BEP療法のスケジュール問題

BEP療法の「流派」問題——施設によってこんなに違う入院スケジュール
胚細胞腫瘍の標準化学療法として確立されているBEP療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)。転移のある精巣腫瘍でも70〜80%の長期寛解が期待できるという、化学療法の歴史を変えた名レジメンである。ところが実際の臨床現場では、施設によって入院日数もブレオマイシンの投与日もけっこう違う、という不思議なことに気づく。
同一の薬剤、同一の投与量、同じ3週サイクルで治療しているはずなのに、ある病院では入院7〜8日でサッと退院させ、別の病院では17〜18日間丁寧に管理する。ブレオマイシンの投与タイミングも、Day 2/9/16が多数派かと思えば、Day 1/8/15を採用する施設もある。国内のがん専門病院や大学病院で公開されている化学療法レジメンや入院クリニカルパスを横断的に調べてみると、この「施設ごとの流派」がよく見えてくる。今回はそのまとめと、それぞれの考え方の背景について整理した。
基本構造はどこも同じ
まず確認しておきたいのは、薬剤の投与量については施設間の差がほぼないという事実だ。シスプラチン20mg/m²×5日間、エトポシド100mg/m²×5日間、ブレオマイシン30mg/body×週1回(計3回)という構成は、日本中のどの施設のレジメン表を見ても同一である。21日を1サイクルとして、予後良好群なら3コース、中間・不良群なら4コースというサイクル数もガイドライン通りだ。
胚細胞腫瘍に対するBEP療法が強調するのは「dose intensity(投与量強度)の維持」である。シスプラチンの登場が1970年代の治療成績を劇的に変えて以来、この疾患では適切な投与量とスケジュールを遵守することが高い根治率の鍵とされてきた。治療の遅延は3日以内にすべきという意見が多い(good riskについては1週間までの遅延は許容されるという報告もある*1)。dose intensityを保つため、施設を問わず「安易な減量は原則許容しない」という方針が徹底されており、たとえ前コースで発熱性好中球減少症(FN)を経験したとしても、基本的には減量ではなくG-CSFの予防投与で次コースに臨むのが標準的なスタンスだ。
ここまでは「同一の流派」である。施設の個性が出るのは、あくまで「どこで、いつ、どのくらいの期間投与・管理するか」というオペレーション面なのだ。
ブレオマイシンの投与日——Day 2/9/16 vs Day 1/8/15
施設間の違いの一つ目は、ブレオマイシンをどの日に投与するかという点だ。国内を調べると、Day 2/9/16が多数派であることがわかる。岡山大学病院*2、宮崎大学病院*3、大分医療センター*4、大阪国際がんセンター*5、国立病院機構神戸医療センター*6、大津赤十字病院*7、同愛記念病院*8などがこのパターンを採用している。一方、静岡市立清水病院*9や近森病院*10はDay 1/8/15を採用している。東北大学病院は精巣腫瘍のBEP療法はDay 1/8/15派*11だが、産婦人科の胚細胞腫瘍のBEP療法はDay 2/9/16派*12として登録されているようで同一院内でも乖離があるようだ。
Day 2/9/16派の理屈はおそらく実務的な理由からきている。Day 1は点滴の開始日であり、大量ハイドレーションを含む点滴総量は3,000mLを超える。そこへブレオマイシンを追加すると、Day 1の輸液時間がさらに延び、患者にとっても医療スタッフにとっても負担が大きい。Day 2にずらすことで、当日の点滴操作を分散させ、より丁寧に管理できるという実用的配慮なのだろう。
一方、国際的なガイドライン——EAU*13やNCCN*14——はDay 1/8/15を標準として記載している。つまり日本国内の多数派は、国際スタンダードと日を1日ずらした形になっている。もちろんどちらのパターンでも治療効果に差はないとされており、この選択は施設の慣習と実務的な都合によるものが大きそうだ。ここには「エビデンスに基づく選択」というよりも、「臨床の知恵として積み上げられた流派」を感じる。
Day 2/9/16派とDay 1/8/15派の違いについて調べてみると、興味深いことに腫瘍内科レジデントのバイブルである医学書院『がん診療レジデントマニュアル』*15を見ると2007年発行の第4版ではブレオマイシンの投与日がDay2/9/16となっているが、2010年発行の第5版から2016年発行の第7版までは「Day1/8/15(またはDay 2/9/16)」との併記の体裁が取られ、2019年の第8版からはDay1/8/15派に転じている。また、南山堂のがん治療エッセンシャルガイド*16も2015年の第3版ではDay1/8/15またはDay2/9/16の併記となっているところが2019年発行の第4版ではDay1/8/15となっている。2010年代に何らかのパラダイムシフトがあったらしい。
