レ点腫瘍学ノート

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世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療

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Twitterでも話題になっていた『最高のがん治療』、遅ればせながら読ませていただきました。

どちらかというと専門家向けではなく一般向けの書籍ではないかと考えて、出版されたことは知っていましたがはじめの頃は実際に自分で読んでみようとはあまり考えていませんでした。しかしTwitterで結構話題になっているしAmazonのランキングでも常に上位にいるし(しかも売り切れてしまって品切れの期間が長く増刷されるまで入手困難でした)、当初に自分で思っていた以上に話題になっていたこともあって、これはチェックしておくべきだと考えたのでした。

「最高の〜」というタイトルがTL上では若干の抵抗が感じられるという話題も出ていましたが(ぼく自身も含め*1)、それに関しては著者の大須賀覚先生自身が書かれたタイトルに対する想いのnoteも注目を集めていました。

「最高のがん治療」となぜつけたのか?|大須賀 覚|note
がん治療について解説した初の著書を4月2日に出版します。この本は、勝俣範之先生と津川友介先生と3人で執筆した共著となります。 『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』 実は、この本を作る中で、3人の執筆者と編集者のみんなで協議した中で、ものすごく意見が分かれて、揉めに揉めたところがありました。 それはタイトルでした。 この「最高のがん治療」というタイトルをどう思われたでしょうか?もし、あなたが医療者なら違和感を感じたかもしれません。医療本を良く読む方なら、何だか医師達が書いた本らしくないと思ったかもしれません。 このタイトルは医療者なら普通はつけない
https://note.com/satoru_osuka/n/n95772179ac54

読んでみた感想としては率直に言うと、非常にマジメで几帳面な本だな、と。著者は津川友介先生*2、勝俣範之先生*3、大須賀覚先生*4の3人の連名になっていますが、3人ともTwitterアカウントも持っておられて、Twitterで普段話されている内容をそのまま頭の中から取り出して一般向けの一冊の本になるとこうなるのだな、というような感じがしました。がん患者がトンデモ治療に騙されたり路頭に迷うことがないように、まじめに標準治療がなぜ優れていてもっとも優先すべき選択肢であるのかを、まっすぐに説明しています。

抗がん剤の誤解に関する章

抗がん剤に関する誤解について書かれている部分は、まさにがん患者さんが不安を感じている点に絞って書かれています。抗がん剤治療に関する不安や疑問点は数え上げ始めたらきりがないのですが、実際に患者さんから質問されることが多いポイントを取り上げているところは、臨床に即して地に足ついた情報発信になっていると感じます。

キャンサーボードやセカンドオピニオンなどといった、がん診療でのキーワードについても触れられています。わかりやすい平易な言葉で、正しいがん治療を受けるための知識について解説されています。

腫瘍内科医のこと

腫瘍内科医の重要性についても書かれています。日本ではがんの内科的治療に関するトレーニングが十分ではない(これはがん薬物療法に限らず、たとえば夜間救急などにもある問題ですが)ことが問題になっています。専門医の間ではこの問題は認識されているのですが、一般向けの書籍ではこれについて触れたものはあまり多くなかったように思います。最近は少しずつ是正されつつあるので、今後に期待です。

ただ、腫瘍内科医の不足に関しては地方格差の問題もあって東京ではあてはまっても地方ではまだまだ難しいところもあるかもしれません。ぼくはTwitterでもしばしば言及していますが、1つの診療科になるには最低でも腫瘍内科医が3人くらいはいないと難しいのですが地方都市ではなかなかそれだけの腫瘍内科医がおらず、(日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医も含めて)腫瘍内科医的な仕事をしている人は呼吸器内科や消化器内科という診療科の中で腫瘍内科の名札はつけずに仕事をしていることが少なくないからです。腫瘍内科医の都市部への偏在も今後是正されてゆくことを期待したいですね。。。

がんの予防の章

がんを防ぐために普段の生活で何ができるのかという最後の章は、タバコにもっとたくさんのページを割いてもよかったのでは。タバコと肺がんについては述べられていますが、タバコは肺癌だけでなく食道癌や胃癌や大腸癌、乳癌、膵癌、膀胱癌などの発生とも関連が言われています。タバコの他にASCO(米国臨床腫瘍学会)が個別にステートメントを出しているのは、他に肥満との関係、飲酒との関係があります*5。本章で最初に取り上げられている赤身肉・加工肉も大切かもしれませんが、タバコに割くページ数より多いのはどうかな…(?)。

そして、ぜひ取り上げられてほしかったのはHPVワクチン。日本ではHPVワクチンの接種率が非常に低いことが問題になっています*6。防げたはずのがんの予防が、諸外国に比べて日本では非常に遅れており、その原因は正しい知識の普及が進んでいないことにあるので、本書の「普段の生活で何ができるのか」という章ではぜひ言及していただきたかったと思います。もちろんヘリコバクター・ピロリ除菌療法や肝炎ウイルスに対する治療もそうですが。

おわりに

全体として伝わってくるのは、標準治療を受けることの重要性を伝えたいという熱意と、根拠のない情報に惑わされないようにというメッセージです。がん治療を受ける患者さん本人にとってもそうですが、がん治療を受ける人と過ごしている家族の方なども読んでみると良いかもしれません。がん治療はまだ発展途上の段階かもしれませんが、正しい情報を手に入れて後悔することがないように過ごしていただきたいと思います。

世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療 | 津川 友介, 勝俣 範之, 大須賀 覚 | 医学・薬学 | 本 | Amazon
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*1 https://twitter.com/m0370/status/1245636985898668032
*2 https://twitter.com/yusuke_tsugawa
*3 https://twitter.com/Katsumata_Nori
*4 https://twitter.com/SatoruO
*5 https://www.asco.org/practice-policy/policy-issues-statements/cancer-prevention
*6 http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4

更新日:2020-04-25 閲覧数:2547 views.