レ点腫瘍学ノート

Top / 日記 / 2024年 / 9月18日

ESMO2024の感想

学会 ESMO

2024年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が、スペインのバルセロナで盛大に開催されました。世界中のオンコロジストが一堂に会し、最新のがん研究と治療法について熱い議論を交わした5日間は、まさに「がん医療の祭典」と呼ぶにふさわしいものでした。

https://oncologypro.esmo.org/meeting-resources/esmo-congress-2024

SNSでも盛り上がるESMO

ESMO当局が学会発表スライドをSNSに投稿することについてどう考えているかは下のツイートが端的に表していて、要するに学術集会に参加したらその体験を共有して世界中のオンコロジストと意見交換しろ、そのために #ESMO24 のハッシュタグを付けてどんどん投稿しろ、とのこと。https://t.co/0epCVd50et

— レ点🧬💉💊 (@m0370) September 15, 2024

今年のESMOは、ソーシャルメディアを活用した情報共有が特に顕著でした。#ESMO24のハッシュタグを使用して、参加者たちが発表スライドや議論をリアルタイムで共有。ESMOの公式アカウントもこの動きを全面的に支持し、「学会体験を共有し、世界中のオンコロジストと意見交換しましょう」と参加者たちに呼びかけていました。この姿勢は学会の熱気を高めるのにも役立っているのは間違いなさそうですが、日本の学術集会でも見習っていきたいところです。

学術誌との連携

#NEJM のトップページが #ESMO24 関連のオンコロジー記事に完全に占拠されている!すごい勢いだ。 pic.twitter.com/fGDrXzhdxc

— レ点🧬💉💊 (@m0370) September 16, 2024

ESMOの開会式で、学会期間中に25の論文が同時発表されることが予告されました。その内訳は、Annals of Oncologyに13本、New England Journal of Medicineに8本、Nature Medicineに2本など、トップジャーナルへの掲載が目立ちます。特にNEJMに掲載される研究は、標準治療を大きく変える可能性を秘めており、開会式の時点で参加者の期待を高めました。

データが物語る驚異的な進歩

dMMR/MSI-H大腸癌では引き続き免疫チェックポイント阻害薬が無双する状況

やばいその1、NICHE-2試験。dMMR大腸癌の術前にニボイピ1回投与、2週間後にニボ1回投与で手術。手術時点で6割pCR、術後3週間でctDNA陰性化率100%、3年時点で無再発生存率(DFS)100%。データがとち狂っている!#ESMO24https://t.co/6me8eN6hdm

— レ点🧬💉💊 (@m0370) September 15, 2024

今年のESMOで最も衝撃的だったものの一つのは、dMMR/MSI-H大腸がんに関するデータでしょう。NICHE-2試験では、術前のニボルマブ+イピリムマブ併用療法により、3年時点での無再発生存率が100%という驚異的な結果が報告されました。さらに、NICHE-3試験では、ニボルマブとLAG-3抗体の併用により、97%の症例で病理学的奏効が得られたとのことです。これらのデータは、がん治療の新時代の幕開けを告げるものと言えるでしょう。

腎細胞癌に対する免疫チェックポイント阻害薬のリチャレンジはネガティブ

The RCC TiNivo-2 study may have been overall negative, but it highlighted: 1️⃣ CKI shouldn’t continue in IO-refractory disease. 2️⃣ Selective VEGF TKIs like tivozanib can have activity in the post-IO setting. 3️⃣ TKI dosage matters. #RCC #ESMO24 #TiNivo2 https://t.co/g6ftp3TPkW

— Katy Beckermann (@katy_beckermann) September 17, 2024

TiNivo-2試験は、腎細胞癌における免疫チェックポイント阻害薬のリチャレンジ(beyond PD)の効果を検証しました。チボザニブとニボルマブの併用療法が注目を集めましたが、抗PD-1抗体後のニボルマブリチャレンジはPFSを改善しないという結果となりました。この試験は、腎癌における免疫チェックポイント阻害薬の継続期間に関する問題に一定の答えを出したと言えるでしょう。主要評価項目的にはネガティブな結果でしたが、この1演題から多くの議論と臨床的疑問が生まれ、参加者間の活発な意見交換を促進しました。

乳癌では中国由来の二重特異性抗体が次世代治療薬の候補に

#ESMO24

中国のbispecific抗体のTNBCに対する有効性
ivonescimab bispecific抗体PD-1&VEGF
PM8002/BNT327 bispecific抗体PD-L1 & VEGF-A
いずれもnabPTXの併用療法
TNBCに対する有効性がすごく期待できる結果に。 pic.twitter.com/RHTcy97nJq