この2つの流派の起源を原著論文にさかのぼって追ってみると、Day 2/9/16はBEP療法の「生みの親」であるEinhornらIndiana大学グループの初期の臨床試験(JCO 7:387, 1989など)に由来し、NicholsやSaxman、Loehrerといった同グループの後続試験でも踏襲されている。一方、Day 1/8/15はEORTC(de Witら)、フランスGETUG(Culineら)、北欧SWENOTECA(Daugaardら)といった欧州の大規模共同試験やMSKCC(Motzerら)で採用されたスケジュールだ。EAUやNCCNのガイドラインがDay 1/8/15を標準として記載しているのは、これら欧州系の臨床試験の記載を反映したものと考えられる。ただし、1980〜90年代の初期文献の一部はフルテキストの確認が困難であり、各試験の正確なブレオマイシン投与日について確たることが言えない部分も少なくない。日本のDay 2/9/16の伝統がIndiana大学のオリジナルプロトコルの直系であると推測できるが、その伝播経路の詳細は不明である。
入院期間の「流派」——17日間モデルと7〜8日間モデル
施設間の差がより大きく出るのが入院期間だ。公開されているクリニカルパスを見ると、大きく分けて「長期管理型(15〜18日間)」と「短期集中型(7〜8日間)」の2パターンに分類できる。
岩手医科大学附属病院*17は17日入院タイプの代表例で、「化学療法開始から退院まで通常17日間程度」というパスを運用している。Day 1〜5のエトポシド+シスプラチン投与、Day 9のブレオマイシン、Day 16のブレオマイシンまで全ての投与を入院中に終え、翌Day 17に採血で骨髄抑制を確認してから退院という流れだ。三井記念病院*18の「前日入院」パスも同様の考え方に基づいており、治療前日から入院して化療16日目のブレオマイシンまで全日程を入院管理下に置く。
この長期型の考え方の根拠は明快である。シスプラチンの5日間連続投与では合計17,500〜23,000mLという大量輸液を行うため、腎機能モニタリングと体液管理は在院中でないと難しい。また、投与終了から10〜14日目頃にピークを迎える骨髄抑制の「底」を院内でモニタリングしながら、発熱性好中球減少症の早期対応ができる体制を維持しておくという安全優先の考え方だ。G-CSF製剤の適時使用、感染徴候の早期察知といった対応が、入院環境でこそしやすいのは確かである。
一方、短期集中型の代表は宮崎大学医学部附属病院*19で、Day 7での退院を基準値として設定している。その後のDay 9/16(あるいは8/15)のブレオマイシンは外来化学療法室で対応するという考え方だ。東北大学病院も同様のアプローチで、Day 10とDay 17のブレオマイシンについては「基本的に外来で施行したい」と明示している。
どちらが「正しい」かという話ではもちろんない。長期型は安全性とモニタリングを最優先する保守的なアプローチ、短期型はQOLと社会復帰を重視したアプローチという位置づけだ。AYA世代(15〜39歳)が主な対象であることを考えると、学業や仕事を抱えた若い患者にとって、入院期間が10日縮まることの意味は小さくない。
なお、一昔前までは90日間べったり入院して4コースを全て連続した1つの入院で治療完結するという方法を採用している医療機関は少なくなかったし、今でもそうしている医療機関はある。現在も国立がん研究センターのWEBサイトに約3ヶ月という記載がある*20。実際、骨髄抑制による感染症やその他の有害事象に対する支持療法のために短期入院を繰り返す治療が行えず、中心静脈ルートなどを確保した状態で90日間入院継続となってしまう症例も少なくないと思われる。一方で、聖路加国際病院腫瘍内科のWEBサイトでは、通常入院が必要なBEP療法の化学療法も通院で実施可能であると書かれている*21ので、ハイドレーションが必要であっても通院のみで治療を完結するという積極的な医療機関もあるようだ。
支持療法の「念の入れ方」にも施設差がある
ハイドレーションプロトコルを見ると、こちらにも施設ごとの工夫が透けて見える。シスプラチン投与に伴う腎毒性を防ぐため、Day 1〜5の大量輸液は全施設共通だが、終了後のポストハイドレーション期間(Day 6〜8)をどこまで入院継続するかで違いが出る。岡山大学病院や大阪国際がんセンターはDay 7〜8まで入院してポストハイドレーションを完了させる方針に対して、清水病院などDay 5の投与後に退院を認めている施設もある。
制吐療法についても、シスプラチンが高度催吐性リスク(HEC)に分類されることから全施設で3剤制吐療法(NK1受容体拮抗薬+5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン)が採用されているが、新規薬剤の導入状況には施設差がある。
ブレオマイシンの点滴時間もバラつきが大きく、30分点滴が主流のなか、大津赤十字病院*22では5分間の側管注入という施設差がある。添付文書上は点滴投与には限定されておらず静注・筋注・皮下注などの投与経路が認められている薬剤なので、5分間での注入は特に問題となる投与法では無さそうだ。投与速度と副作用リスク(特に急性反応)のバランスについての考え方が施設によって異なる、ということだろうが、Day 9/16を外来で行うのであれば短時間で点滴が済むのはありがたい。
G-CSFタイミング問題
