MSI大腸癌
MSI大腸癌について
- 2017年5月にFDAが「臓器を問わず」dMMRまたはMSI-Hがんに対してペムブロリズマブを承認
- 日本では2018年12月にMSI-Hがんに対してペムブロリズマブが承認される見込み。米国では免疫染色でdMMRを確認するかMSI検査(Promega検査キット)でMSI-Hを確認するかいずれでもよいが、日本ではMSI検査に限定される見込み(MMRタンパク質の免疫染色はコンパニオン診断として承認されない)。IHCの抗体試薬会社が前向きでなかったためなどの説があるが定かでない。
- DNAのMSI検査と病理学的なIHC(免疫染色)は大腸癌では9割が一致し、胃癌ではさらに一致率は高い。一方で子宮内膜癌の場合はMSI検査とIHC検査の一致率はそれほど高くはない。子宮内膜癌では腫瘍内のheterogeneityが高いことが影響していると考えられる。<Ann Oncol 2017: 96-102.>
- 最終的にはMSI検査もIHC検査もNGS検査に取って代わられる可能性がある。<Nature 2012 330-337.>
- 各種がんにおいてMMR大腸癌を含む割合 <Science 2017: 409-413>
- 各種がんにおいてMMR大腸癌を含む割合 <ASCO2018 LBA1509>
命名の由来
- Lynch症候群はHenry Lynchの名前がついているがはじめに報告したのは19世紀の病理学者Aldred Scott Warthinである。
- ドイツからの移民の家族ががん家計であることをWarthinに相談し、この家系3世代のがん多発についてWarthinが1900年に発表した。カール・エーリヒ・コレンスによるメンデルの法則の再発見の発表が1900年であることからWarthinもこの時点ではがんが多発する家系について常染色体優性遺伝であることは認識していなかったと思われる。
- Warthinが調べた家系を約50年後にHenry Lynchが再度調査を行い、4世代にわたって胃癌・大腸癌・子宮内膜癌が多発することと常染色体優性遺伝の形態を取ることについて1966年に発表した。このためにMMR異常による遺伝性腫瘍疾患はLynch症候群と名付けられているが、Warthin症候群と命名されてもおかしくなかった。
MSI-H大腸癌およびLynch症候群の責任遺伝子
- MSH2、MSH6、MLH1、PMS2がmajorな責任遺伝子
- MLH1はPMS2と、MSH2はMSH6と2量体を作って安定する。MLH1が存在しないときはPMS2は速やかに分解され、またMSH2が存在しないときはMSH6も消失している。ただしいずれも逆は成り立たない(MSH6が欠損してもMSH2は他の分子と2量体を作成できる)。
- MLH1とMSH2のほうが臨床的な表現系が強く出る(若年発がん、濃厚家族歴など)。MSH6やPMS2では高齢で発症していたり家族歴が目立たなかったりして、遺伝性腫瘍と認識されないことがしばしばある。
- MSIがんは大腸癌CMS1に相当する。
MSI-H大腸癌およびLynch症候群の発生頻度
- Lynch症候群は大腸癌の1-5%と言われている(国や地域によって偏りがある。日本は1.3%程度というデータがある)。
- MSI大腸癌はアジアでは大腸癌全体の5%程度とされており、欧米でもイタリアなどは5〜8%程度と低いが米国ではMSI大腸癌は15%程度と言われている。
- 埼玉県がんセンターのデータでは、2563例中でMSI-H大腸癌が151例。
- MSI-H大腸癌のうち18%がLynch症候群、30%がsomatic 2hit MSIがん、52%がMLH1 promoter hypermethylation。
- Lynch症候群はBRAF変異とはほぼ相互排他的である(Lynch症候群ならBRAF変異は陰性、BRAF変異陰性ならLynch症候群ではない)。ただし浸透率が低い(表現系が出にくい)Lynch症候群保因者が高齢まで発がんせずに生存し、高齢になってからsporadicにBRAF変異がんを発症するなどの場合を除く。
- Lynch症候群の責任遺伝子の内訳を見ると、MLH1異常が18%、MSH2異常が39%、MSH6異常が32%、PMS2異常が11%。
MSI大腸癌の発症形態は次の3つのパターンに大別される。
- Lynch症候群。すなわち父か母のいずれか片方からMMR遺伝子異常を受け継ぎ、germline(およびすべての体細胞)に1hit mutationをすでに保有している。2hit目が起こった時点でadenoma→adenocarcinomaが発症する。
- sporadicにMMR遺伝子にmutationを獲得する。MMR遺伝子にhitが2回起こることで腫瘍が発生する。
- MMR mutationではなくMLH1プロモーターにエビゲノムな変異が起こる。すなわちMLH1 promoter hypermethylationによりMLH1が不活化されて発症する。このタイプはBRAF変異陽性に合致する割合が高いが、最近確認された日本人データではmethyl(+)のうちBRAF(+)は3分の2程度で残り3分の1はBRAF変異を持たないと言われる(埼玉県立がんセンター)。
MSIがんの病理学的特徴
- 腫瘍内にリンパ球浸潤が目立つ
- mucinous
- 髄様癌
- クローン病likeなリンパ球浸潤
- PD-L1発現が陽性
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更新日:2018-11-03 閲覧数:1563 views.