モノクローナル抗体の皮下注射問題
複数の抗体を混ぜて同時投与する
もともと免疫グロブリンは多種多様なものが血中を巡っています。抗「モノクローナル抗体」抗体を別とすれば、抗体と抗体が混ざっても問題はなさそうに思えます。頻繁に併用されるトラスツズマブとペルツズマブでは異なる抗体医薬品を同時投与する報告もあり、特に有害事象を増やすことなく投与時間を短縮できたようです。
#外来ケモ枠争奪戦 と言えば某アカウント氏が書いてたこれすごいな。考えたら当然だけど、2つのmab(トラスツズマブとペルツズマブ)を混ぜて1バッグで同時投与しても効果も副作用も変わらず時間短縮できるという話。
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) October 12, 2017
/Oncologist https://t.co/8LGzC7u9J7
モノクローナル抗体の皮下注射をする
実はモノクローナル抗体の皮下注射はすでに臨床現場でもよく使われています。代表的なのは関節リウマチやクローン病などで使われているアダリムマブ(ヒュミラ)でしょう。自己注射製剤としても承認されています。オンコロジー領域で最もよく使われているのは抗RANKL抗体のデノスマブ(ランマーク)と思われます。
また、現在はほとんど点滴静注で投与されているモノクローナル抗体は、実は投与経路も必ずしも点滴静注でなくても良いことも示唆されています。トラスツズマブの皮下注射製剤に関しては以前から治験が進んでおり、米国でFDAがトラスツズマブとペルツズマブの皮下注射合剤製剤を承認しています。ヒアルロニダーゼと共に投与することで皮下から吸収された際に点滴静注とほぼ同等の効果を示すように設計されています。
トラスツズマブ以外のモノクローナル抗体薬でも開発は進んでおり、KEYNOTE-555試験でペムブロリズマブの皮下注射と静注の比較も行われています。このKEYNOTE-555試験、非常に複雑な設計で、「コホートB」というコホートではペムブロリズマブの3週間毎投与(既存の標準治療)に対して倍量6週間毎投与という投与方も検討されています。
ちなみにペムブロリズマブも静注と皮下注の比較試験を悪性黒色腫でやってる(KEYNOTE-555)。倫理委員会を通すためか対照群に比べて試験群が十分な治療を受けられない不利益を避けるためか、SCとIVを混ぜこぜにした沢山の群で比較するややこしい比較試験になっている。https://t.co/AhEnVbNbdg
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) May 31, 2019
抗CD20抗体リツキシマブでも皮下注射製剤の開発は進んでいます。
皮下注射のメリット
モノクローナル抗体の皮下注射による投与には、投与時間の短縮のほかにもメリットがあります。点滴に比べて調剤が容易で必要な資材や廃棄物も少なく、場合によっては往診・在宅医療での投与が可能となります。これらは広い意味では医療費の削減にも繋がる可能性があります。点滴の穿刺による疼痛も少なくすみます。これは外来化学療法室の混雑にいつも悩まされている現場にとってはありがたいメリットです。
また皮下注製剤は血中濃度の立ち上がりが緩やかになるため、投与時過敏反応(infusion reaction)も起きにくいと言われています。デメリットとしては皮下注射部位の局所の発赤や硬結などの皮膚トラブルがありますが、メリットと天秤にかけると許容されるものではないでしょうか。
モノクローナル抗体ではありませんが他のクラスの分子標的薬では思わぬ副産物も報告されています。多発性骨髄腫の治療に使われるプロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ(ベルケイド)は有害事象として末梢神経障害が問題となることが少なくありません。しかし、ボルテゾミブの静注と皮下注を比較した非盲検無作為化MMY-3021第3相試験では有効性は同等であったにもかかわらず末梢神経障害の全体の発生頻度が3割減、grade3以上に限ると3分の1まで減ることが明らかになったのです。
従来からある治療薬の投与経路を変えることで、同等の効果を維持しつつ副作用を減らすというのはロマンを感じます。新しく高価な治療薬を湯水のごとく使うばかりが治療開発ではなく、このような地道な工夫が広がっていってほしいものです。
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更新日:2020-08-27 閲覧数:1674 views.