初回治療のBEP療法では、血球減少などの毒性による治療遅延を3日以内に抑えることが極めて重要であり、そのためには血球減少を軽減するためのG-CSFを上手く使うことが鍵になる。G-CSFは殺細胞性抗腫瘍薬の投与から24時間以内の使用は避けることが望ましいとされているが、BEP療法の治療スケジュール上、具体的にどのタイミングでG-CSFを使うかについて確立されたものはない。ペグ化G-CSF製剤を使いたいところだが、DPC入院中では薬剤費が病院の持ち出しとなることが多く、病院経営的な観点からペグ化G-CSFを使うことは躊躇される(コンベンショナルなG-CSFを毎日繰り返し打つという対処を求められる)。
南山堂の『がん治療エッセンシャルガイド改訂第4版』の胚細胞腫瘍の章を執筆された河野勤先生(佐々木研究所附属杏雲堂病院腫瘍内科)は、私見として、FN発症率は13〜19.4%であるため一次予防としてのG-CSFは必須ではないが、FNがいったん生じると次コースの遅延に直結するため、一次予防としてG-CSFを投与しても良いだろう、と記載されている。その実際の投与スケジュールとしては、Day 1〜5の化学療法が終了して24時間以上経過したDay 7から連日投与し、ブレオマイシンは骨髄抑制が少ないことからDay 8/15(またはDay 9/16)のブレオマイシン投与日と同日にもG-CSF投与を行っていると書かれている。
G-CSFはブレオマイシンと同時使用すると肺毒性を増強する可能性も示唆されていたが、胚細胞腫瘍においてはその因果関係は否定的とされている*23。ただし、非ホジキンリンパ腫でのCHOP療法ではG-CSFにより白血球数が23,000を超える群で肺障害頻度が増加するという報告があるため、G-CSFの投与が過剰にならないよう調整が必要かもしれない。

4コース目のブレオマイシンをどうするか問題
施設間の哲学の違いが最も鮮明に出るのが、「4コース目のブレオマイシンをどうするか」という問題かもしれない。ブレオマイシンの肺毒性は累積投与量依存性であり、3コースまでの重篤な肺障害発生率は0〜2%だが、4コース以上では6〜18%に跳ね上がるとEAUガイドライン*24は記載している。1コースあたり90mg(30mg×3回)なので、4コース完遂すると累積投与量は360mgになり、一般的な上限目安とされる300mgを超過する。
この問題に対し、和歌山医科大学*25とJCHO横浜中央病院*26は4コース目のブレオマイシンを省略してEP療法に変更する方針を明示している。一方、同愛記念病院*27は「4コースで360mgとなるが許容される」という立場をとっている。どちらの方針が正しいかについての前向きランダム化比較試験は(おそらく)存在せず、各施設が自分たちの臨床経験と毒性への許容度に基づいて判断している、というのが実態だ。
精巣腫瘍診療ガイドライン(日本泌尿器科学会)*28は、間質性肺炎や肺線維症が疑われた時点でのブレオマイシン即時中止を強く推奨しており、その後の代替レジメン(予後良好群ではEP、中間・不良群ではVIP)への切り替えを示している。いずれにせよ、4コース目に入る前後は呼吸機能モニタリングを強化し、早期の異常を見逃さない体制を整えることが最重要だろう。
スタンダードな5日間レジメンと、世界では使われる3-Day BEP
最後に、日本ではほぼ採用されていないが海外では使われている「3-Day BEP」についても触れておきたい。英国(Cambridge University Hospitals*29など)で使用されているこの変法では、エトポシド165mg/m²をDay 1〜3、シスプラチン50mg/m²をDay 1〜2に投与する。入院期間は3日間と大幅に短縮され、EORTC/MRCの第III相試験(de Wit Rら、2001年)*30で日本標準の5日間レジメンと同等の治療効果が証明されている。
日本のガイドラインは現時点で5日間レジメンを標準として位置づけており、3-Day BEPは「選択肢の一つ」という扱いにとどまっている。患者のQOLや医療経済の観点からは注目すべきエビデンスだが、日本の臨床現場での普及はなかなか難しそうだ。
まとめ——流派があることの意味
BEP療法は「投与量」「コース数」「大枠のサイクル」については高度に標準化されたレジメンだ。しかし「ブレオマイシンの投与日」「入院期間の長さ」「ポストハイドレーションの徹底度」「4コース目の扱い」といったオペレーション面では、施設ごとの流派が存在する。
この「流派」の存在は必ずしも問題ではない。どのオペレーション方針が正しいかについてのRCTは行われていないし、患者背景(居住地、独居かどうか、社会的サポートの有無、合併症リスク)によって最適解が変わるのは当然だ。重要なのは、「自分の施設がなぜその方針を取っているのか」を理解したうえで運用することだと思う。
BEP療法は、適切に投与すれば転移のある精巣腫瘍でも70〜80%を治癒させる、化学療法の中でもとりわけ「治癒目的の治療」として際立った存在だ。その強みを最大限に引き出すための「21日サイクルの厳守」「dose intensityの維持」という原則は施設を問わず不変であり、あとの細部は「いかに安全に、いかにQOLを守りながら」届けるかの工夫の差だろう。
*1 Cancer 6:857-861,1990
*2 https://www.kango-roo.com/learning/4131/
