免疫チェックポイント阻害薬とステロイド
免疫チェックポイント阻害薬とステロイド
免疫チェックポイント阻害薬による治療はがんの免疫応答の低下を回避することで抗腫瘍効果を示すが、過剰な免疫応答によるirAEが起こることがあります。irAEに対しての標準治療はステロイドですが、irAEを抑えるために投与されたステロイドが免疫チェックポイント阻害薬の効果を下げてしまうのではないかとの懸念があります。
ステロイドと免疫チェックポイント阻害薬を併用したときの有効性に関する報告は散見されるものの、まだ確立されたエビデンスはないと言えるのではないかと思われます。
基礎的な検討
抗PD-L1抗体または抗PD-1抗体とステロイドを同時に投与開始した場合は、低用量ステロイドでは免疫チェックポイント阻害薬の効果が減弱する傾向があり、高用量ステロイドでは有意に効果が低下する一方で、抗PD-L1抗体を先行して投与してあとからステロイドを投与開始した場合には効果が保たれるというデータがあります。また抗CTLA-4抗体でも先行して投与開始してあとからステロイドの投与を開始した場合にはやはり同様の結果が見られました。
Tokunaga A et al. Journal of Experimental Medicine 2019
ステロイドは投与されるタイミングによってその効果に差がある理由としては、免疫チェックポイント阻害薬が投与されてブレーキが外れたT細胞が抗原を再認識する(抗原に再暴露される)タイミングでのステロイドの有無の影響が大きいのではないか、などが機序として推定されています。ステロイドが投与されている状態では、抗原提示細胞(APC)のMHCから受けた光源情報をTCRで受けてT細胞が活性化されるまでのステップが阻害されるため影響が大きいが、一旦T細胞が活性化されたあとにステロイドが投与されるのは相対的に影響が小さいのではないかということなどが考えられます。
またステロイド投与により脂肪酸のβ酸化が抑制されてT細胞からメモリーT細胞への分化が阻害されるのではないかという機序も考えらているようです。
なお、このステロイドの投与による免疫チェックポイント阻害薬の効果減弱の影響はTMBが低いほうが影響を受けやすいと言われており、これはTMBが高い場合はがん抗原(ネオアンチゲン)が豊富に提示されるためステロイドの影響下でもT細胞の活性が落ちにくいことなどが推測できます。
抗PD-1療法によるirAEへの対応のステロイド
irAEが生じたときの対処のゴールデンスタンダードはステロイドですが、このステロイド投与を躊躇する理由として、せっかく抗PD-1抗体で抗腫瘍免疫を不活化させているときにステロイドを投与することで免疫寛容を生じてしまって抗腫瘍効果を損ねるのではないかという懸念がついてまわることです。
しかしこれまでの報告では抗PD-1抗体療法を開始したあとに生じたirAEに対してステロイド療法を行ったとしても抗PD-1抗体療法の効果は損なわれないという報告が複数出ています。
もともと条件設定的にRCTが組めるようなクリニカルクエスチョンではないので後方視的な検討ばかりではありますが、これだけデータが揃ってくると抗PD-1抗体療法の開始後にはステロイドを投与することをためらうよりはirAEを制御することを優先するほうが良いように思われます。当然各種ガイドラインでもそれが推奨されています。
抗PD-1療法の開始前からのステロイド
治療開始後のステロイド使用は抗PD-(L)1療法の有効性に影響しないことが知られていますが、治療開始前からの10mg以上のPSL使用は、いくつかの背景因子で調整してもORR・PFS・OSの悪化に関与する可能性あり、との報告があります。ただし前向き介入試験ではなく後方視的な解析です。
また、治療開始前からのステロイドではなく治療早期からのステロイド導入も影響があるかもしれません。これも後方視的な検討ですが、非小細胞肺癌に対してニボルブマブ投与を受けた患者でニボルマブ投与開始から30日以内のステロイド併用は背景因子調整後死亡リスクが2.3倍高いとの報告があります。
でも治療開始前からステロイドが入っている時点で「状態が良くない患者」と言えるので、この後方視的データだけで抗PD-(L)1療法前からのステロイド使用に関して「prudentであるべき」というのは言い過ぎのような気もしなくもないです。より高いレベルのエビデンス待ちとも言えそうです。/JCO
ステロイドの使用目的による違い
上記のようにステロイドがPSL換算で10mgを超えていると予後が悪いとのデータが有りましたが、ステロイドの使用目的も様々です。2019年夏になって発表されたこのデータでは、PSL換算10mg以上のステロイドを使用している患者では確かに免疫チェックポイント阻害薬による治療を行った場合の予後が悪かった。しかし、これをステロイドの使用目的別に見てみると、がんの症状緩和目的でステロイドを使用している患者で特に予後が悪く、がんに関係しない理由でステロイドを使っている患者などではPSL換算10mg以下の患者など他の群と比べても予後に遜色はなかったというのです。
つまりステロイドをPSL換算10mg以上使っている患者は、ステロイドが悪かったのではなくて、そもそも症状緩和目的のステロイドを必要とするほどバックグラウンドの全身状態が悪かったということを示唆します。ステロイドの使用目的によって分けるとなると解析が複雑になり、他にも考慮すべき交絡因子も次々に出てきそうな気もしなくもない検討ではありますが、先程のステロイドが10mg以上投与されていると予後が悪いというのを安易に丸呑みせず疑うことが必要であるということを警告しているようにも感じられます。
ieAEの出現と免疫チェックポイント阻害薬の有効性に関連はあるのか?
これはまだ結論が出ていないと言えるところです。今のところ、ASCOのガイドラインでもNEJMのレビューでもConflicting data are availableとなっています。
https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2017.77.6385
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1703481
有害事象の中では皮膚障害が関連している度合いが高いというデータが強く見られるようです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31021392
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30998826
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更新日:2020-01-03 閲覧数:4375 views.