FoundationOne Liquid CDxの承認
2021年3月22日にFoundationOne Liquid CDxが承認されたようです。FDAでは2020年8月下旬に承認されていました。価格はまだ未定です。
FoundationOne Liquid CDxが承認されると、手術検体や生検検体を必要とするFoundationOne CDxと異なり、末梢血中のctDNAでがん遺伝子パネル検査を実施することが可能となります。これによって検体が採取しにくい固形がん(たとえば膵癌や前立腺癌)でのがん遺伝子パネル検査へのアクセスが一気に改善することが期待されます。
米国FMIのウェブサイトを見ると、FoundationOne CDxはパッケージがオレンジ色でしたが、FoundationOne Liquid CDxはパッケージがライトグレーになるようです。
FoundationOne LiquidとFoundationOne Liquid CDxの違い
FoundationOne LiquidとFoundationOne Liquid CDxは中身違うのか
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) February 21, 2021
検査対象遺伝子は既存の組織を用いたFoundationOne CDxと同じ324遺伝子です。CDxではない初期のFoundationOne Liquid*1(CDxが付かない方)では対象遺伝子は70遺伝子となっておりましたが、後からでてきているFoundationOne Liquid CDxはFoundationOne Liquidと異なり対象遺伝子数もFoundationOne CDxと同等まで増加しています。
サンプルレポートを見るとTMBやVAFは算出可能
FoundationOne Liquid CDxはリキッドだけどFMIのサンプルレポートを見るとVAFはレポートに掲載してくれるんだな。腫瘍細胞比率Tumor Fractionも表示してくれてるし、Guardant360は分母が非腫瘍細胞も含めた全cfDNAだけどF1 liquidの分母は腫瘍由来ctDNAだけなのかしら。https://t.co/rzuxSIKSK3
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) January 19, 2021
また初期の臨床研究などで使われていたFoundationOne LiquidではVAFがレポートに掲載されてなかったようですが、今回承認されたFoundationOne Liquid CDxではVAFも算出されるようです。
米国FMIのサイトですでに公開されているFoundationOne Liquid CDxのサンプル症例のレポート*2を見るとMSIおよびTMBの判定が可能であるほかに、ctDNA全体から計算されるTumor Fraction(腫瘍細胞割合)をもとにしたVAF(variant allele frequency、腫瘍細胞割合)が表示されています。
後日追記情報: MSIやTMBなどの情報は日本での厚労省承認の範囲から外れたため、「いわゆる2ページ目」には載らず、それ以降のページのprofessional service(参考情報)として掲載されるようです。
例によって保険承認対象となったFDA APPROVED CLAIMSのページ(本邦ではいわゆる「2ページ目」)ではなく承認外のPROFESSIONAL SERVICESのページにTumor FractionやVAFが掲載されているので、本邦でも米国のサンプルと同じようなレポート内容になるんじゃないかしら(予想)
— レ点.bot💉💊🧬 (@m0370) January 19, 2021
リキッドバイオパシーは融合遺伝子検出能が低い可能性あり
FoundationOne Liquid CDxはSNV(単塩基変異)やindel(挿入欠失変異)の検出に関する性能はFoundationOne CDxと同等であるものの、融合遺伝子や転座、大規模なlossを含むCNA(コピー数変異)の検出力は若干劣る可能性が示唆されています。
これはFoundationOne Liquid CDxそのものが劣っているというわけではなく、ctDNAが血中の150-200bpのDNA断片であるということからそもそも広い幅のDNAに生じた遺伝子異常がctDNAに現れにくいという本質的な原理によるものと思われます。
FoundationOne Liquid CDxはエヌトレクチニブなどの融合遺伝子を対象にする薬剤のコンパニオン診断機能を備えてはいますが、たとえば胆管癌のペミガチニブに対するコンパニオン診断機能などの承認を将来取ったとしても、胆管癌で組織が取れる症例であれば組織検体でのFoundationOne CDxを提出する方が治療につながる割合が高いかもしれません。
コンパニオン診断機能は組織FoundationOne CDxより限定的
コンパニオン診断としての機能はFoundationOne Liquid CDxも若干備えているものの、FoundationOne CDxと違って対象となるのは現状では肺癌のTKIとNTRKなどに限られているようです。特に検体の取りにくさからFoundationOne Liquid CDxの出番が期待されていた去勢抵抗性前立腺癌に対するオラパリブのBRCA変異検出のCDxとしては現状ではFoundationOne Liquid CDxは使用できないようです(将来的にはコンパニオン承認をとる可能性はあります)。
2021年3月22日時点のコンパニオン機能の承認
非小細胞肺癌
- 活性型EGFR遺伝子変異
アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、オシメルチニブ - EGFRエクソン20 T790M変異
オシメルチニブ - ALK融合遺伝子
アレクチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ - ROS1融合遺伝子
エヌトレクチニブ
固形がん
- NTRK1/2/3融合遺伝子
エヌトレクチニブ
したがって現在のFoundationOne CDxで承認されているコンパニオン診断能と比べるとBRCA 1/2やBRAF V600E、FGFR2融合遺伝子やMET遺伝子エクソン14スキッピング変異などのコンパニオン診断機能が欠けていると言えます。FoundationOne CDxの方も徐々にコンパニオン診断機能が増えてきたので、FoundationOne Liquid CDxの方も今後コンパニオン診断機能が徐々に充実してくるものと思われます。
生涯のパネル検査の実施可能回数は?
リキッドバイオプシーが可能となれば標的治療開始前の治療選択のほかに、治療効果判定や耐性出現判定にも使われることが期待でき、FoundationOne Liquid CDxが使えるようになればパネル検査が生涯で1回という縛りが生涯で2回に緩和されるのではないか?との噂もあったようですが、今のところはパネル検査の実施回数が変更されるという情報は出ていないようです。
おわりに
これまでのFoundationOne CDxに比べて検体が採取しにくい腫瘍では特にFoundationOne Liquid CDxへの期待も強かったようです。今回当初予想されていたとおり春に承認されたのは喜ばしいニュースです。ただし保険償還価格が未定なので使用開始できるようになるにはもう少し日がかかりそうですね。
また、エキスパートパネルは現在でもどこのがんゲノム医療拠点病院でもかなりカツカツなのが現状です。FoundationOne Liquid CDxが認められることでがん遺伝子パネル検査のハードルが下がると検査数も増えると思われます。すでに現状でも前立腺癌のオラパリブのコンパニオン検査としてのsomatic BRCAをどうやって検査するかという問題が現場を悩ませていますが(今回のFoundationOne Liquid CDxでBRCAのコンパニオン診断機能が搭載されなかったのは現場にとっては少し負荷軽減になったかもしれません)、増加する一途のエキスパートパネル症例をどのようにさばくのかという運用の問題も顕在化しそうです。エキスパートパネルのフロー整備に関する議論はまだまだ課題が山積みです。
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*1 https://assets.ctfassets.net/vhribv12lmne/3SPYAcbGdqAeMsOqMyKUog/d0eb51659e08d733bf39971e85ed940d/F1L_TechnicalInformation_MKT-0061-04.pdf
*2 https://images.ctfassets.net/w98cd481qyp0/2WrnIMZmkoE22dKqn7sj3j/44e3a50e625d6492d1820714ef38456f/F1LCDx_NSCLC__EGFR_CDx_Sample_Report_102020.pdf
更新日:2021-03-23 閲覧数:3138 views.