— tatsunori_shimoi (@shimoi_oncology) September 16, 2024

中国のbispecific抗体のTNBCに対する有効性が相次いで発表されました。イボネシマブはPD-1とVEGFの二重特異性抗体、PM8002/BNT327はPD-L1とVEGF-Aの二重特異性抗体です。いずれも非常に期待が持てる結果です。

がん悪液質への新たなアプローチ:抗GDF-15抗体ポンセグロマブ

がん悪液質に対する新規標的治療の発表も注目を集めました。肺癌、膵癌、大腸癌の悪液質サイトカインGDF-15高値の患者に対し、GDF-15抗体ポンセグロマブ400mgを投与したところ、食欲増進、体重増加、活動性スコア向上が見られました。この研究結果はNew England Journal of Medicine(NEJM)に同時掲載され、がん患者のQOL改善に新たな希望をもたらしています。

Ponsegromab for the Treatment of Cancer Cachexia - PubMed
Among patients with cancer cachexia and elevated GDF-15 levels, the inhibition of GDF-15 with ponsegromab resulted in increased weight gain and overall activity level and reduced cachexia symptoms, findings that confirmed the role of GDF-15 as a driver of cachexia. (Funded by Pfizer; ClinicalTrials. …
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39282907/

免疫療法の用量最適化:NVALT-30試験

Low dose versus standard dose pembrolizumab for treatment of stage
IV stage NSCLC:
Results of the pre-planned interim analysis of the NVALT-30 clinical trial
❓Will this be the end of the discussion? Thoughts? #ESMO24 #LCSM pic.twitter.com/I0SnV2A3yf

— Dr. Antonio Calles 🫁🚭 (@Tony_Calles) September 14, 2024

NVALT-30試験は、非小細胞肺癌におけるペムブロリズマブの減量投与の有効性を検証しました。300mg/6週または100mg/3週の減量投与群と標準投与群で生存率に有意差がないことが示されました。この結果は、治療効果を維持しつつコスト削減の可能性を示唆しており、世界各国のオンコロジストから大きな反響を得ました。日本の医療体制では治療の「間引き」に抵抗感があるものの、このような視点も今後重要になってくるかもしれません。

神経内分泌腫瘍に対するカボザンチニブ

#ESMO24 @myESMO
CABINET - ph3 cabozantinib vs placebo in pre-treated advanced #Neuroendocrine NETs @ALLIANCE_org @NEJM Jennifer Chan
📌results presented by BICR for epNET and pNET
➡️ORR 5% vs 0 in epNET, 19% vs 0 in pNET
➡️PFS HR 0.38 in epNET, HR 0.23 in pNET@OncoAlert @OncEdpic.twitter.com/xN24YBuPoW

— Sharlene Gill, MD, MPH, MBA, FASCO (@GillSharlene) September 16, 2024

CABINET試験では、膵神経内分泌腫瘍(pNET)に対するカボザンチニブの驚異的な効果が報告されました。無増悪生存期間(PFS)のハザード比0.23という結果は、ESMO 2024で最も強力なものの一つとされ、最近の他の大規模試験の結果に匹敵する水準でした。この研究結果もNEJMに同時掲載され、pNET治療に新たな選択肢をもたらしました。

Phase 3 Trial of Cabozantinib to Treat Advanced Neuroendocrine Tumors - PubMed
Cabozantinib, as compared with placebo, significantly improved progression-free survival in patients with previously treated, progressive advanced extrapancreatic or pancreatic neuroendocrine tumors. Adverse events were consistent with the known safety profile of cabozantinib. (Funded by the Nationa …
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39282913/

医療者のバーンアウト:深刻化する問題

一方で、個々の臨床試験の研究だけでなく、AIとなど最新技術の利活用に関するセッションや医療者のバーンアウトが深刻化しているという問題に関するディスカッションもあったようです。最先端の医療技術が次々と登場する一方で、それを支える医療者の心身の健康が危機に瀕しているという現実が浮き彫りになりました。特にバーンアウトしてしまう医療従事者は日本にもいるはずなのですがこのような重要なテーマとして学会の課題に挙げられることは多くはなく、このあたりも日本の学術集会が海外の学会を参考にしても良いポイントかもしれません。

まとめ

ESMO 2024は、がん医療の急速な進歩が盛り上がっていることを改めて感じさせる5日間でした。新治療の登場、ADCなどの最新技術の台頭、そしてより低侵襲でQOLの高い治療など、多岐にわたるトピックスが議論され、また世界中のオンコロジストたちがその様子をインターネットを通じて目にすることもできました。引き続き、国内でもオンコロジーを盛り上げてゆけるようにがんばってゆかなければいけません。


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更新日:2024-09-18 閲覧数:143 views.