*3 http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/yakuzai/files/2022/04/Testicular-Cancer_20220408.pdf
*4 https://oita.hosp.go.jp/section/files/402_yakuzaibu/regimen/D_hinyoki/D_08.pdf
*5 https://oici.jp/file/202207/gansyu/08A0001a_20220719.pdf
*6 https://kobe.hosp.go.jp/department/pharmaceutical-department/regimen/ransougan/01.pdf
*7 https://www.otsu.jrc.or.jp/wp-content/uploads/2025/10/20N004.pdf
*8 https://www.doai.jp/sinryo/hinyoukika/pdf/setsumei08.pdf
*9 https://www.shimizuhospital.com/dist/wp-content/uploads/2020/03/52ee20f6e462e87ea8c2a48191543949.pdf
*10 https://hospital.chikamori.com/department/asset/316_regimen85.pdf
*11 https://www.cancercenter.hosp.tohoku.ac.jp/naiyou/iryou1/16_2.html
*12 https://www.cancercenter.hosp.tohoku.ac.jp/naiyou/iryou1/20_4.html
*13 https://uroweb.org/guidelines/testicular-cancer
*14 https://www.nccn.org/guidelines/guidelines-detail?category=1&id=1468
*15 https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/105521
*16 https://www.nanzando.com/products/detail/42024
*17 https://www.hosp.iwate-med.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2019/07/26f32088d6046d743a588031fde3d644.pdf
*18 https://www.mitsuihosp.or.jp/media/urology_2906_20230303.pdf
*19 http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/clinicalpathway/wp-content/blogs.dir/5/files/2013/01/5bd2f0f74caa423e29311c3bfb3fcb80.pdf
*20 https://www.ncc.go.jp/jp/information/knowledge/Testicular/004/index.html
*21 https://hospital.luke.ac.jp/guide/43_medical_oncology/index.html
*22 https://www.otsu.jrc.or.jp/wp-content/uploads/2025/10/20N004.pdf
*23 Chest 111:657-660,1997
*24 https://uroweb.org/guidelines/testicular-cancer
*25 https://www.wakayama-med.ac.jp/hospital/iryo/gan-rejimen/files/20250306hinixyokika.pdf
*26 https://yokohama.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2020/05/20200525_10hinyoukigan.pdf
*27 https://www.doai.jp/sinryo/hinyoukika/pdf/setsumei08.pdf
*28 https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/48_testicular_tumor.pdf
*29 https://www.cuh.nhs.uk/patient-information/bep-chemotherapy-3-day-regimen-treatment-for-good-prognosis-metastatic-germ-cell-tumour-of-the-testis/
*30 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11250991/
更新日:2026-03-02 閲覧数:433 views.