レ点腫瘍学ノート

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ジェネティック・ラウンズ 臨床遺伝医が出会った16のストーリー

ジェネティック・ラウンズ 臨床遺伝医が出会った16のストーリー | ロバート・マリオン, 沼部博直, 中川奈保子 |本 | 通販 | Amazon
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臨床遺伝専門医の素顔を見ることができる一冊

21世紀になってから急激にがんに関する分子遺伝学的な性質が明らかにされ、それに呼応するようにがんの分子標的治療が発展するにつれて、がん診療の場においても個々の患者の遺伝的背景や家族性腫瘍の病態について理解することの重要性が増している。一方で、これらの問題はただでさえ難しかった「がん患者へのバッドニュースの伝え方」「がん患者を取り巻く人間模様の捉え方」の複雑さに拍車をかけている。それなのに、我々のようながん診療従事者は臨床遺伝学の重要性を感じつつも、これまで臨床遺伝の専門家がどのような考え方をしてどのように患者やその家族と接してきたのかを深く知る機会をなかなか得ることができずに過ごしてきた。

本書の著者であり主人公であるロバート・マリオン先生は小児科ベースの臨床遺伝専門医である。したがって本書で取り上げられる16のエピソードはトリソミーや代謝酵素欠損症などの小児遺伝性疾患が主であり、我々がん診療従事者が接することの多い遺伝性疾患、すなわち遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)やリンチ症候群などのケースは出てこない。しかし、患者に見られる異常所見から遺伝性疾患の可能性を探り出して診断につなげる点、そして診断がついたあとには患者と家族にどのようにそれを伝え、身体的にも精神的にも彼らをフォローしてゆくかという点は、十分に我々がん診療従事者も共感でき、その姿勢から学ぶべきことが多い。その疾患は現在および今後患者にどのような症状を与えてゆくのか、患者本人だけでなくその兄弟姉妹や子や孫も巻き込んだ病気への向き合い方をどのように考えるか、結婚や出産といった将来の大きなライフイベントにはどのように影響するのか。

一人の人間としての患者にどう関わるか

旧来のがん診療の場では患者本人が直面している「がんとの闘病」に向き合うことで精一杯になり、患者の背景にまで踏み込んだこれらの問題まで顧みられることは少なかったかもしれないが、今後はそうではない。がん診療においても、いや、むしろがん診療の場では他の領域と比較してより一層、遺伝性疾患を抱えた患者に対して病との闘いにとどまらない深いレベルで関わってゆくことが必要になっているのではないか。

もちろん本書に登場するストーリーは、ハッピーエンドばかりではない。取り上げられる疾患はいずれも難病ばかりであるし、多くの場合は有効な治療法もない不治の病である。遺伝子異常に基づく遺伝性疾患の確定診断を下すということは、一生逃れられないものを背負っていることを宣告することでもある。周りの家族も大きく動揺し悲嘆するし、中にはその疾患の重さを受け止めきることができず、これが誘因となって1つの家族が崩壊してしまうケースもある。しかし、1つ1つの症例とそれを取り巻く人々のストーリーは考えさせられるところが多く、引きこまれるように読めてしまう。人間はどのような心の交流を行なっているのか、心の奥底にどのような感情を抱いているのか。死を意識し始めたがん患者を取り巻く死生観とはまた異なった切り口での、人間が生きるということはどういったことなのかについて、考えを巡らせることになるだろう。マリオン先生は経験の豊富なベテランの医師ならではの抱擁力を以って困難な状況の中からも解決の糸口を見いだすこともあるが、ときには臨床遺伝の専門医であっても簡単には答えが出せないような問題に突き当たり、深く思い悩んだり葛藤したりすることもある。そのような場合にも、責任感をもって誠実な姿勢で患者とその家族を支え、病気を受け容れることを促してゆく様子が詳細に描かれている。

リアリティを感じる現場の描写

読んでいて親近感を感じる場面は、人手も少ない夜間の当直中に起こった患者の異変に、若い小児科レジデントが困惑しながらも懸命に孤軍奮闘する場面。難病を抱えた小児が次々と急変する勤務の忙しさに苛立ちながら、果たして自分の処置がこれでよいのかと不安を抱く当直の夜は、診療科を問わず医師ならば誰しもが経験したことのある局面だろう。ぶつけるところのない苛立ちと、逃げ出したいような恐怖と、自分がしっかりせねばと思う責任感の間でかろうじてバランスをとりながら踏ん張った夜のことを思い出す。そしてそんな夜だからこそ忘れられないような医療者と患者の心の交流のエピソードが生まれたりすることもある。本書の中ではマリオン先生は、ことある毎に患者と一緒に泣いてしまう非常に涙もろい医師だが、それだけに人情味あふれる風景が数多く描かれている。

翻訳者(翻訳者の中川奈保子氏自身が日本では希少な認定遺伝カウンセラーの1人である)はあとがきで本書の元となる“genetic rounds”(Kaplan Publishing)への憧れとその翻訳に従事できることの喜びについて書いている。その豊かな翻訳技量もあって、本書は臨床遺伝に関する予備知識を持っていない一般読者にも読みやすく、一気に読めてしまう面白さを持った魅力的な医療ノンフィクションの書籍である。

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更新日:2019-12-24 閲覧数:1754 views.