T-DXdとイリノテカンの交差耐性はあるのか問題

トラスツズマブデルクステカンとイリノテカンの交差耐性問題
HER2陽性胃癌の三次治療としてT-DXd(トラスツズマブデルクステカン;エンハーツ)が保険収載されて標準治療となり、現場でもすでに多用されています。でもデルクステカンってイリノテカンと同じトポイソメラーゼ-I阻害薬です。T-DXdとイリノテカンの交差耐性って問題にならないのでしょうか。
T-DXdが三次治療で使われるようになり、ニボルマブよりも前のラインで使われるパターンが一般的となると、HER2陽性胃癌の三次治療の選択肢にあがるT-DXdとニボルマブとFTD/TPIでは、T-DXd→ニボルマブ→FTD/TPIの順で使用するケースが多いかと思います。イリノテカンは必然的にこれより後方ライン、つまり六次治療以降でしか出番がなくなってしまいますが、胃癌の一次治療からのOSがおおむね1年〜1.5年の範囲であることを考えると六次治療までたどり着くことは少なく、イリノテカンの投与を受けることがないまま化学療法を終えることが多くなっていますね。
したがって、T-DXdとイリノテカンの交差耐性はあまり気にしなくても良いのかも知れませんが、そうはいってもやはり気になります。イリノテカンの前治療がある患者ではT-DXdの有効性が落ちるのかどうか。特に今後大腸癌でもHER2陽性であればT-DXdを投与する時代が来ると、この問題はFOLFIRIとT-DXdのどちらが先かという問題にも絡んで来るので深刻です。
今あるデータを見てみると
これについては現時点ではあまり詳しいデータはないのですが、わかる範囲でデータを探してみると・・・
大腸癌
Destiny-CRC01試験を見ると全例previous irinotecanだけどORR 45%くらいあるし、まあまあ大丈夫そうな気はします。

胃癌
一方で、胃癌での大規模試験でも標準治療後の患者をリクルートして試験を実施しているのでそれなりにイリノテカンの前治療歴がある患者がいますが、それらのデータを見てみると・・・
胃癌のDESTINY-Gastric01でも、ORR 43.2%に対してCPT-11前治療歴がある患者で41.7%が奏効していて遜色なく、トポイソメラーゼ-I阻害剤としてのイリノテカンとデルクステカンの交差耐性はあまり問題とならないらしいですね。

肺癌
非小細胞肺癌では免疫染色でのHER2陽性ではなくHER2活性化変異陽性のコホートに対して実施されたDESTINY-lung01試験が発表され、DESTINY-lung02試験も進行中です。ただ、DESTINY-lung01試験を見てもHER2-TKIの前治療の有無では層別化してあってもイリノテカンの前治療の有無は検討されていないようですね…。

どうやら、イリノテカンの前治療歴があるからといってT-DXdの有効性が大きく落ちることを心配するのは考えすぎのようです。
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更新日:2021-10-14 閲覧数:1056 views.