疑問
BEACON試験の講演などを聞いていていつも疑問に思うのは、2剤投与と3剤投与で3剤投与が優越性を示したわけではないのに、そちらが事実上「より良い治療」という立場をとっているふうな話が多い点です。「統計的に検定されていないが3剤投与の予後が良い傾向にあった」という結語をいろんな講演会のスライドで見るので、やや複雑な心境です。
BEACONの「転移臓器3個群、PS1群、CRP上昇群」で3剤併用が2剤より良かったのはわかるが、だからと言ってこの「いずれか最低1つ」に該当すれば3剤のほうが良いと言うのは拡大解釈しすぎじゃないかと思うんだが…。「PS1、転移1個、CRP陰性」の人で3剤が2剤より良いとは言えなくないか?
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) January 30, 2021
また、BEACON試験のコントロール群はFOLFIRI+セツキシマブやCPT-11+セツキシマブなど複数のレジメンが混ざっていますが、その内訳も明らかにされていません。
BRAFの評価方法に対する疑問
BEACON試験のマテメソを読んでも、BRAF変異をどのように判定したのかがわかりません。
日本では保険承認されているRAS/BRAF検査キット(RASKET-B)を使って病理組織検体でのBRAF検査を行なっているケースが大部分だと思います。しかし、他にFoundationOne CDxやFoundationOne liquid CDxで BRAF変異を検出することもあります。本法では承認されていませんが、リキッドバイオプシーでRAS変異を検出するOncoBEAM法でBRAF変異を検出する検査法も開発が進んでいます。
大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第4版に様々なBRAF変異大腸癌の臨床試験ではどのBRAF検査検査を行ったのかというリストが出ています。これを見ると、ダイレクトシークエンス法やパイロシークエンス法、リアルタイムPCRクランピング法など様々な検査方法が入り乱れている状況です。
確かにBEACON CRC試験のNEJM論文のマテメソを見てもBRAF検査法が書かれてないので、TRIBEやCRYSTALなど過去の大規模試験ではBRAF変異をどうやって検出したのか調べてみたら、各社バラバラすぎて腰を抜かした。こりゃダメだ。(画像は大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第4版) pic.twitter.com/eEe0EAvwaO
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 20, 2021
結局、大腸癌に対するBRAF検査の検査手法は何がスタンダードなのかわからない状況です。
まとめ
このBMJのレターは「NEJMは科学誌なのか、只の企業の広告塔なのか?」とかなり辛辣なコメントで締めくくっています。
予後不良なBRAF変異大腸癌に対するBRAF阻害剤やMEK阻害剤の治療成績を見ると抜群によい成績を示しているので非常に重要な薬剤であることは間違いありません。大腸癌治療戦略を組み立てる上で非常に重要な臨床試験です。しかし、科学的根拠に基づいた医療ということを考えてみると、確かにこのBMJのレターが指摘している点ももっともだなという印象を受けました。
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更新日:2021-10-28 閲覧数:930 views.