レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2024年 / 8月24日

医学系学会におけるSNS利用の新潮流

学会 SNS

学会発表の写真撮影とSNSアップロードの潮目が変わる年

この1〜2年、国内の医学系学会のSNS利用に大きな変化が起こりつつあります。かつては厳格に禁止されていた録音や撮影やSNSへのアップロードが、徐々に許可される方向に進んでいます。海外では以前からこの動きはありましたが、国内になかなか入ってくる様子がありませんでした。しかし、いよいよ日本でも学会の写真撮影やSNSアップロードを行うことが一般的になってくるかもしれません。

欧米学会の先行事例

欧米の学会では、録音や撮影、SNSでの情報発信が一般的に行われています。例えば、ASCO(American Society of Clinical Oncology)やESMO(European Society for Medical Oncology)などの国際的な学会では、発表スライドを写真に撮ってSNSやブログにアップロードすることが一般的になっています。皆さんもASCO会期中やESMO会期中に、学会発表があった瞬間すぐにTwitterなどのSNSに大量のスライド画像が流れてきて、それについて会場だけでなく世界中のオンコロジストがディスカッションを繰り広げている様子を目にしたことがあるのではないでしょうか。

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上の図はJSMO2024のSNS-WGシンポジウムで上原先生が発表されていたスライドですが(同演題はオンデマンド配信もされ、撮影やSNSへのアップロードも特例的に許可されていました)、ここにあるように肖像権や著作権の「細かいことは気にせずに情報発信できる環境がある」のが日本の学会と異なるところのように思えます。このSNS-WGは特例的に写真撮影やスライドアップロードが解禁されていましたが、本来はこれが学会の(極めて個人が特定されやすい内容を扱う演題などをのぞき)ほぼ全てのディスカッションで解禁されるべきだろうという風に思います。

参加者は、得た情報をより広く共有する手段としてSNSを活用しています。このような手段を広く認めていることによって有用な情報の拡散を助け、より多くの人々が最新の研究にアクセスできるようにするための重要なステップとなっています。これにより、学会で共有される知見が、より広範に、迅速に伝達されるようになっています。今やこのSNSというプラットフォームを使わない方がもったいないでしょう。

日本国内学会の動向

日本国内の学会では、これまでSNSへの発信が制限されている場合が多かったのですが、最近では変化の兆しが見られています。

最初に変化が見られ始めたのは2023年の日本癌学会です。ここでは、学会発表などの発表内容がインターネットに自由に投稿される可能性があることが明示されており、アップロードを拒否したいスライドには「DO NOT POST」を付けておくことが推奨されました。同様の方法は2024年の日本癌学会2024年の日本病理学会の総会でも採用されています。

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第82回日本癌学会学術総会では、発表内容を公式Twitter/Facebookならびに参加者のSNSで発信すること、またそのためにスライドや発表者が写真撮影されることが許可されます。撮影やSNS配信されたくないスライドやポスターの該当部分については、「DO NOT POST」の掲示をお願いします。「DO NOT POST」の掲示がない場合は、SNSに投稿される可能性があります。
同意いただけない場合は演題を登録することはできません。

いずれも基礎研究色が強い学会であるため、臨床系の学会ではこのような動きはなかなか導入される様子がありませんでした。日本循環器学会が数年前から、また日本緩和医療学会も前回から始めていたように、学会が認定したサポーター・アンバサダーだけが投稿を自由に行えるという限定的解禁をしている学会はありましたが、学会の一般参加者が自由に写真を撮ったりSNS投稿できるような臨床系の学会は今まで国内には無かったのです。

今の注目事例〜日本癌治療学会のSNSアップロード解禁〜

先日メディカルノートに掲載された日本癌学会理事長の吉野孝之先生のインタビューでは、欧米の学会が既に録音や撮影、SNSでの発信を許可する方向であることが強調されています。このような変化は、学会における情報の透明性とアクセスの向上を目指したものです。

内科出身は初 日本癌治療学会・吉野理事長に聞く 学会の役割と目指すあり方
日本癌(がん)治療学会の第8代理事長に、吉野孝之・国立がん研究センター東病院副院長が就任した。初代から7人続いた外科出身者の後を受け、初めての内科出身理事長となる。組織の革新を望む声に押されたという吉野理事長に、学会の役割と目指す...
https://medicalnote.jp/nj_articles/240725-001-BV

そして、ここに至って、日本癌治療学会が第62回学術集会から発表内容のSNS投稿を解禁する方針を打ち出したようです。以下は10月に開催される日本癌学会2024年総会の演題採択通知に記載されていたメッセージです。

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【発表スライドの撮影、SNS投稿解禁のお知らせ】
日本癌治療学会では、第62回学術集会より、発表内容を公式X(旧Twitter)やInstagram、あるいは参加者のSNSで発信すること、また、そのために発表スライドや発表者が写真撮影されることを許可いたします。
撮影やSNS配信されたくないスライドやポスターの該当部分については、「DO NOT POST」の掲示をお願いいたします。
「DO NOT POST」の掲示がない場合は、SNSに投稿される可能性があることをご了承ください。
なお、「DO NOT POST」を掲示されたにも関わらずSNSに掲載された場合は、学会側は責任を負いかねますので合わせてご了承ください。

一気に写真撮影やSNS投稿を解禁しており、そして日本癌学会2023年方式と同様にアップロードされたくないスライドに「DO NOT POST」を付けるように明示している、逆に言えばこれがないスライドのページは自由に投稿されうるということになっています。

これにより、参加者は公式X(旧Twitter)やInstagramなどを通じて、学会で得た情報を広く発信できるようになります。ただし、発表者は「DO NOT POST」の掲示を通じて、特定のスライドやポスターの撮影を控えるよう求めることができる仕組みも導入されています。これにより、情報の自由な発信が可能になりました。と同時に、発表者だけでなく参加者にも情報を適切に扱うリテラシーが求められるようになります。

今後の展望

このような変化は、学術集会のオンライン配信が普及したこととも密接に関連しています。コロナ禍におけるビデオ会議の普及は、学会における情報共有の在り方を大きく変えました。オンライン配信は、地理的な制約を超えて参加者を集めることができ、情報の伝達を迅速かつ広範に行うことが可能となりました。これに伴い、SNSを活用した情報発信も解禁され、学会はよりオープンでアクセスしやすいプラットフォームへと進化しています。

もはや狭い会議室の中だけで行われるものではなくなってきており、ディスカッションの場もインターネット空間に移りつつあります。そうなると、学会発表を狭い部屋の中にクローズドにしておく意味も薄れてくるでしょう。

今後、医学系学会の発表内容のスライド撮影やSNS投稿は、学術情報の共有をより広範にし、学会自体を多くの人々に開放するための重要なステップとなるでしょう。欧米の先行事例を参考に、日本の学会もこの潮流に乗り始めています。今後、SNSを活用した情報発信がどのように進化し、学会の在り方にどのような影響を与えるか、注目されるところです。これにより、参加者はもちろん、学会に参加できなかった人々にとっても、最新の研究成果に触れる機会が増えることが期待されます。

参加者は、情報を広く共有することができる一方で、発表者は自身の研究やデータがどのように公開されるかをコントロールする意識を持つ必要がありそうです。

この変化により、学会がどのように進化し、参加者や発表者にどのような影響を与えるかが注目されます。今後もこの流れが加速し、他の学会にも波及する可能性があります。医学系学会の発表内容のスライド撮影やSNS投稿のあり方は、これからも大きく変わっていくでしょう。


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更新日:2024-08-24 閲覧数:766 views.